第一章 6 【テンプレート】2
洞窟へと足を運び、おおよそ二分半程経った頃合い。
中腹に差し掛かったのにも拘らず松明の灯りは一つとして無く、野生動物特有のツンとした獣臭が奥に進むにつれて強まっているのは、討伐対象が居る何よりの証拠だ。
おまけに外部との温度差があり、少しばかり肌寒い。ゲーム世界との差異なのか分からないが、地形ダメージ無効の装備でもそのぐらいは知覚できている。
道幅は大人四人が横一列に並んでも十分な広さと高さで、不意に襲われても対処は容易。ただ、足を落とす地面は若干湿っていて動きづらい。
「横穴か………よし、フィリアナ。こっちだ」
「はい」
暗視の魔法を付与しているので、二人の視界は良好。フィリアナの方へと視線を移せば、姿と表情は真昼の様に視認できる。
そうして見つけたのは、モルダの話していた鉄鉱石を採掘していたであろう横穴だ。
ピッケル、スコップ、取っ手の付いた木製の二輪車、椅子や机などが放棄されており、当分の間人が使った形跡はない様子。
足を踏み入れた横穴も二人ならば結構広く、今からの準備にはバッチリの場所だ。
「さて……一応聞くが、何故ここに留まったか理解できてるか?」
確認するのは懸念が一つ、NPCの強さを含めた戦術、その知識である。
フィリアナ達は過去の出来事、つまりはゲーム世界でのプレイヤー対プレイヤーを覚えている様子。だったら、今まで冒険の経験から戦闘面において含蓄に富んでいるだろう。
そして、フィリアナしか連れてこなかった理由は三つ。
戦闘力過多になってしまい訓練を満足にこなせない為。
近隣に潜む魔物の強さが分からない以上、ハンナ・カンベルト嬢の護衛が手薄になるのを避ける為。
この実験的で訓練的な戦い、確実に勝利を収める為だ。
「……戦闘前の準備を整える為でしょうか?」
「正解。足跡からして数は三十程度、ゴリブ、オグンの複合部隊。首魁も入れて三十一匹だな――――そして、我々は真正面からの接敵……どういった準備が最適だ?」
「盾となる魔物を同数程度召喚し戦わせて、混戦にします。そうして様子を窺いながら敵の首魁を暗殺…ないし一対一に持ち込み、これを一気に叩く……というのが最適解と思います」
「…ここは一本道。どうして入り口で魔物を召喚しなかった分かるか?」
「一本道だからこそです。挟撃、罠、真正面からのブレス、ビーム………もしもを考えて、この横穴で召喚をしたならば、魔物の随時投入で壁を作りそれらを確実に回避できます。増援が来るまで持ちこたえる事も可能ですし」
百点満点バッチシの回答だ。しかし、コレを百二十点万点にするのが、彼女の主となったロー・ハイル・ヘルシャフトの仕事である。
「ああ、全くもってその通り。だが、今回の依頼はレベル差などを観察する実験的な意味合いがある。よって、接敵した際には相手の強さを調べる魔法<ライブラヴェント>を用いて、継続的に魔物を召喚しつつ様子見を多くするように」
レベル差とは【ブレイスラル・ファンタズム】において、致命的な戦力不足になりうる欠点の一つだ。
多種多様に存在する能力、その中でもレベル値に依存するモノがプレイヤーの全てをも拘束しゆる力を持つ。
例えば、レベル六十以下の者が唱える魔法を三十二パーセントの確率で回避する、レベル五十以下の者が放つ物理攻撃を五十パーセント吸収するなど。
常時展開されている能力に対し、若輩プレイヤーはレベル差があればあるほど何もできなくなっていくのだ。
ここまで来てゲームと違う仕様ならば、撤退も視野に入れる。しかし逆に、ゲームと同様に能力が機能するなら隙を作っての討伐は容易。
余談だが、そんな若輩者でもレベル差を武器や装備で埋める事は可能だ。
基本的にモンスターからのドロップ品は同等レベルのみ。しかし、ゲーム内のオークション等で上位のプレイヤーのお古を買うこともできるので、システム的に問題ないだろうという仕様である。
更に余談だが、そういった物流を管理するギルドもあったらしい。
「では」
そういって彼女は空に手を伸ばし、一本の杖を取り出す。
紅褐色の色合いで素朴ながら清廉な雰囲気が漂う魔法使い専用のスタッフ。イチイの樹を丸々一本使って形作られたその杖は魔力常時回復し、魔法詠唱の簡略化が可能で、全ての魔法威力が上がるという最優の一品。
