第6話_神様達の敗北(カーレント編)
コスモタワーをぐるっと覆う輪型の広大ショッピングモール、メビウス・ラウンズ。
直径54,0メートル、高さ168メートルのコスモタワーを更に分厚く囲うメビウス・ラウンズ。其の直径はコスモタワーを囲った分を含めて314メートル。ショッピングモール部分の1階当たりの面積は優に75,146㎡を数える。他の都の其れと比べると決して大きい方とは言えないが、各ゾーンに自然公園の配備が義務づけられているガデニアでは、尤も大きなショッピングモールだった。
其の吹き抜け2階建て構造の回廊店舗街、その1階部分75,146㎡をまるまる海水で覆っていたのが、気象一族の海流の女。其の女に対峙する神様は3名。
変異の神、巴=フラッグシップ。
季節の神、萌=プリズムリリック。
食の神、禊=ハレルヤ。
以上3名が海水の満ちた空間に立ち、浮き、飛んで構えながらも、自分達目掛けて襲いかかって来る水製の獰猛種達の相手に手間取っていた。
1階部分が全て気象一族海流の女のテリトリィと化している今、相手が繰り出す、水人形は無限と言っていい程の数がある。其れを捌ききるのに苦労しているのだ。調理上手な禊をしてでも多忙に追われ後がない。正味な話無傷であることが誇らしいし、実力の証明。
だが、いつまでも海水の玉座にふんぞり返られているというのは神様としては腹が立つ。そこで萌、巴、禊は一念発起。空中一列に集結した後禊が全身から、包丁、チェーンソー、ナイフ、フォークなど数多の調理食事器具を取り出し、一気呵成に玉座の女目掛けて突っ込んだ。巴が其の直ぐ背後に、萌が最後衛に着く。
「面白そう! なんか考えがあるみたいじゃないのさ。でも三段構えの突撃で、わたしのオートマタ軍団を止められるかな? さあさ運命の瞬間だ!」
玉座に座った気象一族海流の女は足まで組んで傲岸不遜に受け止めの構え。その直下海水プールからは大型で獰猛な海生生物の身体を模した女の言うところの『オートマタ』が大量に襲いかかってきた。いや、これは襲いかかれると言うより群がられると言った方が正確だろう。詰まる所この女は自分達神様を“餌”として見させているのだ。なんという傲慢さ――其処に付け入る隙がある!
「うりゃりゃりゃりゃ!」禊は前に特化して攻撃を繰り出し突破口を開ける。其れ以外の方向には哲教授の空間爆破の真似事で移動空間を維持する構え。
「はああああ!」ついで巴が禊の捌いたオートマタの欠片を掴み、握って下の海水プールに投げつける。すると事態は一変! 海水プールは何らかの異常を発したのだ。
当然玉座も崩れ落ち、オートマタ軍団も水であることが嘘のように、灰のごとく崩れ去る。其れこそが神様達の作り狙った好機そのもの!
「萌、今よ!」「服飾演武、“笙の風音”!」
そして最後衛に着けていた萌が――いつの間にか着物発祥の地域で昔着られていた、上流階級の略服に着替えていた萌が、姿勢を崩した気象一族海流の女に手痛い打撃を繰り出した。女の身体は宙を舞い水に撥ね、海水プールを寝床に倒れる。
「どんなもんだい!」神様3名、一斉唱和。殴り蹴り飛ばされた気象一族海流の女はようやく得心がいったという顔で殴られた頬を拭いながらこちらに聞こえるように呟く。
「なーるへそ。恐らく肝は第二撃目。あのとき二番目の神様は斬られたオートマタの欠片を戻した。つまりはそれが仕掛けだったんだ。恐らく毒素や病素の類。なんせ貴女の通り名は変異の神なんですものね。巴女史?」
「ほう、よくわかったわね。その通り。わたしは病気兵器を操り闘う。レパートリィも豊富だよ。いつまでも余裕面出来ると思うんじゃないことね」
「キャーッ! 巴、カッコいいーッ!」
巴の歓声萌の嬌声。2名の女神の嘲笑が木霊する中、ものの見事に一杯食わされた気象一族海流の女は静かに水面に立ち上がり、「OK、馴れ合いもここまでね」とあくまで神様を相手に、上から目線で語りかける。その物言いに、3名は、喜びも掻き消され動揺を隠さず詰問する。
「ちょっと、どういうこと? こっちはもう攻略したって……」
萌が軽口を口走るのを中断するように、誰もいないショッピングモールの雰囲気が変わった。気象一族の女から、とんでもない殺気が溢れていた。
「もういいわ。マンネリを破ってくれたお礼にこっちの最高戦力で相手してあげる。さあ、出てきなさい。海王『ロヴィスポルター』!」
気象一族の女がそう叫んだ途端、禊、巴、萌は『飲み込まれた』。
「あり? 水が引いたよミコ」
「そうね、エレーヌ。どうやらカーレントがケリを着けたようだわ」
「お。そうかと思えばカーレント。おーい!」
「おや? ミコにエレーヌじゃないのさ。どうやらそっちは終わったようさね」
ミコは吹き抜け2階部分の壁に張っていた黒いレールを歯車もろともしまうと、エレーヌを落とし、自分も海水の引いた1階に着地し、同じ気象一族だった仲間のもとへと歩み寄る。側にはピクリとも動かない禊、萌、巴の残骸が横たわっていた。
「勝ったんだ。早いわね。ミコに助けてもらったわたしとはえらい違い。伊達にデイリークラス・プラネットスケールじゃないね。なんてね」
「まあね。そちらさんも終わっているようじゃないか。レイン、残りは誰が残ってんのさ?」
カーレントの打ち解けた問いに、ミコは影帽子のがま口チャックから黒いアンテナを出して情報収集を始めた。ほどなくして結果が出る。
「ウィンドは遊んでるね。相手は2名だし……一人でも充分でしょ。神様達が数を割いてるのは花一族の三人だけど、なかなかどうして、コスモスもスイートピーもカトレアも、いい勝負してるよ。十分すぎるくらい互角の勝負ね」
「じゃあ」エレーヌの問いかけに、ミコもカーレントも応じる。
「ええ。まずはウィンドの援護。それから一気にみんなで花一族女委員たちの応援に行きましょ。場所が場所だし、主役はやっぱ彼女たちなのよ。さて、12,13,14人目。二人とも行くよ。捕まって」
そう言って一度はしまった黒いレールと黒い歯車を今度は1階部分に施設したミコは、ぶら下がるためのワイヤーをエレーヌとカーレントにも貸し与え、三者列車のごとく連結しながらまた回廊店舗を高速で移動しだした。




