イケメンの定義は多種多様
アイザック=ローウェル侯爵閣下。
先日のお茶会での令嬢の情報から出来上がった私のイメージは、筋肉ダルマで敵に容赦がない冷酷無比な騎士で、目つきが悪くてむっつり、目立つ傷のある非モテのアラサー…だった。
しかし…
今目の前にいるご本人は、黒い獣のように屈強そうなマッチョ、鋭いまなざしと怜悧な顔立ち、目立つ傷はあるが醜くはなく、年相応でしかも私好みの美声の持ち主だった。
(ええええ―――!めっちゃかっこよくない?!!)
ちょっと待て!これって十分イケメンに入るんじゃない?ワイルド系イケメンって言うの?もしくは野獣系?
会社にこんな人いたら、絶対に争奪戦になりそうなんだけど…いや、絶対にそうなるだろう。彼が会社にいたら、死ぬ気で仕事したかもしんない…サビ残サビ休出どんとこい!だわ。確かに怖そうだけど、これのどこが不満なの?
そりゃあ、この世界の男性って女性みたいな中性的な人が多いし、なよっとしたのが持て囃されているみたいだけど。そう言えば恋に落ちる予定だった王子も、やたら中性的な形容詞が多かった気がする。この世界のイケメンの基準がそうだとしたら…確かにローウェル様は人気がないのかもしれない…でも…
(え?うそ?これ、どう考えてもご褒美にしか思えないんだけど?)
私は別の意味でパニックになりかけていた。だって…日本にいたら絶対に手が届かないレベルの美形だ。元彼全員の長所を足して一で割ってもこの人には叶わないかもしれない…ってくらい。こんなイケメンが結婚出来ない男?もしかしたら中身は鬼畜で変態かもしんないけど…それでもこの見た目だけでご飯三杯いけるよ、私。
「陛下…ご令嬢が怯えているではありませんか」
「いや、そんな筈はなかろう」
私がポカンと口を開けたまま見とれていたせいだろうか…ローウェル様が勘違いされてしまったけれど…あら、やだ、困ったようなお顔も素敵だ…それに…なによ、ちゃんと気遣い出来る人じゃない。
ええ、ええ、怖がっていません。むしろ眼福だとすら思っています。やだ、顔に傷があるなんて小説や漫画の世界だから格好がつくと思っていたけれど…現実だとエグイだろうと思っていたけれど…ローウェル様を見る限り、それもまたよし!じゃない?
「あ、あの…」
「ああ、何も言わなくてもいい。陛下、いい加減にご令嬢に無理を強いるのはお止めください。私は結婚などしなくても…」
「そういう訳にはいかん!そなたは名門ローウェル侯爵家唯一の跡取り。我が妹のたった一人の忘れ形見でもあるのだぞ」
「跡取りは分家から養子をとればいいでしょう。既に何人かは候補を見繕っております」
「そんな者は認めないと言っているだろう。そなたはまだ子を望める年なのだぞ」
「そうは言っても、相手がいなければ意味がない。怯える令嬢相手に無体を強いる等、それこそ騎士の風上にもおけぬでしょう?」
「そ、それは…」
え?うそ?中身超いい人じゃない?ちゃんと相手の事気遣っているもの。え、どうしよう…歴代彼氏でも私、こんなにときめいた事なかったんだけど…
「どこのご令嬢かは存ぜぬが、ご心配なさるな。これも陛下の戯れのようなもの。今日の事は忘れて、貴女に似合いの相手を探しなさい」
そう言って私を気遣って下さる姿も素晴らしい…この人のどこが怖いのかしら?会社で理不尽なパワハラしてきたあの部長の方がずっと酷かったよ…
いや、怒るとこの方も怖そうだけど…でも、この様子じゃ理不尽な事では怒らない気がする。
「さ、ご令嬢とそのご両親も。ご案内しますので、どうかお帰りを」
そう言って手を差し出したローウェル様だけど…そんな所作も流れるようで素敵だ。えっと、こういうのを洗練されている、って言うのかしら。思わず手を差し出してしまったわ。だって…大きな手も素敵なんだもの…
「おや、セラフィーナ嬢はアイザックが恐ろしくないのか?」
私が手を乗せると、陛下が目を丸くしてそう言った。え?別に怖くなんかないけど…むしろもっとお近づきになりたいくらいだし。そう思ったから恐ろしくありませんわ、と答えたら益々驚かれた。それはクリフォードさん達もそうだけど、当のローウェル様もだった。
「ほっほっほ。これはまた…アイザック、やはりセラフィーナ嬢は今までのご令嬢とは違う様じゃな」
「陛下、お戯れは程々に」
「そうは言っても、そなたに怯えないどころか、手を取った令嬢は初めてではないか」
「そんな事はありません。怖がっているのは年若い令嬢だけです」
なるほど、同年代の女性は大丈夫なのね。それは傷を負う前の姿をご存じだからかしら?でもその年の女性は既に結婚されているから対象外なのね。
「陛下。それでは御前失礼いたします」
「うむ、ハットン子爵よ、大儀であった。セラフィーナ嬢、また遊びに来るがいい」
「は、はい…」
えっと…成り行きでそう答えてしまったけれど…良かったのかしら?陛下相手に気安過ぎただろうか?こういう時は謙遜して遠慮すべきだったのかもしれない。そうは思うのだけど…
私はローウェル様に意識が行ってしまって、それどころじゃなかった。ヤバい、マジで惚れたかも…ローウェル様にエスコートされて馬車乗り場まで案内された私だったけれど、その間の事は夢心地だった。




