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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第10話 60対1
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第10話_動き出す両陣営と変わった勝負の下準備

「……ふーん。なーるへそ」

 ミコはルールブックをそこまで読んで終わり。それ以上先を読むのを止めた。パラパラパラとページをめくり、そのまま手放し裏表紙を弾いて落とす。ルールブックは読む前と逆、裏向きの形でページを収め、何も言わずに役目を終えた。いや、終えさせられたという方が正しいか。ミコの手によって。一方的に。

 ミコがルールブックを最後まで読まなかったのには理由があって同時にない。気分屋なミコにとってはあの程度――ゲームの最低限必要知識だけ知っておくくらいがちょうどよい。ミコの雨識感覚がそう告げたのだ。勉強しない理由なんて、それだけで十分すぎる。

 ルールをうろ覚えの中途半端に把握したミコは続けてその目で部屋の全周囲に貼られたコマカードとメイクカードを見回し見渡す。しばらくそのまま。しかしミコの目は輝きを増していき、周回する視線はミコの周りに竜巻に似た奔流を形作る。沈黙の中静寂の中、いつしかその奔流は本物の風に竜巻に化け、壁に貼られていたカードを剥がし始めたのだ。

 そのときだった。部屋を掃除したときから実はずっと開きっぱなしだった影帽子のがま口チャックから無数の黒い腕が飛び出し、その先に付いている黒い手でもって宙に待ったカードを掴み、ミコの目の前に集め出したのだ。そう、視線の奔流に飛ばされたカードこそミコが選んだカード――即ち! ミコがデッキに入れたいカードだったのだ!

 無数の黒い手もカードを集め積み上げデッキが完成するとひとつ残らず引っ込む。ことここに至ってミコは自分の手でもって作ったデッキを手にもった。マットな触り心地が指から脳に快楽情報として伝わる。でもそんなのに中毒になるわけもなく、ミコは61枚のデッキを右手に持ちちょっと遠めに突き出してから、手前に受けとして構えた左手にパラパラパラと一枚ずつ連続して飛ばし始めた。

 そう、ちょっと斜めにアコーディオンを弾くような感じ。奥から手前に向かってくるアコーディオン軌道を描き飛んでくるカードは、ミコに表面を魅せて左手に納まる。それがパラパラ61枚続き、全てのカードが手前の左手に納まりミコは改めて自分のデッキを確認し終わった。するとミコは脈絡もなく、「ふにゃにゃにゃにゃ……」と笑い出す。

「うん……スキ」

 この気持ちを一番、大切にしよう――ミコはそう呟いて、がま口チャックの口からほどよいサイズのデッキケースを頭揺らして吐き出せると、流れるような手つきでデッキをデッキケースへとしまい、デッキケースは自分の服のポケットに入れる。

 準備は整った。そして封も切られた。もう後戻りはできない。いやしない。

 進むのみ。

 ミコは颯爽と立ち上がり、がま口チャックを閉じて影帽子のつばをひとつまみ。そして目深に帽子を直して踵を返し、ドアを開け、部屋を後にした。

 後に残されたのは取られずに壁に貼られっぱなしのカードたちと真ん中に置かれた箱。しかし立つ鳥跡を濁さず。ミコの仕込んでいた術式によって残りのカードはミコがドアを閉めた途端、カタカタカタと動きだし、一斉に里帰りするようにもといた場所の箱の中へ、一目散に逃げ込んでくる。結果あっという間に部屋は元通り。綺麗な白部屋に箱がポツン。

 これこそミコの美意識作法インテリアなのだ。

 

