第三十九話 異世界貿易、始動
魔石から発生している電気的な反応を確認したあとも、奏はすぐに実験を終わらせようとはしなかった。
むしろ、そこからが本番だった。
机の上には、サイエスから持ち帰った魔石がいくつも並べられている。大きさも色も形もまったく異なるそれらは、地球の鉱物標本と比べても異質な存在感を放っており、光の当たり方によって内部に淡い輝きが浮かび上がるものまであった。
奏は、その一つを手に取る。
表面は硬い。
しかし、完全な石というわけでもない。
触れた指先から、ほんの僅かな振動が伝わってくる。
まるで。
石そのものが。
何かを。
呼吸しているようだった。
「……」
奏は無言のまま魔石を観察した。
研究所で仕事をしている時の彼女は、普段の大雑把な性格からは想像できないほど慎重だった。
仮説を立てる。
実験する。
結果を記録する。
再現性を確認する。
そして。
結果が予想と違えば。
最初から考え直す。
奏にとって、研究とはそういうものだった。
だからこそ。
目の前の魔石は、彼女の知的好奇心を猛烈に刺激していた。
「アイリス」
『はい、奏様』
「この魔石について、分かることを全部教えて」
『承知しました』
奏の目の前に、半透明の画面が浮かび上がった。
それは地球で使われている一般的なディスプレイとは違う。
空中に直接表示される、光の板。
しかし。
その情報量は、研究者である奏でさえ一瞬で理解することができないほど膨大だった。
『対象物を解析します』
「よろしく」
奏が魔石を。
専用の台座へ置いた。
その隣では、琴子が腕を組んでいる。
琴子は魔石を眺めながら、どこか納得できないような表情を浮かべていた。
「……」
「どうしたの?」
「いえ」
琴子は。
少し考えるように。
魔石を見つめた。
「私たちは今まで、これを単純に魔力の結晶だと思っていました」
「違うの?」
「分かりません」
「……」
「でも」
琴子は。
ゆっくりと。
言葉を続けた。
「魔力を保存しているだけではないような気がします」
「……」
「だって」
琴子は。
机の上にある電圧計を見る。
「これ」
「うん」
「何もしていないのに」
「……」
「電圧が発生していますよね」
「そう」
奏は。
電圧計の数値を見た。
微弱。
しかし。
確実に。
電気が発生している。
「魔石そのものが」
奏は。
静かに呟いた。
「エネルギーを作っているのか」
「……」
「それとも」
「……」
「魔力を」
「……」
「電気に変換しているのか」
「……」
琴子は。
しばらく黙った。
「どちらにしても」
「……」
「地球には存在しないエネルギー源ですね」
「うん」
奏は。
嬉しそうに笑った。
「すごいよ」
「……」
「これ」
「……」
「本当にすごい」
「……」
「だって」
奏は。
魔石を。
両手で持ち上げた。
「もし魔石から電力を取り出せるなら」
「……」
「サイエスで」
「……」
「地球と同じような電気文明を」
「……」
「作れるかもしれない」
「……」
「……」
琴子は。
すぐには答えなかった。
奏の言っていることが、技術的には正しい可能性が高いことを理解していたからだ。
けれど。
同時に。
それが意味することも。
理解していた。
「奏」
「何?」
「それ」
「……」
「やるつもりですか?」
「……」
奏は。
少しだけ。
首を傾げた。
「何を?」
「サイエスの文明を」
「……」
「変えること」
「……」
「……」
奏は。
黙った。
そして。
魔石を。
そっと。
机へ戻した。
「……」
「分からない」
「……」
「まだ」
「……」
「私は」
「……」
「そこまで考えてない」
「……」
「でも」
「……」
「もし」
「……」
「私たちが」
「……」
「本当に」
「……」
「サイエスに」
「……」
「地球の技術を持ち込むなら」
「……」
「当然」
「……」
「何かが変わるよね」
「……」
「そうです」
琴子は。
小さく。
頷いた。
「だから」
「……」
「慎重に進める必要があります」
