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暗部所属の新人工作員です。初任務として皇帝陛下の偽妃を演じていたら溺愛されてしまいました。……これっておかしくないですか?  作者: たけのこ


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47.面接開始

みんなしてシリルくんのこと「もう負けてそう」って言うのおもろい。

「ただいまシリル」


 私の手首を掴んでいたシリルの手をするりと握り返し、久しぶりの家族との再会に満面の笑みで応える。


「お、おう……おかえり……じゃなくて! 今まで何してたんだよ!? みんな心配してたんだぞ!?」


「あー、それは言ってたでしょ? 仕事だよ」


 当然の疑問、そして追求に用意していた回答を返す。

 宮廷勤めである事は事実だし、ただ仕事内容を言えないだけで。


「何ヶ月も連絡を寄越せない仕事ってなんだよ」


「それは……言えないよ、分かるでしょ? 守秘義務があるんだよ」


 家族には本当の事を言えず、申し訳ないとは思っている。

 心の底から心配させてすまないと……でも仕方ないのだ、暗部や偽妃の事を知ってしまったら家族に無用な危険が及ぶから。


「いったい何をやらされてんだよ……」


 分かりやすく頭を抱え、ジロリと私を睨み付けるシリルから目を逸らす。

 私が視線を逸らした先には陛下が居て、私の視線を追うようにシリルもその存在に気付いた。


「……そいつは?」


「職場の上司。里帰りを手伝ってくれるって」


「は?」


「レイシーの上司のシルだ。レイシーにはいつも世話になっているからな、その家族にも挨拶をと思ったのだ」


 まだ状況に追い付いていなシリルへと、陛下は気さくに手を差し出す。


「シリルと言ったかな? 奇しくも似た名前だ、どうかよろしく頼む。レイシーの大事な家族とは仲良くしたい」


「お、おう……お? ん? ……いや、ちがっ! お前、お前がレイシーの上司!?」


 素直に握り返したかと思ったら、まるで虫に引っ付かれたかのように慌てて手を引っ込めるシリルに思わずニヤついてしまう。

 まぁ、こんな貧民街に宮廷勤めのお偉いさんが来るとは思わないよね。着ている服もここら辺じゃまず見掛けない高そうな物だし、何よりも気品というか、佇まいにオーラがあるから疑いは持てないだろう。

 実はその人、この国の皇帝陛下なんですよ、とか言ったらどうなるんだろう。いや言わないけど。


「おまっ――いや、貴方がレイシーの……」


「丁寧に話そうとするシリルおもろ」


「おまえっ!!」


 おっと、シリルがキレてしまったので陛下を盾にしてやろう。


「おまっ、そいつ……あの……レイシーの身柄を寄越してください」


「ぶはっ!?」


 動揺し過ぎてあまりにもシリルらしくない言動に我慢できずに吹き出した。


「アッハハハ! こいつ笑かしよる!」


「よし殺す、テメェはグッバイ」


「やってみろ小僧――「「あだっ!?」」


 陛下を挟んでじゃれ合っていた私とシリルの脳天に固い拳が突き刺さる。


「お客さんを放置して何してんだいっ!!」


 犯人はそう、足を引き摺ったデボラおばさんである。私達家族みんなのママンだ。


「くぉっ、いってぇ〜!」


「べ、ベルナール様に勝るとも劣らない……」


 もう老人と言ってもいい年齢――本人にそう言うとボコられる――なのに、この金剛石すら砕かんばかりの腕力はなんなのだ。

 大丈夫? 頭蓋骨が陥没してない? シリルと二人お互いの頭頂部を確認し合う。


「「よしっ! セーフ!」」


「すまんね、お客人」


「いや、気にしないでいい」


 お互いに無事が確認できたところで、またデボラおばさんに睨まれる前に陛下の手を引いて家へと案内する。


「ささっ、シルはこちらへ」


「あぁ」


「呼び捨て……?」


 あー、私が上司である筈の陛下を呼び捨てした事をシリルが訝しんでる。

 どうしよう、今からでもさん付けかさまつけした方が良いかな。


「気にするな、そのままで良い」


 陛下本人からそう言われてしまったので継続する事にする。

 誰が皇帝のお願いを無視できようか。


「ここが私の実家です」


 陛下を連れて来た先――私が手で示す先には、今にも崩れ落ちそうなボロボロの廃屋が建っていた。

 訓練時代、デボラおばさんの指揮の下、私とシリルと、エマの姐さんとギーとで勝ち取った棲家だ。


「ボロいところですが、ようこそ」


「お邪魔する」


 好奇心から顔を覗かせたチビ達に待っておくように伝え、とりあえず地べたに布を敷き、その上に座って貰う。

 テーブルや椅子なんて物はないから、そのまま陛下の前の床に飲み物とお菓子を置いた。もちろんお土産として持って来たものだ。

 陛下も一緒に来るって分かってたら家具も買ったんだけどなぁ……この家に中途半端な家具なんてあっても角材にしかならないからな。


「さて、それじゃあ――話を聞かせて貰おうじゃないか」


 陛下に寛いで貰う体勢ができたところで、あとはごゆっくりと退散しようとした私の肩が、シリルといつの間にか出て来ていたエマの姐さんに掴まれる。

 そんな私へと声を掛けながら、デボラおばさんは堂々と茶を飲む陛下の目の前にどっしりと腰を下ろした。


「話とは?」


「私達の大事な家族についてに決まってるだろう、坊や」


 あ、あかーん! 陛下を坊や呼びはあかーん! 尋問が嫌だからって逃げてる場合じゃねぇぞこれ!


「いやあのねママン、私は別に酷い事はされてな――」


「レイシーは黙っときなッ!!」


「いえすまむ!」


 すまねぇ陛下……私はベルナール様とデボラおばさんとエマ姐さんには逆らえないんだ……逆らえない人結構居るな。


「すんません」


「いや、気にするな」


 小声で陛下に詫びを入れ、そのまま隣にちょこんと座り込む。


「……」


 そんな私を、家族は変な目で見詰めていた。

これより面接を始めます()

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― 新着の感想 ―
レイシーちゃんに恋愛を自分がするという発想自体たぶん存在してないからねえ
わははは。 デボラおばさん~。 その人はこの国の皇帝陛下なんですよ~。 一番偉い人なんですよ~。
なるほど、このママンの元で育ったからオカンの前でもああなるのね
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