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プロローグ

      プロローグ


 2026年。冬の日。

 高層ビルが立ち並ぶメインストリート。見慣れた街はみな廃墟はいきょし、手入れの届かぬ箇所にはコケや雑草がのきを連ねる。雪にいろどられたニューヨークの広い道路を、幾人いくにんもの武装した「赤ずきん」が走り去る。

「ハッ、ハッ・・・・・・!」

 白い吐息を口から漏らしながら、彼女たちは戦い続けていた。

 手にする武器は様々。ワルサー社の拳銃もあれば、かつて自衛隊に認可にんかされていたライフルもある。

 人気ひとけのない道を、何故なぜあんなにも隠れるようにして進むのか。ひとえに、彼らに感づかれてはならないからだ。

 「彼ら」とは何か?

 ――――人狼ヴェアヴォルフである。


 この10年で世界情勢は大きく変動した。

 西暦2016年に起きた人狼の侵略戦争で世界は大混乱。瞬く間に支配・蹂躙され、93%もの人類が滅ぼされた。

 おかげであらゆる機関は機能停止を余儀なくされ、地球を覆っていた温室効果ガスは次第に減少(正確には、凍っていった)。わずか6年足らずで氷河期を迎えたのだ。

 そのため年がら年中雪が降り続け、屋外で活動する事もままならなくなっている。

 技術の進歩により、一応寒さを凌げる衣服はあるものの、質が良いとは言えず、せいぜい半日以内に地下の居住スペースもしくは防寒施設内に帰還しないと凍死してしまう。

 侵略を生き延びた人々は各地でレジスタンスとして蜂起し戦い続け、限られた武器や食料の中、人狼に抗っている。

 一部の人間は人狼に捕らえられ、自由の無い安寧の中、奴隷として生き永らえる者もいる。



 対人ライフル“ワルサーWA2000”の乾いた発砲音が、1人の少女の耳をかすめる。

 彼女の名はジャンヌ。

 赤いフードが付いたパーカー。脚の付け根あたりまでしかない短いデニム。2~3枚重ね着したストッキングで防寒していた。

 彼女もまた、レジスタンス「赤ずきん」の一員であり、その中でも特に強い1人に数えられている。

 だが集団行動・人命を最優先させる「赤ずきん」の鉄則があろうとも、その復讐心からいつの間にか単独行動し、そして数多あまたの人狼を殺す。それがジャンヌだ。

 彼女の武勲ぶくんは人間側にも人狼ヴェアヴォルフ側にも知れ渡り、その武力的な強さと復讐心の強さから畏敬いけいの念を込めて「赤ずきんの復讐者(The Avanger of Little Red Riding Hood)」と呼ばれるようになっていた。


「グアッ・・・・・・!」

「――――ッ!」

 頭上からの狙撃そげき。直線距離にして1kmキロメートル

 既に使われなくなって久しい廃ビルの3階から憎き人狼を殺す。その数、現行の2体を含め、本日で17体。

(――――あと何体、殺せばいい?)

 勝利の余韻よいんに浸る間もなく、金髪の少女はそそくさと移動を開始する。

 発砲音と被弾角度から現在地が特定されては元も子もない。

 幾つもの建築物の影にまぎれ、雪の降り積もる悪路を駆け抜ける。


 先程まで居た狙撃地点から、猛り狂う人狼の怒号どごうひびく。

「どこだぁ! 人間め! よくも我らが同胞どうほうをっ!」

 それに呼応して、あちらこちらからも憤怒の色を隠せない声が聞こえる。

「探せぃっ! くまなく探せぇ!」

「逃がすなぁぁぁっ!」

 響き渡る声を背に、彼女は次なる目標を探す。


      『――――敵に見つかる前に、どれだけあらがえるか――――』


 細い道を抜けた裏路地で、出会いがしらに3体の人狼へ発砲する。

「うぐぁぁっ!」

 2体の人狼が頭蓋ずがいを砕かれ即死する中、1体が肩を抑えてうめく。

(しまった! 仕留め損ねたっ!)

 そう思うやいなや、彼女はさらに1発、銃弾を脳天にお見舞いすると、少女とは思えない俊敏しゅんびんさで疾駆する。

 突き当たった角を曲がり、より細い路地をまたたく間に抜け、出くわした2体をほふる。


「いたぞ! 赤ずきんだ!」

 だが、遂に見つかってしまう。

 相手は人狼だ。その筋力は人間のではなく、走力そうりょく並大抵なみたいていではない。追手おってを必死に振り切ろうと、左手に持った小型マシンガンで銃弾の雨をぶっぱなす。時たま、撃ちながら空いた右手で手榴弾しゅりゅうだんを転がす。

 しかしそれゆえに命中精度は悪く、弾丸は当たってもひざや二の腕、運が良ければ脇腹にめり込むといった程度。

 追い込まれた彼女は路地を抜けて角を曲がり、人狼たちの死角に入った途端とたん、目の前に広がる冷たい小川へ舞い踊った。

 そして素早く、流れの速い水路の陰に隠れた。

 後は最早もはや、彼らが立ち去るのを待つばかりである。


「くそっ、どこへ行きやがった!」

 追いかけてきた5~6体の人狼たちは対象を見失い、声を荒げる。

「川に入ったらしいぞ」

 その内の1体が即座に匂いを辿るが、

「匂いを消された。これではどこに向かったか分からない」

 水に入られた事で匂いが途切れてしまったため、追跡を断念した。

「畜生っ!」

 苛立いらだちから、先頭の1体がこぶしを壁に叩きつける。

 だが彼女が飛び込んだのは真冬の川だ。凍りつくように冷たい。

 そして彼女が着用している服は、機動性を重視した短パンとヒートテックのストッキングだ。

 水の冷たさで、足の感覚はもはや無いに等しい。

 彼女は人狼たちが居なくなるまで、ひたすらに息を殺して待ち続けた。


      『――――最善の道はどこにある――――?』


(ハァ、ハッ、ハァ、ハァッ・・・・・・!)

 人狼たちが去っていく。

 雪道を踏みしめるザクザクした足音がとお退く。


 そこで彼女の意識は――――こと切れた。


 この作品は「生きるとは何か」「善悪とは何か」をテーマに創作したSFアクションです。

 原案自体は高校時代が終わる頃に思いついたもので、そこから少しずつ練り上げてきました。


 当初は全シーンを書き上げてから投稿しようと思っていたのですが、オープニングとエンディング、そして重要なシーンだけを抜粋しても、あまりに量が多くなってしまう事が想定されました。

 加えて、連載形式でアップしたほうがモチベーションも保ちやすいだろうと判断し、少しずつ投稿する事に致しました。


 実を言うと、この作品は「Fate/stay night」(原作:奈須きのこ氏)のように、元のシナリオから派生する3つのルート分岐の1つとして創りました。

 他の2つも展開するつもりですので、どうぞお楽しみに。

 僕の世界観を詰め込んだこの作品をご堪能頂ければ幸いです。

 ――――では、また。

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