「ミコの奴動いたぜ。もう大ホールに向かってやがる」

 翠を始め、神様仲間達の控え室。各自自由に動いていた中で、神眼・千里眼を持つ扉が監視していたミコの動きを誰に言うでも無く、一人言みたく報告すると、其れ迄好き勝手動いていた神様仲間達が俄にざわつき始め、我も我もと代表の緑の元へ駆け寄った。其の周りには最初から翠に加担していた『共犯者』こと扉やら希やら天やらが既に囲っており、その周りを更に囲う――二重堀みたいな感じになった。中心の翠は余裕なのか莫迦なのかの欠伸を噛ますと、漸く台風の目を開き、猫が身体伸ばすみたいに両手を組んで上に伸ばして其の流れのまま立ち上がる。其れでも身長低めの翠。伸ばした手の先が何とか群がる神様仲間達の頭を超える程度。丁度其の時使いに遣っていた祝、哉、魚の三者がドアを開けて戻ってきた。自分達がするでも無くドアが開いたので、皆揃って祝達を見やる。祝と哉は意味を持ち前のポジティブさで履違えて解釈したミコからの詞を熱弁するが、なぜか翠達は冷たい反応。「あれ? 驚かないの?」と祝と哉がポーズ取るが、此処で初めて翠は魚達に敵たるミコを騙す為、魚、哉、祝も騙していたことを暴露する。個室と言っても機密が強固なんて誰も言ってない――どころか翠は先の扉の詞の様に神様仲間達をフルに使って其の能力で以てミコの動向を始終監視していたのだ。だからミコの有難い御詞の事ももう知っている。平然当然と然う宣うと、祝と哉は「ムキーッ!」と心底悔しがった。でも同時に出来る神様仲間達への高評価も抱いてしまう二名。「やるじゃない」悔し悶えた後に出てきた二名からの其の詞を受け、翠達も「お前もな」と認め返す。唯一蚊帳の外にいた魚だけが、呆れ返った&悲しげな顔をして「なにこの茶番……」と嘆くのだった。

「さて……うたまるも評価してくれないマイナス評価の寸劇続けてても意味ないし。相手を待たせるのは好き過ぎるし。此処らが潮時腹八分目。勝負しに行ってあげますか。はぁ〜はっはっハハハノハ!」

 非常に鬱陶しく且つ超自分本位な台詞を仲間のいる中抜け抜けと放ち投じた翠は勝負用髪型のトライテールに髪をセットするとデッキケースを取り出し利き手の左手に握りしめ、のそりのそりと歩き出す。然しあまりに自由すぐる翠の身勝手ぶりに今迄一緒に調子に乗っていた百戦錬磨の神様仲間達も、流石に唖然とし始めた。翠の話を聞いていると、「自分達神様がミコに勝負を挑んでいる」と云う事実さえ忘却棄却しそうになる。正直怖い。勝負の本質を見失っては勝利なんて得られない気がするから。特に女神陣は殊更強く其の懸念を感じていた。其れも此れも「勝利の女神」なんて詞の所為だ。きっと。でも俗世下々民草が一般名詞化迄してみせた詞の影響力、神様云えども無視できないのでやんわり翠を諭すのだけど、聞かん娘の翠には全て台無し徒労に終る。それどころか翠の行く手に従い皆が移動し始めると、女神達皆段々と翠の調子に感化され始める始末。此れに危機感を覚えるのが男神連中。予報的な予言がよく当たる茂が先回りして待ったをかけ、警鐘鳴らして警告する。

「ちょっと待ち給え! 翠、君は明らかに勘違いをしている。この闘い、挑戦者は我々の方なんだよ。嗚呼、嫌な予感がしてきた。視える……翠が負けて泣きじゃくると云う不吉な場面が視える!」

「茂、しっかりしろ!」「気を確かに持て!」「翠! 茂や俺達をこんな心配させて楽しいか! 少し自重しろ!」等と、一番手で警告した挙句発狂しかけた茂を筆頭に男神達は次々と翠に真面目にやれ――というニュアンスの詞を打つけるが、打つけるという遣り方に翠は癇癪起こした。逆鱗スイッチON。今度は翠が言いたい放題逆襲とばかりに言返す。

「黙れメタボデラックス! &その取り巻き共! このミューが代表として指名された以上、ミューはミューがやりたいようにやるんだもーん。わかったら其処退きなさい。この定年不可避予備軍共!」

「て、定年……」

 逆転カウンタクリティカルヒット。翠は神様仲間達に付けるニックネームも毒が有るが、怒ると普通にハイ毒舌化。其の意味不明ながらも新しく、そして何より破壊力に秀でたビッグバン級の詞の口撃は茂等男神連中のハートを圧砕した。ダメージを負い動かなくなった口煩い男神共。其れを翠始め女神達は道路塞いでいる工事用バリケード以下の“モノ”と化した男神達を「邪魔」と蹴飛ばして道を確保し歩き出し、ドアを開けて大ホールへ。軈て倒れたままの男神達もハッと我を取り戻し、「待ってくれー!」と騒がしく付いてくる。何はともあれ神様61名、全員揃って大ホールへ――である。

