第1話:赤ずきんの復讐者(1)
人類が人狼に支配・侵略されてから13年。
人類は人狼に見つからぬよう、あらゆる場所に身を隠した。地中、水中、時には人狼の目を欺いて。
ある人々は人狼を倒すために立ち上がり、ある人々は人狼の奴隷・家畜として生き永らえ、ある人々は平穏な日々を夢見ていた。
さらに人類の勢力は、大きく2つに分かれていた。
1つは、人狼に立ち向かうために結束した人々が創り上げた集団“赤ずきん”。家族・友人を目の前で人狼に殺された者たち。人狼に対して憎悪・嫌悪を抱く者ばかりである。人狼を破滅・絶滅させる事こそが彼らの悲願であり、いかなる人狼であろうとも容赦はしない。
もう1つは、『世界はただ“神”のものである』とし“神の世界”を作らんとする、通称:涙の教会「TEARS」。彼らは『全ては“神”の御心のままに赦される。異形でさえも“神”はお許し下さる』という教義の一方で、人狼を手駒に世界を統一しようと目論む上層部の思惑の下、反抗・敵対する人狼及び異教徒は殺戮してもいいと教育されている矛盾した教会組織である。
2つの勢力の目的は“人狼を倒す”という意味では一致していた。
だが“人狼を倒した後にどうするか”が根本的に違っていた。故に2つの勢力は協力していながらも、度々反発し合っていた。
いかにして敵対勢力を貶め、退けるか。いつの時代でも醜い勢力争いは起こるものであった。
――――たとえ人類が破滅を迎えようとしている最中であっても。
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『いやだぁぁぁっ!
――――お母さん!
――――――お母さぁぁぁん!』
別れは突然やってきた。
攻め寄せてきた人狼の黒い群れは、たちまち世界中へ拡散した。否応なく戦いに巻き込まれ、侵略される人間たちは為す術無く滅亡の一途を辿った。
少女は両親と共に宛もなく逃げるほか無かった。
なぜなら彼らの力は強大だ。ドアや窓ガラスなど、意にも介さず破壊される。
また彼らは“人間”としても生きてきたため、人類がどのように逃げるか、対抗するかも考慮済みだった。
あらゆる国の兵器はまるで役に立たず(正確に言えば軍部に潜入していた人狼が兵器を破壊し尽くした、あるいは自ら兵器を用いて人類に攻撃したために無力化されたから)、人工衛星なども破壊されたため人類の情報網は混乱。人類の頭脳とも言える各組織は次々に壊滅し、自然を踏み躙ってきた文明は滅びの時を迎えた。
さらに人狼による略奪・強姦・虐殺が横行。
人狼や吸血鬼の繁殖方法としても知られる“継承の刻印”(標的に噛み付き、同族の力を与える方法)も、ごく少数ではあったが行われた。
見知ったはずの街並みや道路、細い路地なども、ただ凄惨な殺戮現場へと姿を変える。見知った人間がすぐ目の前で惨殺され、犯され、蹂躙され、壊されていく。
そんな様子をチラリと振り返っては、また逃げるしかなかった。
追いつかれると分かっていても、逃げるしかなかった。
『あっ!』
角を曲がったところで幼い彼女はつまずいてしまう。
『くっ・・・・・・!』
彼女の父親がそれを助けに戻る。彼女を背負い、追いつかれる前に逃げ出す。
うろたえる彼女の母親を連れて、一家は宛もなく逃げ続けた。
だが――
『!!』
母親の目の前に黒い影が、人狼が立ちふさがった。
『ガアアアァァァっ!』
人狼が彼女の母親を殴り飛ばす。
『ぐはっ!』
腹部を斜めに穿たれ、母親は海老反りで浮き、仰向けに地へ落ちた。
『母さん!』
幼い少女は、ありったけの声で叫んだ。
母親を殴り飛ばした人狼の他にも3~4体。彼女を蹂躙しようと群がってくる。
『母さん! お母さん!』
幼い少女は叫ぶばかり。
『行きなさい!』
助けに行こうとした父と娘にそう言うと、母親は手にした手榴弾のスイッチを押した。
逃げようと最早手遅れ。彼女の衣服に手を掛けていた人狼は木端微塵に消し飛び、運良く生き残った者も半身近くを失う重傷。
少なくとも、父親と娘が助かるための活路は開けた。
『いやだぁぁぁっ!
――――お母さん!
――――――お母さぁぁぁん!』
少女の叫びは遠退くばかり。
――――面影を失くした母のお腹には、少女の弟となる筈だった命が胎動を止めていた。