名を『精霊王の杖』。
「呼び出す魔物はいかがいたしましょう?」
流石にこの横穴では手狭なので、フィリアナが右手に持った杖をかざすのは洞窟の大通り。
召喚の準備は万端という様子。こちらも期待に応じるべく、もう決めていたその魔物の名を告げた。
「聖歌天使の盾騎士を………三十といきたい所だが、ここで勘付かれては意味が無い。とりあえずは五体でいいだろう」
「はい。わかりました!」
【聖歌天使の盾騎士】、五十レベルの召喚モンスター、属性は聖属性。
特色として、この魔物は物理と魔法によるあらゆる攻撃を一度だけ防ぐことが可能で、天使というその造形から落下ダメージ、継続ダメージは存在しない。
何故五体のみ召喚したのかというと、ここ洞窟中腹に三十匹も召喚はもちろん物理的にも戦術的にも不可能であるからだ。
では、三体ぐらいを召喚すればいいと思いはするが、ソレも違う。
特徴として、五の倍数で召喚すれば聖歌天使の盾騎士全体の基礎能力が上がり、尚且つ倒された際に高確率で<鈍足>の状態異常を敵に付与するのだ。
弱点属性がある以外は攻防、時間稼ぎと共に欠点の無い盾役モンスターである。
「<召喚、聖歌天使の盾騎士>」
彼女が召喚の呪文を唱えると、蛍のように淡く青色の光を放つ七芒星の魔法陣が地面へと描かれる。一応、この光に群がる気配を警戒するが、相手が鈍感なためか何事も無く。
無事、魔法陣の上に形作られ現れたのは、天使が五体。
右手には大人が三人ほど隠れられるような分厚く大きな金の聖なる装飾を刻んだ鋼鉄の大盾、左手には汚れ一つと無い真っ白な鈍器。
空色のローブを身に纏い、光のような四角い翼を生やした二メートル越えの頭部と両足が存在しない寸胴な天使。
『我ら聖歌天使の盾騎士。召喚に応じ、馳せ参じました』
場違いここに極まるがそんな事は構わず。
一体の天使が重低音の声音で忠誠を示せば、続けて四体の天使は無い首を垂れて左手を胸に添え忠を誓う。
「フィリアナ。天使共の主導権はどうなっている?」
「えーと、ロー様と私は同様の主導権を握っていますよ」
「つまり、命令しても問題ないと?」
「はい」
徹頭徹尾、準備に怠りは無い。確認すべきことも事細かに把握できた。
「ならばよし。行こうか」
ロー・ハイル・ヘルシャフト、フィリアナ・ルーゲル・フェンドルド、聖歌天使の盾騎士計五体。
彼等は着々と黙々と洞窟の深部へと歩を進めた。
●
(予想通り、三十一か………)
天使五体を先頭に辿り着いた先、そこは開けた円形のホールにも似た空洞で壁の質感を見るに最近掘り進めたのだろう。
そこをスキル<生体探知>で再確認すれば生物の波長を三十一と検知でき、ローは軽く胸を撫で下ろす。
(見た感じ、非生物はいなさそうだな。しっかし…)
<生体探知>は<生体感知>の上位互換であり、三段階ある人間種の二番目の進化先【上位者】で入手可能なスキルだ。
能力にも似たこのスキル、特色としてなんと気力消費が無い為に無限に使う事が可能。当然だが、欠点はある。
相手の数を確実に把握できるのは生物のみ。非生物である石の巨人や屍鬼には発動しないのだ。
ただ、今回の敵はゴリブやオグンであるからして欠点が浮き彫りになる事は無く。もし石の巨人や屍鬼が待ち構えていたとしても聖属性の天使五体であれば、攻守、逃げの対処は容易である。
(まるで、どこぞの映画の宇宙人が付けてたサーモグラフィーだな。これは)
【ブレイスラル・ファンタズム】では敵の波長はミニマップに表示されるようになっていたが、この世界に来てからは赤外線をカメラなしにこの目で視認できるようだ。
「なんだ? おめぇら………?」
かけられた声の方角をフィリアナとローは天使達を壁にして隙間から覗くように視認する。
(あれが『シルベ』か………)
真正面。スキルを切ってから望む視線の先には、赤一辺倒の近代的な服装に緑白の肌をした人間の背格好のゴリブが左右にオグンを従えて、荒く岩を切り崩した玉座にふんぞり返っていた。
その周辺を見回せば、もはや残骸となった何かを喜々として貪っている汚らしい緑の小鬼ことゴリブ、血色の悪い白濁の巨鬼ことオグンが七と三の割合で存在しており、こちらに目もくれず自由に食事をとっている。
(馬と………あれは、人間かな?)