 んで大ホールに着いてみて――開いた口が塞がらなくなった。いや、転けなかっただけマシなんだけど。

 だって格式高い建築で贅を極めた大ホール。その床面を勝手に凹まされて水たまりを作らされた挙句、犯人であるミコ=R=フローレセンスはその水たまりにウォーターベッドを張って浮かして熟睡していたのだ。御丁寧に顔には影帽子被せて。「死人かよ!」神様全員が突っ込んだ。

「祝」「はーい」

 翠は祝に此の形容し難い状況の破壊を依頼し、祝は其れに手を上げて応じる。祝の右手五指に指輪が現れ装着され、更にその先に現れた指を覆う爪の様な装飾武器。祝は其の爪五対を指輪からの糸で繋ぎつつミコが惰眠を貪っているウォーターベッド目掛けて発射した。魚の弟子として教わりし祝=エイプリルフールの神業“どの道選べず指示の数”だ!

 片手なので未だ本気じゃない祝の神業だが、狙いは正確結果は的確。射出された爪は全てミコが上でノーテンキに寝ているウォーターベッドに刺さり貫通。然も其の時祝が送った指示・信号により中の水は低温域水蒸気爆発を起こす。事の次第を見ていた神様仲間達は共通見解として此の後ミコが頭から落ちて無様な姿を晒す物……だと思っていた。

 が事実は違った! 落ちるミコが目を覚ますより早く顔に被せていた影帽子がミコの頭に自動的に動いて納まり、がま口チャックを此れ又勝手に開いて黒い足を蜘蛛並み8本取り出して、ミコの身体が落ちて濡れるよりも早く水たまりに足を着け、ミコの身体を支えたのだった。御丁寧に足は水たまりの底ではなく、水面に立っていた。アメンボか。

 そして其の後吃驚仰天。何と影帽子は如何にも安そうなぶっとい輪ゴムを持ってふたつの黒い手を飛び出させると、事も在ろうに其の輪ゴムをミコに向けて構えて発射。ほっぺた辺りに直撃した輪ゴムはミコの皮を赤く腫らす程の衝撃を与え、漸くミコは目を覚ました。「いった〜い!」とか抜かしていたが、全面的に無視する。其れが神様スルースキル。

 祝がウォーターベッド破砕の任を終えて装飾武器の指輪も爪も消したと同時に、ミコも其の足で水面に立った。其れ迄彼女を濡らすまいと支えていた影帽子の黒い足も仕舞われ、黒い手も御役御免と仕舞われ、其の場に居るのは影帽子のがま口チャックも閉じたミコ=R=フローレセンス。唯一人。たった一人。だけど恐るべき一人の女。

 其の女を前にして、神様全員、息を呑んだ。

 

 ミコは泰然自若と構え、翠達神様連中を迎え入れる。其れは善い。実に善いのだが、突っ込み所がひとつ在る。

「ちょっ……ちょちょっと泥棒ミコさん。此の水たまり、其の侭にしとく気?」

 翠の質問にミコは仄かな笑みを浮かべる。肘から先の両手を持ち上げて、ちょいと首を傾げて宣った。

「だって今、外は雨ですしね。忘れましたか神様が。このわたしは元気象一族にして、現在も契約継続中のレインなんですよ。この水たまりは翠様たちを待っていたわたしの暇つぶしですよー? 雨漏り・透し雨でこの大ホールの真っ平らな床を削り、じわじわと溜めていった天から降り注がれた水たまり。別にいいでしょ? コマカードにもメイクカードにも足場を変えるような効果は無いんだし。空間展開型ゲーム……なんでしょ?」

 ぐうの音もでないとは此の事か――神様全員が苦虫噛み砕いたような渋い顔してミコの詞を聞いていた。そして受け入れるしか無かった。テーブルTCGを嫌って空間型CGを作り上げた神様達、灯台下暗し元、天に住む神様地面を全く考慮せずと言った処だろう。