「……」
「うん」
奏も。
頷いた。
珍しく。
素直だった。
「まずは」
琴子が。
ノートを開く。
「小規模な商売から始めます」
「……」
「地球の商品を売る」
「……」
「サイエスの商品を買う」
「……」
「そして」
「……」
「利益を出す」
「……」
「その利益で」
「……」
「武器を買う」
「……」
「防具を買う」
「……」
「必要な素材を買う」
「……」
「そして」
「……」
「私たち自身が」
「……」
「強くなる」
「……」
奏は。
頷いた。
「邪神を倒すために」
「……」
「はい」
「……」
「邪神を倒すために」
琴子は。
改めて。
ノートへ。
計画を書き込んだ。
その文字は。
地球の金融会社で働く彼女らしい、非常に整ったものだった。
しかし。
その内容だけを見れば。
とても金融会社員が作る計画とは思えない。
異世界貿易。
武器調達。
レベリング。
邪神討伐。
魔法陣銃開発。
そして。
地球と異世界を繋ぐ。
秘密の交易路。
「……」
奏が。
ノートを覗き込んだ。
「琴子」
「何です?」
「これ」
「……」
「会社の事業計画より」
「……」
「大規模じゃない?」
「……」
「……」
琴子は。
無言で。
ノートを閉じた。
「見なかったことにしてください」
「……」
「いや」
「……」
「無理でしょ」
「……」
「なら」
琴子は。
立ち上がった。
「買い物に行きますよ」
「……」
「買い物?」
「はい」
「何を?」
「サイエスに持っていくものです」
琴子は。
スマートフォンを取り出した。
「まず」
「……」
「需要がありそうなものを」
「……」
「少量ずつ」
「……」
「購入します」
「……」
「そして」
「……」
「現地で販売します」
「……」
「……」
奏は。
少し考えた。
「日本の商品」
「……」
「持っていくの?」
「そうです」
「……」
「何が売れるか分かりませんから」
「……」
「まずは」
「……」
「試してみる」
「……」
「それが一番です」
「……」
奏は。
笑った。
「じゃあ」
「……」
「ホームセンター」
「……」
「却下」
「……」
「何で?」
「奏が」
「……」
「余計な物まで買うからです」
「……」
「工具」
「……」
「必要でしょう?」
「……」
「必要以上に買います」
「……」
「……」
「買いません」
「……」
「本当ですか?」
「……」
「……」
奏は。
少しだけ。
目を逸らした。
「……」
「ほら」
「……」
「やっぱり」
琴子は。
深いため息を吐いた。
その後。
二人は。
地球側での「異世界輸出品」を選ぶため、かなり本格的な検討を始めた。
最初に候補に上がったのは、食料品だった。
しかし。
サイエスの食文化を知らない以上、いきなり大量に持ち込むのは危険だ。
そこで。
保存性の高い商品を中心に考えることになった。
インスタント食品。
レトルト食品。
乾燥食品。
缶詰。
調味料。
そして。
お菓子。
「……」
奏が。
大量の菓子を。
カートへ入れていく。
「奏」
「何?」
「それ」
「……」
「商売用ですか?」
「……」
「もちろん」
「……」
「本当に?」
「……」
「……」
奏は。
カートを見る。
そこには。
チョコレート。
クッキー。
飴。
スナック菓子。
グミ。
その他。
様々な菓子が入っていた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
琴子が。
奏を見る。
「……」
「……」
「……」
「何?」
「……」
「奏」
「はい」
「あなた」
「……」
「食べたいだけでは?」
「……」
「違う」
「……」
「じゃあ」
「……」
「何故」
「……」
「そんなに」
「……」
「嬉しそうなんですか?」
「……」
「……」
「異世界のお菓子」
「……」
「食べてみたいじゃん」
「……」
琴子は。
頭を抱えた。
「……」
「それは」
「……」
「分かりますけど」
「……」
「……」
しかし。
琴子自身も。
カートの中へ。