何か―――その残骸、目を凝らしてよくよくと見てみれば一匹と一人だ。
白黒のまだら模様のくすんだ体毛、蹄鉄、渋茶色の服と目玉と人の歯、頭蓋骨。状況と日時からして“ハンス”という人物と彼の騎乗していた馬の可能性が高い。
(えー、食人するのかよ。嫌だなー、汚いなー………)
円形のホールはかなり広く、ロー達とヤツらとは十分に距離があったものの、漂う臭いは出入り口の方に垂れ流しで鼻を曲げるには申し分のない悪臭だ。
ただ。
それだけの感情――言うなれば『汚い』という嫌悪感――のみが胸に沸き上がったことに十川四郎ことロー・ハイル・ヘルシャフトは若干の違和感を覚えた。
(…それにしても、あんな無残な人間の死体を目にしたってのに何も感じない。フィリアナのように“設定”が反映されてるのおかげかも知れないけど、ちょっと自分が怖いかも………いや杞憂だな。死体ごときで)
ここでの設定とは彼、十川四朗が書き連ねた物語の事ではない。
【ブレイスラル・ファンタズム】には各種族にも設定が割り当てられるのだ。
例えば、住んでいた森から追われたエルフ、沼地が干からびて旅立たざるおえなくなった蜥蜴人、新たなる鉱石を求めて大陸へと至ったドワーフなど……要は【ブレイスラル・ファンタズム】という世界に来た理由だ。
各種族の進化は大まかに三段階とあり、その“理由”もとい“在り方”は進化するにつれて若干変わっていく。
人間種は【人間】に始まり、【上位者】となって、神の位に至った者【カムイモノ】に成る。
【カムイモノ】とは神と同等の存在。その存在に変貌していく過程において、人間性が希薄になっていく“設定”なのだ。
(……何はともあれ、この状況で足が竦んでないのはイイコトだ)
これより行うのは殺し合いだ。大海のような清らかな心持ちで挑めるのは申し分ない。
再三と殺す相手を見つめ直し、まじまじと観察する。
(しっかし、あの恰好には覚えがあるぞ。なんだっけか~……)
情報を集めるべく観察に考察をすればするほど、ゲームプレイヤー十川四朗のおぼろげな記憶がくすぐられて。
その答えが出るのに、あまり時間はかからなかった。
(あ~…思い出した。二周年記念イベント『THE・コーデ2042』の期間限定ログインボーナスで貰えたらしい『漢のスタイリッシュコーデ』一式か!!)