 故に甘んじてミコの小細工を受け入れるしか翠達神様連中には選択肢が無かった。其れ位なら可愛いもんだともいう気持ちもあった。こっちの遣る事に比べれば、寧ろ全然足りない位。

 翠が不敵に笑いながらミコの向かい側へと水面に一歩一歩を踏みしめながら進み、軈て立ち止まり相対する。お互いの視線、声、ジェスチャが不快にならない程度に届く、絶妙の位置。遂に“ファニータイム”、最初で最後の決戦が今正に始まろうとしている。

「審判はこっちから神材派遣させてもらうよ泥棒ミコさん。天。希。出番だよ」

「了解だよ翠」「嗚呼……わたしはどっちの審判かしら?」

 天と希、ミコに対して難解で激しい感情を持つ2名が翠の指名を受け、ミコと翠の中間線両サイドに陣取った。これで配置は完了だ。

「ではこれより、“ファニータイム”一本勝負。翠=ミュージックvs.巫=R=フローレセンスの対決を始めます」

「おお」「いよいよか」大ホールを取り囲むように散って客席から観戦している観客神様 仲間達がどよめきの声を上げる。気持ちは分る。否、仲間達ではなく翠が一番ドキドキしているのは決して謙遜等では無い。こうして神様代表としてミコと対峙している緊張感は、何物にも代え難い翠だけの特権感覚。増々昂る翠の闘志、気合気迫は必要十分だ。

「それでは両者デッキをシャッフル」「自分でシャッフルした後は、相手にシャッフルして貰うように」

 審判役2名の進行に従い、翠とミコはお互い用意したデッキを先ず自分でシャッフルし、其れを受け渡し役も兼ねる審判役に渡す。そして相手側からやってきた審判役から受け取った対戦相手のデッキをシャッフルする。然し此処で翠もミコも手を抜いた。お互い相手のデッキに指で触るだけ。それだけで善しとし、審判役を追い返した。此処でどんなにカードを切っても、来る物は来る――其の考え翠とミコ、二人のプレイヤーに共通して在った認識だったのだ。観客の神様仲間達からすれば「Boo! Boo!」とブーイングでもしたくなるだろうがそんなの翠は知ったこっちゃない。仲間の意見なんかより自分の勘を信じなければ勝負に負ける。其れが闘いの鉄則だ。

「では両者、山札セット、手札7枚をドロー」「コマカード4枚が揃うまで何度でもリトライありよ」

 審判2名に言い渡され、翠とミコは机も無い戦場空間に光の枠で示されている山札置き場に山札を置くと、ミコは丁寧に上から7枚、翠は素早く一瞬で7枚手札を用意する。1枚引く動作で7枚取ってみせた超神速の神業ドロー。流石にミコも吃驚したのか、目を丸くして翠に声を掛けてきた。

「どうしたの翠様。なにかあった?」

「ううん。なんでもないよ。なんにもないよ」

 ミコの問いに翠は丸で予測し答えのテンプレートでも用意していたかの様に即答を返す。審判役の天と希も、「なんにもない」「なんでもない」と答えるだけ。ミコも気を削がれたのか、それ以上追及してこなかった。其の様子を見て翠は人知れずニヤリ。

 一瞬、時が凍る。其れは周りに居る神様仲間達も引っ括めて全部がしんと動かず、静止し、固唾を飲んで翠とミコを凝視している様其の物。

 軈て静かにゆったりと審判役2名の手が上がり、闘いの本格的な幕上げを告げる。其れを聞いて、神様応援団が一斉に固唾を飲んだ。

「互いにコマカードは4枚あるとのこと。では此れより“ファニータイム”を開始する!」

「1本目、マニュスクリプトへのコマカードの配置及びメイクカード使用、始め!」

 息を呑んでいた神様応援団達が一気に貯め込んでいたモノを解放するかの様に歓声嬌声罵声を上げる。轟音轟く大ホールの中、先手を切ったのはミコだった。

 とは言え其れはプレイイングではなく、プレイスタイルの変更。然し其の変更は余に以外、且つ異質で、経験値では圧倒的に上回る神様連中全員を驚かせた。ミコは或る呪文を叫び、影帽子の未だ見ぬ機能を魅せて魅せたのだ。