いくつかの商品を追加した。
「……」
奏が。
それを見る。
「琴子も」
「……」
「食べたいんじゃん」
「……」
「違います」
「……」
「市場調査です」
「……」
「はいはい」
「……」
「何ですか、その顔」
「別に」
「……」
二人は。
その後。
大量の食品を。
買い物かごへ入れた。
そして。
衛生用品。
石鹸。
シャンプー。
歯ブラシ。
歯磨き粉。
タオル。
女性用品。
さらに。
文房具。
ボールペン。
鉛筆。
消しゴム。
ノート。
ハサミ。
定規。
工具。
簡易照明。
乾電池。
LEDライト。
そして。
奏が。
特に欲しがったもの。
電池式の小型扇風機。
「……」
「これは」
「……」
「売れると思う」
「……」
奏が。
真剣な顔で。
言った。
「夏」
「……」
「暑いから」
「……」
「……」
「サイエスに」
「……」
「電気はありません」
「……」
「でも」
「……」
「魔石がある」
「……」
「……」
琴子が。
奏を見る。
「……」
「つまり」
「……」
「魔石を電池代わりに」
「……」
「小型扇風機を動かす?」
「そう」
「……」
「それ」
「……」
「面白そうですね」
「……」
「でしょ?」
琴子の目も。
少しだけ。
輝いた。
「……」
「なら」
「……」
「持っていきましょう」
「……」
「やった」
奏は。
小さく。
拳を握った。
そして。
買い物を終えた二人は。
大量の荷物を。
自宅へ運び込んだ。
普通なら。
とても二人で持ち運べる量ではない。
しかし。
琴子には。
アイテムボックスがある。
「……」
琴子が。
手をかざす。
次々と。
商品が。
消えていく。
「便利だね」
「……」
「アイテムボックス」
「……」
「本当に」
「……」
「これがなければ」
「……」
「異世界貿易なんて」
「……」
「できませんよ」
「……」
「だよね」
奏は。
自分のスキル欄を見る。
縁切り∞。
鍛冶。
料理。
そして。
共有されているギフト。
異世界貿易共有。
複製能力共有。
アイリス。
自分の能力は。
琴子とは違う。
しかし。
二人でパーティを組んでいることで。
お互いのギフトを共有できる。
それが。
今の二人にとって。
何よりも大きな強みだった。
「……」
「奏」
「何?」
「あなた」
「……」
「今」
「……」
「何を考えてます?」
「……」
「別に」
「……」
「……」
琴子が。
じっと。
奏を見る。
「……」
「魔法陣銃?」
「……」
「違う」
「……」
「……」
「魔法陣銃ですよね」
「……」
「……」
「はい」
奏は。
あっさり。
認めた。
「だって」
「……」
「せっかく」
「……」
「魔法を使えるのに」
「……」
「魔法陣が出ないんだよ?」
「……」
「……」
「それ」
「……」
「まだ言ってるんですか?」
「言うよ」
奏は。
真剣だった。
「魔法」
「……」
「魔法陣」
「……」
「出てほしい」
「……」
「……」
琴子は。
ため息を吐いた。
「分かりました」
「……」
「好きにしてください」
「本当?」
「はい」
「……」
「ただし」
「……」
「私の銃も」
「……」
「作ってください」
「……」
奏の目が。
輝いた。
「もちろん!」
「……」
「真奈美さんのも」
「……」
「作る」
「……」
「……」
琴子は。
少しだけ。
嫌な予感がした。
「奏」
「何?」
「……」
「まさか」
「……」
「あなた」
「……」
「全員分」
「……」
「作るつもりですか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
奏は。
黙った。
「……」
「奏」
「……」
「答えてください」
「……」
「……」
「……」
「……」
「作りたい」
「……」
「やっぱり」
「……」
琴子は。
頭を抱えた。
しかし。
奏の頭の中では。
すでに。
魔法陣銃の設計が始まっていた。
魔法を発動する。
その瞬間。
銃口の前に。
魔法陣が展開する。
魔力が。