参加せずとも【ブレイスラル・ファンタズム】の歴史において、プレイヤー全員が周知のイベントを十川四朗は思い出す。
二○四二年一月一日から二月の末まで開催された【ブレイスラル・ファンタズム】初のオンラインイベント『THE・コーデ2042』。
何故、二か月という長い期間開催されていたかというと、イベントに参加する上である意味必要不可欠な理由があったから。
まず初めに。
去年の十月に装備デザインの募集が行われ、その大賞を取った装備一式『漢のスタイリッシュコーデ』がログインボーナスで貰える。
その次に。
肝心の内容として、この【ブレイスラル・ファンタズム】初の試みが実行に移された。
ゲーム初の自主デザイン武器、防具や装飾品等が発注可能となって、なおかつ手に入れる為の課金額は半額の値段で個数制限は無し。デザイン性に問題があれば、当然却下される健全なイベントである。
この夢のような祭り、自身のデザイン性やアイデアをアウトプットするのに時間がかかる故、開催は長い日数で臨まれたのだ。因みに、有名絵師を雇ってまでオリジナルデザインの装備を揃える者も居たそうな。
その後、お祭り(イベント)終了後はゲームの大幅なアップデートが入り、定価での課金で自由に武器、防具と装飾品等を作る事が可能となり、見た目のみの変更もできるようになっていた。
無論。ロー・ハイル・ヘルシャフトの服装も例に漏れず、オリジナルデザインの装備一式である。
「おい…! てめぇらッ聞いてんのか!!?」
歴史を懐かしむ心地よさを吹き飛ばす雄叫びが一つ。
人間ゴリブ『シルベ』は何も言わぬこちらを睨み、声を荒げて自然と見下す。
「あなた、口の利き方がなってないわよ?」
並の人間にとっては鬼気迫る怪物の怒号ではあるものの、恐らく設定が生かされているローにとっては子供の癇癪程度にしか感じず。
もはや予定調和のつまらない行い。ただ、元皇帝の従者は黙っていなかった。
「強者には敬意を払うものではなくて? シルベさん」
「なんだと………?」
天使の合間を縫い先頭に。
精霊王の杖をかざして戦闘態勢で仁王立つフィリアナ、岩石の玉座にふんぞり返ったままこちらを卑下た目で見つめるシルベ。
双方の睨み合いで先程まで肉を貪っていたゴリブ達も食べる手を止めて、場は一気に凍り付く。
一挙一動、少しばかりでも動こうものなら破裂しそうな膠着状態へと。
(あー………分かるよフィリアナ。弱いだろうことはあの見た目が物語ってるし。でも、万が一もあるし……あるよな?)
ログインボーナスでの装備一式、シルベの種族、魔法による認識阻害や見た目のみの変更を行っているかと言われれば、恐らくはノー。フィリアナの対応もこう拍子抜けだとやり過ぎだ。
ついては『漢のスタイリッシュコーデ』があまり人気で無かった事から始まる。
昨今の『漢のスタイリッシュコーデ』ことログインボーナス事情。
ゲームのアップデートで見た目を変えられるようになっていたものの、ログインボーナスで貰えて防具レベルが六十である為、後に叩き売りされてしまう残念な装備。
結果、ゲーム内のそこら辺に転がっている防具と同様の価値になり下がったのがアレである。おまけにアレは魔法職で装備する者はいないと断言できる代物。
種族にしても、だ。
見立てからしてゴリブ種の二段階目、【ゴリブ】が六十レベルで進化できる【ゴリブ・ロブル】だろう。その特徴と言えば、人の形をしてゴリブの特性を残しているだけ。
一応、種族スキルとして<ゴリブ・アミズ>というモノがあるが、そのスキルは自身から半径三十メートルに存在するゴリブ系の低レベルモンスターを強制的に配下とするだけで、高位の魔法使いであれば悠々と殲滅可能。障害にもならない。
そう言った使えないスキルが多いのが理由で、ゴリブ種は件の装備と同様に不人気である。
救済措置として最終進化形態【ゴリブディオン】になれば出来る事は増えるが、そこにたどり着く者はほぼ皆無。途中で種族を変更する者が多いのが事実。
故、彼らはゲームに見限られた悲しい種族なのだ。
(魔呪全書も持ってないようだし、プレイヤーかどうかも怪しくなってきたかも………)