「全周裂開! 翠様に敬意を評し、影帽子の真髄、解放するわよ!」

 ミコの詞に呼応して、影帽子のがま口チャックが開いた。だが何時もの様にただ開いた訳では無い。口裂け異形の伝承宜敷く、其のチャックは何時もなら開き切って止まるべき場所で止まらず、影帽子を裂く様に頭の後ろまで回り回って一周。影帽子を切り裂いた。

 そして『中身・口』に当った部分は、端から見れば真っ直ぐなトンガリ帽子を丁度チャックを境目にくしゃっと潰している――そんな見てくれ其の物に成った。

 が、ミコが『魅せる』と豪語したのは伊達ではない事を、直ぐに神様全員が思い知る。全周全方位が黒い口の入口と化した影帽子は、前後左右全方向から通常の35倍もの量の黒いアイテムミコのアイテムをあっという間に展開したのである。特に61本も飛び出してきた黒い腕・手の異様ぶりは凄まじく、「蜘蛛か? 蛸か? それとも烏賊か?」と祭が突っ込む程である。

 更にミコが出したのは其れ丈に留まらず、何と俗世高級家具メーカ、ロイヤルドリーム社の玉座に天蓋、果てはワークアシスト用可変アーム式リトルデスク付フットレストまで別に持ち出して其の上に腰掛け足を乗せ、御丁寧に玉座の方をリクライニングさせ半分寝ているかのような体勢になり、上を天蓋で覆って終いと云う、どっからどう見てもカードゲームする人とは思えない体勢。いや、体勢云々の問題ではなく傲岸不遜を地で行く態度其の物が神様仲間達の神経を逆撫でした。審判役の天と希が、血相変えて詰問する。

「ちょっと? ミコ? なにやってんの?」「無礼千万不躾極まりない! 直ぐに止めなさい!」

 普通なら聞き入れるのが道理だろう。だって正論は神に在るのだし。

 だけどそんな理屈や常識、ミコ=R=フローレセンスには通じない。

 彼女は非常にリラックスした口調で、嬉々淡々と丁寧に神に逆らう。

「なんで止める必要があるの? これは非常に『贅沢な』ゲームなんでしょう? 設計図を持つ者にしかプレイさえもできない、人間俗世の常識からかけ離れたゲーム、それが“ファニータイム”でしょ? ならプレイスタイルだって常軌を逸してなんぼじゃないかしらねー。まあ舐め切っている態度と捉えられても仕方のないこと。ひとつ弁明しときましょう。この体勢、そして全周裂開のコードで影帽子の機能を全開にしているこの状態こそ、わたしの本気。だからそう受け取ってさ、笑ってプレイしましょうよ」

 其処まで喋ってミコは更に自分の指を鳴らす。すると黒い手が群がってきて、ミコが手に持っていた7枚の手札を一枚ずつ手に取って一手に一枚の手札となった。早い話が手の数にものを言わせ、手札を一枚ずつバラバラに持たせている状態。「此れが本気?」神様応援団と審判団は開いた口が塞がらず、「Boo! Boo!」とブーイングの嵐。だが其れも程なく終焉に向かった。最大の発言力を持っていて然るべき神様代表相手プレイヤーの翠がミコの態度を『是』としたから。その口上は下記の通り。

「イー、E、いーじゃない! 流石はミュー達神様連中から29個もの設計図を盗んだ稀代の女傑ミコ=R=フローレセンス! 皆は文句云うけどさー、此れくらいやってもらわないとミューとしては潰し甲斐が無いってね! 余裕の態度? 上等よ。勝負が決した時勝ち誇った顔でいられるのは『ドヤ顔の一般女子』で知られるこの翠=ミュージックよ!」

 翠がそう宣言した途端、大ホールを囲む回廊に屯する神様応援団達がミコへの文句を飽きたかの様にピタリと止めて、翠への応援と切った啖呵への賛辞に切り替えていた。相当現金な連中だが、其れが神様クオリティ。

 ともあれ始める前に一悶着在るのも又らしいと云えば実にらしい。気を取り直して審判役の天と希が「では再開する」「1本目、始め!」とコールし腕を振り上げて、勝負が遂に始まった。

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