婚約披露パーティーが始まりました
ローウェル侯爵家に移動した私は…あまりにも立派な宮殿のようなお屋敷に卒倒しそうになった。いや、ローウェル侯爵家と言えば名門中の名門の家柄で、これまでにも王家との婚姻を何度も結んでいる由緒正しい家柄だとの事。
侯爵家の分家の一つでしかない我が家と比べる事自体が烏滸がましいのだけど…それにしたって格差があり過ぎる…
外観で既に怖気づいた私だったけれど、屋敷に入るなり玄関ホールの広さに驚愕し、そこにずらっと並んでいる使用人の列に卒倒しそうになった。なにこれ、こんなにたくさんの使用人がいるの?見えている人だけで我が家の五倍はいそうだけど…
もう廊下だけでも我が家の一番上等な客間よりも立派だったので、考えるのも嫌になってきた。ああ、こんなお金持ち、実際にいるんだなぁ…と遠い目になるのは許して欲しい。薄給サラリーマンには一生縁がない世界なんだもの…
客間でローウェル様…じゃなかった、アイザック様から筆頭家令と侍女頭を紹介された。筆頭家令はグレッグさんと言い、見た目は冷たそうだけど話をすると人のいいお祖父ちゃんって感じだ。侍女頭はエノーラさんと言って、ふくよかでビシバシ働きそうな中年女性だった。二人共有能なのは間違いないだろう。
こういう場合、下級貴族の娘ごときが…!って言われるのかなぁ…と不安しかない私だった。パワハラされていただけに、身構えちゃうのがデフォルトになっているのだ。だけど…
「ようこそいらっしゃいました!」
「ローウェル侯爵の家令一同、セラフィーナ様とのご婚約を心よりお祝い申し上げます!」
何とも、予想外に大歓迎されてしまった。お陰で私の目は一時点になってしまったほどだ。う~ん、絶対に下級貴族の娘ごときがぁっ!って声が上がると思ったんだけどなぁ…
でも、アイザック様の性格からして、そんな無作法な使用人、雇ったりしないか…
「あんなに女性から敬遠されていたアイザック様が…!」
「いつの日にか…と思いながら今日までお仕えしてきましたが…こんな日を迎えられるとは…」
「セラフィーナ様、どうかアイザック様をお見捨てになりませんよう!」
感極まった皆さんから歓迎を受けた私だったけど…苦笑するしかなかった。だって、見捨てられそうなのはこっちの方なのだから。それでも、女性に怖がられていた事をこのお屋敷の皆さんは心配していたのね。アイザック様が彼らからとても慕われているのは雰囲気からも伝わってきた。
こんな感じで、第一関門だったお屋敷の皆さんの壁は無事突破できたと思う。どこにでも一定数、少数意見はいて、私を快く思わない人もいるだろうけど、そんなのはまぁ、どこの世界でも同じだ。それよりも筆頭家令と侍女頭の二人が好意的だったのは大きいと思う。彼らのためにも、無様な姿は見せないように気を付けないと。
後はアイザック様のご家族だけど…お母様は既にお亡くなりになっていて、お父様はアイザック様の代わりに領地の管理をしているため、王都を離れているという。兄弟はおらず、父方の祖父母も既に鬼籍に入られていて、家族との縁は薄いそうだ。
お父様もこちらにいらっしゃる予定だが、今日のパーティーには間に合わなかった。実は反対している…ってわけじゃ…ないよね?到着次第顔合わせする予定だけど、あちらの反応が分からないだけに不安が募った。
そんな状態だけど、婚約披露パーティーは予定通りに始まった。高位貴族が出る夜会や舞踏会に出た事がなかったし、仮に出ていたとしてもセラフィーナとしての記憶がない私にはノーカンだ。緊張し過ぎて胃が痛くなりそうだった。
会場は…さすがは侯爵家の大広間、豪華絢爛とか美麗荘厳という言葉がぴったりだった。だからと言って派手派手しいかと言えばそうではなく、むしろ控えめな分だけ品が際立つ…そんな感じに見える。まぁ、日本人の私からすると十分派手ではあるんだけど。
レイトン侯爵の紹介とアイザック様の挨拶で始まったパーティーは、人人人で埋め尽くされていた。そりゃあ国王陛下の甥ともなれば当然なのだろう。他のパーティーに出た事がないので何とも言えないのだけど…
ちなみに、今回の婚約は陛下の肝いりだったのもあり、本来なら陛下が取り仕切るのだけど、さすがに叔父とはいえ国王が来るのは憚られると、今日は我が家の主家のレイトン侯爵家が取り仕切る形になった。
レイトン侯爵としては自分の分家の娘がローウェル家に嫁ぐだけに、鼻高々だろう。長年の陛下の懸念を解消したのだから、その功績は大きいんだろうね。
「あれが…ローウェル侯爵様の婚約者…」
「随分お若いようだが…」
「レイトン侯爵から無理強いされたんじゃないのか?」
「ローウェル侯爵も罪な事を…あんな子どもを…」
挨拶している間も、そのような声があちこちから届いた。さすがに直接言ってくる人はいないけど、皆同じようにそう思っているのだろう。
(アイザック様はそんな人じゃな―い!)
そう思うのだけど、ここで叫んでも意味がない。こうなると、アイザック様がとても気遣い上手で素敵な人だって事を態度で示すしかないんだけど…う~ん…どうしたらうまく伝わるんだろう…こっちの常識がわからないし、どう動くのが正解なのかがわからないのが歯がゆい…
「クローディア=マクニールにございます。この度はご婚約、誠におめでとうございます」
流れ作業的に次々とやってくる貴族に挨拶をしていたら、聞き覚えのある名前が出てきた。え?マクニール?クローディアって…もしかして、私が恋する予定だった王子の婚約者?
目の前には、青みがかった銀の髪を可憐にまとめ、私よりも少し薄い色合いの瞳を持つ、硬質の美しさを持つ少女が、両親と思われる貴族と共に佇んでいた。
(か、彼女が悪役令嬢の…!)
それは紛う事なき、私が一押しだった悪役令嬢で王子の婚約者、クローディア=マクニール侯爵令嬢だった。