ロー・ハイル・ヘルシャフトとのレベル差は見た感じであれば六十レベルの大差、ゴリブとオグンの手下を引き連れている所から使えない種族スキル<ゴリブ・アミズ>を使用しており、魔法も何も使えない戦士職であろうことは確か。とても、エンシェントドラゴンの討伐数を競っていたプレイヤーの一人とは思えない。
総評、弱い訳ではないが別段強い訳でもないのが『シルベ』という人間ゴリブである。
「いやはや、連れが無礼を働いてしまったようだね」
「オマエは?」
このまま睨み合っていても埒が明かないので、膠着を崩すようなリズムに欠けた拍手をしつつ、ローはフィリアナの肩を押さえて最前線へと躍り出る。
「まずは自己紹介からですか……私の名はロー・ハイル・ヘルシャフト。とある村娘に凶悪な魔物の討伐を頼まれた旅人です―――して、貴方様は?」
「………シルベだ」
「あ、ああ…はい。シルベ様ですか」
仰々しく、恭しく、ミュージカルでも見ないような身振り手振りの紳士然として。
胸に手を置き頭を下げて挨拶し、行儀よく律儀に返されたのには多少面食らいつつ。
持ち直し、場を再び強張らせないよう咳払いをしてローは本題にそそくさと入る事に。
「もしや、と一応にお聞きしますが、その凶悪な魔物とは【ゴリブ・ロブル】である貴方様では?」
右手を差し出し、返答を待つ。
対して、未だこちらを敵意の瞳で凝視する人間ゴリブ『シルベ』はフィリアナを制止したローの低姿勢が気に入ったのか、玉座の肘置きに両手を掛けて「ハッ」と吐き捨てる笑いから言葉を続けた。
「その通りだ、ロー……なんちゃら。気の毒にな? オレは凶悪で最強なモンスターよ。―――――だが、カンヨーだ。手土産を持ってきたヤツを無下にするつもりはねーさ」
「手土産………?」
シルベの卑下た視線が嘗め回すようにしてフィリアナを上から下へとじっとり見つめた。
「そう。その上玉な女だ。ソイツを寄越せば、村の件もさっきの分を弁えない女の暴言も取り止めにしてやる………どうだ? いい取引だろ? 笑えよ」
人間ゴリブ『シルベ』が右手をひらひらと振れば、
『ギャハハハハッッ……』『グガガガガガガ…』『キキキキキキキキ!!!』
それに同調して言葉通りにオグン、ゴリブ共が笑い出す。
「………フッ」
卑下た魔物共の笑い声が洞窟に木霊する。しかし、ソレを掻き消す笑い声が響き渡った。
「―――ハッハッハッハッハッ!!!」
「おい、オマエ…何がおかしいんだよ?」
怒りを隠すことのないシルベのドスの効いた言葉に手下共は一挙に押し黙る。
「アッハッハッ………あー、笑い過ぎで死ぬところだった」
対して、ロー・ハイル・ヘルシャフトは笑い過ぎで出た涙を手で拭い、ご丁寧にも今の心境を事細かに一言一句と説明した。
「いや、すまない。君をツマラナイと過小評価していたようだ。創作物の展開をなぞってみようと心に決めたのは良いが………まさか。まさか、ここまで予定調和すぎる悪役に徹した人物の登場には笑いを堪え切れなかったのさ。いやー、ホントすまない。シルベくん?」
悠々自適にと委細を述べたご説明。
その態度、顔、男の全て、瞬間シルベの琴線に触れて。上機嫌だった緑白色優男の顔はみるみるうちにゴリブらしい醜悪な形相へと変貌し、右腕を大きく振り上げ、
「うぜぇ……もういい、オマエら死ねや」
大きく振り下げて。
シルベは手下どもに指示を放つ。
「てめぇら、かかれやァッッッ!!!」
その一声によって、今まで硬直してたゴリブとオグンは自らの野生を剥き出しにこちらへと一斉に一直線。
種族スキル<ゴリブ・アミズ>の能力による突貫だ。
(巻物や魔法の補助なしに真正面から突っ込ませる愚策………挑発にも乗るし、どうやら見た目通りでただの六十レベルなのは確定。ま、別にいいけど。それならそれでこっちも命令を出そうか)
距離を詰めてくる魔物との接敵時間は十秒と掛からないだろう。であれば、的確に簡易的な命令を天使達に下すだけだ。
「聖歌天使の盾騎士よ。我らを守りつつ、敵を粉砕しながら前進せよ。さあ、戦闘開始だ!」