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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第一話 白き世界の誤召喚――双子、自称神と邪神の遊戯

琴陵姉妹の異世界日記から派生した別の話になります。

設定は変えていません。

今後もご愛読頂ければ幸いです。

 世界が、白く弾けた。


 耳をつんざくブレーキ音。誰かの悲鳴。そして視界いっぱいに迫る大型トラック。


 時計塔で待ち合わせをしていた有平(かなで)と有平琴子(ことこ)は、とっさに互いへ手を伸ばした。


 しかし、その手が触れ合うよりも早く、強烈な衝撃が二人の身体を飲み込んだ。


 ――死んだ。


 そう確信した次の瞬間だった。


 奏はゆっくりと目を開けた。


 視界いっぱいに広がるのは、何もない白。


 空もなければ地面もない。


 上下左右の感覚さえ曖昧になるほど、果てしなく続く純白の空間だった。


「……ここ、どこだ?」


 呟いた声は妙によく響き、すぐに静寂へ溶けていく。


 隣を見ると、琴子も身体を起こしていた。


 服装は待ち合わせをしていた時のまま。


 スーツ姿の姉は周囲を一瞥すると、小さく息を吐いた。


「……生きてる、って感じじゃないな」


「だよな。トラックまともに食らったし」


「うん。普通なら即死」


 淡々と会話を交わす。


 恐怖よりも状況確認を優先するあたりは、幼い頃から何度も困難を乗り越えてきた双子らしかった。


 施設で育ち、頼れる大人も少なかった。


 だからこそ、非常事態では感情より思考が先に働く。


 琴子は白い空間を見渡した。


「壁も天井もない。足元はあるけど感触も曖昧……」


「夢じゃないよな」


「たぶん違う」


 その時だった。


 何もなかった空間に、小さな光が灯る。


 蛍火ほどの大きさだった光は、一瞬で眩い輝きを放ち、人の背丈ほどの光球へと姿を変えた。


 輪郭は曖昧で、人型ですらない。


 ただ純白に輝く発光体。


 性別を感じさせる要素は何一つ存在しなかった。


 その光から、不思議な声が響く。


『あー……失敗した』


 軽い口調だった。


『誤召喚しちゃった』


 奏と琴子は顔を見合わせる。


『悪いんだけど、神力を返してくれない?』


 数秒。


 沈黙が流れた。


「……は?」


 奏が眉をひそめる。


「いや、帰れるなら帰りたいけど?」


『それが無理なんだよね』


「無理なのに返せって?」


『そうそう』


「意味分かんねぇ」


 あまりにも理不尽だった。


 琴子は一歩前へ出る。


「ちょっと聞くけどさ」


 妹の前だからか、いつもの丁寧語は消えていた。


 素の口調だった。


「アンタ、誰?」


『神』


「名前じゃなくて?」


『神』


「だから固有名詞」


『神』


 奏が頭を抱えた。


「駄目だこいつ」


「会話になってない」


『えぇ!?』


 光がぶるりと震える。


 驚いているらしい。


「じゃあ質問を変える」


 琴子は腕を組んだ。


「何で私たちを呼んだ?」


『ゲームだよ』


「ゲーム?」


『MMORPG【フロンティア】』


 その単語に、双子は同時に反応した。


「ああ」


「知ってる」


 国内どころか海外でも人気を誇る超大型MMORPG。


 発売から十年以上経った今も、多くのプレイヤーが遊んでいる作品だった。


『あの世界、私が管理してるんだ』


「……へぇ」


『地球から人を召喚してね』


『その人がどんな人生を歩くか眺めるのが面白いんだ』


『英雄になる人』


『商人になる人』


『国王になる人』


『恋をする人』


『破滅する人』


『全部見てて楽しい』


 まるで映画でも語るような口調だった。


 奏の表情が冷えていく。


「つまり」


「人の人生がおもちゃってことか」


『そういうこと!』


 悪びれた様子はない。


 その一言で、琴子は全てを理解した。


 この存在は。


 命を。


 人生を。


 娯楽として消費している。


「……最低」


 ぽつりと漏れた一言は、静かな怒りに満ちていた。


『え?』


「アンタさ」


 琴子は冷たく笑う。


「私たちじゃなくても良かったんだよね?」


『うん』


「面白ければ誰でも?」


『そうだよ』


「なるほど」


 その瞬間、琴子の頭の中で一つの結論が出た。


(交渉できる。)


 相手は善神ではない。


 善悪より、自分の娯楽を優先する存在。


 ならば。


 利益で動く。


「奏」


「ん?」


「コイツ、押せば折れる」


「俺もそう思った」


『何の話!?』


 光が慌てて明滅する。


 琴子はゆっくり笑った。


「アンタ、私たちを誤召喚した被害者だって認める?」


『う、うん』


「加害者は?」


『……私』


「なら慰謝料は必要だよね」


『え?』


「人生壊した責任」


『えぇ!?』


「払うよね?」


『いやいやいや!?』


「払わないなら」


 琴子はにこりと笑った。


 その笑顔だけは、とても優しかった。


「アンタの上に苦情入れるけど」


 光が完全に固まった。


『……上?』


「神にも管理者くらいいるでしょ?」


『……いる』


「じゃあ話は早い」


 奏が吹き出す。


「姉ちゃん、終わったな」


「終わったね」


『待って待って待って!!』


 光が激しく点滅する。


『三つ!』


『願いを三つ叶えるから!』


『それで許して!』


 琴子は即答した。


「足りない」


『え!?』


「持ち物も全部使えるように」


『いいよ!』


「他にも便利なおまけ」


『付ける付ける!』


「異世界で困らない程度に」


『分かったから上には言わないで!』


 奏は腹を抱えて笑っていた。


「交渉成立」


「うん」


 琴子は頷く。


 だが、その瞳には笑みはなかった。


(……コイツは駄目だ。)


(また同じことを繰り返す。)


(何人でも巻き込む。)


 自分たちだけではない。


 これまでにも。


 これからも。


 何人もの人生を、娯楽として踏みにじる。


 ならば答えは一つしかない。


 異世界で力を蓄える。


 地球へ帰る方法を探す。


 そして――。


(この邪神を、必ず滅ぼす。)


 その決意は、言葉にしなくても奏へ伝わった。


 妹は口元を吊り上げる。


(なら、遠慮はいらないな。)


 こうして、自称神の気まぐれから始まった双子の異世界転移は、やがて世界そのものを揺るがす戦いの幕開けとなる。


 まだこの時、邪神は知らなかった。


 自らが誤って召喚した双子こそ、自身を滅ぼす最大の天敵になることを。


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