魔法陣を通過する。
銃弾の代わりに。
魔法が放たれる。
炎。
氷。
雷。
風。
土。
光。
闇。
それぞれの属性に応じて。
異なる魔法陣が浮かび上がる。
「……」
奏の脳内で。
設計図が。
組み上がっていく。
「……」
「……」
「奏?」
「……」
「奏」
「……」
「聞いてます?」
「……」
「……」
「……」
奏は。
完全に。
自分の世界へ。
入り込んでいた。
琴子は。
そんな妹を見て。
諦めた。
「……」
「もう」
「……」
「止めても無駄ですね」
「……」
「うん」
奏は。
即答した。
「……」
「聞いてたんですか」
「聞いてた」
「……」
「……」
琴子は。
小さく。
笑った。
昔から。
そうだった。
奏は。
興味を持ったことには。
とことん。
突っ込んでいく。
そして。
琴子は。
そんな奏の暴走を。
横から。
現実的な方向へ。
修正する。
それが。
二人の関係だった。
だからこそ。
今も。
こうして。
二人で。
異世界へ向かう準備をしている。
「……」
琴子は。
ふと。
窓の外を見た。
地球。
自分たちが。
生まれ育った世界。
そして。
その向こうには。
もう一つの世界がある。
サイエス。
そこには。
二人を待っている人間がいる。
そして。
敵もいる。
「……」
琴子は。
静かに。
拳を握った。
「……」
邪神。
あの存在だけは。
許せない。
自分たちを。
勝手に召喚した。
勝手に。
ゲームのように扱った。
そして。
異世界そのものを。
自分の玩具として。
眺めている。
「……」
琴子は。
思った。
絶対に。
倒す。
そのためなら。
何でもする。
金を稼ぐ。
武器を買う。
レベルを上げる。
情報を集める。
仲間を作る。
必要なら。
世界そのものを。
敵に回しても。
構わない。
ただ。
その前に。
「……」
「奏」
「何?」
「明日」
「……」
「サイエスへ行きますよ」
「……」
「うん」
「……」
「市場調査をします」
「……」
「うん」
「……」
「余計なことはしない」
「……」
「うん」
「……」
「本当に?」
「……」
「うん」
「……」
「……」
琴子は。
妹を見る。
奏は。
真剣な顔をしていた。
「……」
「分かりました」
琴子は。
頷いた。
「では」
「……」
「明日の朝」
「……」
「サイエスへ向かいましょう」
「うん」
「……」
「今度は」
奏が。
言った。
「……」
「初心者の森から」
「……」
「始まりの町まで」
「……」
「ちゃんと」
「……」
「歩いて行こう」
「……」
琴子が。
目を細めた。
「……」
「なぜです?」
「市場調査」
「……」
「……」
「本当に?」
「……」
「本当に」
「……」
「……」
「……」
「奏」
「はい」
「あなた」
「……」
「レベリングしたいだけでしょう?」
「……」
「……」
「……」
「ちょっとだけ」
「……」
「……」
琴子は。
盛大に。
ため息を吐いた。
「……」
「分かりました」
「……」
「ただし」
「……」
「無茶は禁止です」
「……」
「了解」
「……」
「それから」
「……」
「魔法陣銃の実験は」
「……」
「安全な場所で」
「……」
「分かった」
「……」
「……」
「……」
「本当に?」
「……」
「分かったって」
「……」
「……」
そして。
翌朝。
二人は。
再び。
サイエスへ向かうことになった。
琴子のアイテムボックスには。
大量の商品が入っている。
調味料。
食品。
衛生用品。
文房具。
工具。
乾電池。
LEDライト。
そして。
小型扇風機。
奏のアイテムボックスにも。
必要な装備が。
いくつも入っている。
さらに。
奏の腰には。
まだ未完成の。
魔法陣銃の試作機が。
一本。
吊り下げられていた。
それは。
地球の銃を。
そのまま。
真似したものではない。
銃身。
魔石。
魔導回路。
そして。
魔法陣を投影するための。
特殊な装置。
それらを組み合わせた。
奏だけの。
試作品だった。
「……」
奏は。
それを。
嬉しそうに。
撫でる。
「……」
「まだ」
琴子が。
言った。
「未完成ですからね」
「分かってる」
「……」
「試作品です」
「……」
「絶対に」
「……」
「勝手に撃たないでください」
「……」
「分かってるって」
「……」
「……」
琴子は。
疑っていた。
非常に。
疑っていた。
そして。
その予感は。
数時間後。
見事に。
的中する。
転移。
白い光。
そして。
視界が。
切り替わった。
そこは。
サイエス。
初心者の森。
二人が。
最初に。
召喚された場所。
懐かしい。
木々。
鳥の声。
魔力を含んだ空気。
そして。
「……」
「戻ってきた」
奏が。
小さく。
呟いた。
琴子も。
周囲を。
見回す。
「……」
「まずは」
「……」
「始まりの町へ」
「……」
「そして」
琴子は。
アイテムボックスから。
一つの箱を。
取り出した。
「……」
「何それ?」
「商品です」
「……」
「何を売るの?」
「……」
琴子は。
箱を。
開けた。
中に入っていたのは。
日本の。
調味料だった。
「……」
「醤油」
「……」
「味噌」
「……」
「だし」
「……」
「それから」
「……」
琴子は。
小さな瓶を。
取り出した。
「……」
「これは?」
「試作品です」
「……」
「私が」
「……」
「日本の材料で」
「……」
「作った」
「……」
「調合品」
「……」
「……」
奏は。
目を丸くした。
「それ」
「……」
「売るの?」
「ええ」
「……」
「サイエスの材料ではなく」
「……」
「地球の材料を使った」
「……」
「異世界調味料」
「……」
「……」
琴子が。
笑った。
「異世界貿易」
「……」
「最初の商品です」
その瞬間。
森の奥から。
何かの音が。
聞こえた。
「……」
「……」
「……」
奏が。
振り返る。
琴子も。
そちらを見る。
木々の向こう。
何かが。
動いている。
「……」
「魔物?」
「……」
奏の手が。
魔法陣銃へ。
伸びる。
「奏」
「……」
「撃たないでくださいよ」
「……」
「分かってる」
「……」
しかし。
奏の目は。
明らかに。
楽しそうだった。
「……」
琴子は。
嫌な予感がした。
そして。
森の奥から。
一匹の魔物が。
姿を現した。
「……」
「……」
奏が。
銃を構える。
その瞬間。
銃身の内部で。
魔石が。
淡く。
光った。
「……」
「奏」
「……」
「何ですか?」
「……」
「魔法陣」
奏が。
笑った。
「……」
「出るよ」
銃口の前に。
青白い光が。
集まり始める。
そして。
一つの。
魔法陣が。
ゆっくりと。
展開した。
「……」
奏の顔が。
輝いた。
「……」
「やった」
それは。
まだ。
不完全な魔法陣だった。
しかし。
確かに。
魔法陣だった。
奏が。
引き金を引く。
「――発射!」
魔法陣が。
眩い光を放つ。
森の中へ。
魔力の弾丸が。
飛んでいく。
そして。
魔物に。
命中した。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
魔物が。
倒れる。
奏は。
呆然とした。
琴子も。
呆然としている。
そして。
奏が。
小さく。
呟いた。
「……」
「魔法陣」
「……」
「出た」
「……」
「……」
「……」
次の瞬間。
「やったぁぁぁぁぁぁぁっ!」
森中に。
奏の。
歓喜の声が。
響き渡った。
琴子は。
そんな妹を。
見ながら。
深いため息を吐いた。
「……」
「奏」
「何?」
「市場調査」
「……」
「忘れないでくださいね」
「……」
「……」
「分かってる」
「……」
奏は。
魔法陣銃を。
嬉しそうに。
眺めている。
その姿を見て。
琴子は。
もう一度。
ため息を吐いた。
しかし。
彼女の口元にも。
僅かな。
笑みが浮かんでいた。
異世界貿易。
その第一歩。
そして。
魔法陣銃の。
記念すべき。
初陣。
二人のサイエスでの新たな生活は。
こうして。
想像以上に。
騒がしい形で。
始まったのだった。




