338◇魔道通信
338◇魔道通信
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ようやく情報局から解放された俺はその足で護衛2人と共に軍部工場に向かい、モーリスとエドモンドに会う。
「よう大将。かなり大がかりな行脚だったみたいだな。お前さんとこの親父さんは大丈夫だったか?」
「マーティンの事だからあの一行の全体を仕切っていたと思うが、交渉は上手く行ったかい?」
2人ともかなり気にかけてくれているみたいだな。
俺の方針が外部の力で曲げられたら2人とも好きに作れなくなるし。
まぁ未だに俺が先導している事を話して2人を安心させよう。
「心配せずともだいたい僕の思い通りになったよ。ランバート領のシラハマという海辺の町にこの国の海軍を新設して置く事に父と中将が同意したし。お互いにメリットがあるのでやる意義は大きいな。それと今回の飛行で王都とランバート領との間に試験的に定期飛行する事になったので、いつでも父と連絡が取れる様になったのは大きいね。2日置きに飛ばして、飛行訓練生の実地訓練も兼ねているので運行費用は全部軍部持ちだし。」
王都海鮮作戦にはエドモンドとモーリスも入れよう。
やはり美味い物は仲間内では共有するものだ。
面子が上層部ばかりなのでちょっと気後れするかもしれないが、魔法団の幹部や情報局の中将の部下と懇意になる事はいいことだ。
あれこれ問題が起きても俺を通さずに意見を言ってくれるだろうし。
「さて、海軍とシラハマの自治部隊用に更に推進器が要る様になったんだよ。具体的には前回作ったのと同じのをとりあえず6基だね。それと40ミル砲のスタビライザーも2基ほど欲しいんだけどどうかな?」
「帰って来るなり中々厳しい事を言うな。情報局から3座機の次の10機の発注を受けているんだが、今は材料を集めているところだ。それを後回しにしてもいいんならすぐにかかれるぜ。」
「魔道ジェットエンジンも大丈夫だ。部材はそれくらいならストックがあるんで任せておけ。」
2人とも頼もしい限りだ。
中将には海軍の推進器の方を優先する様に言われているので問題無い。
「うん、お願いするね。中将にもこちらを優先しろと言われているし、出来上がったら順次スカイコンドルでシラハマに運んで貰うから連絡お願いね。」
「任せておけ。もう慣れた仕事だ。工場の工員達もだいぶ慣れて来たんで作業はそんなにかからないだろうな。」
それを聞いて軍部工場を離れる。
今日はもう解放されたので叔父宅に帰ろう。
そう思って構内を歩いていると団長に捕まった。
どうやら待ち構えていたらしい。
「今日やる事は終わった様じゃな。ならば儂に付き合ってもらおうか。例の念話じゃな。分類としてはコミュニ系魔法のトークと言うておるが。」
そうだった。
中型機の構想に漬かってすっかり忘れていた。
後日と思っていたが、団長の方が待ちきれなかったみたいだ。
まぁ俺のステータスを見たらそうなるのは仕方が無いが。
「少しだけですよ。さすがに私も疲れました。今日は1時間くらいにしてもらえませんか?」
「うむ。了解じゃ。儂も上空で冷えたんで本調子ではないが、お主との念話は気になってのう。」
さすが魔法バカだな。
団長の後ろに控えている護衛兼任の部下2人も疲れた表情をしている。
近いので徒歩で魔法団の研究棟の中を通り、その先の広い体育館の様な建物に入った。
「まず儂からお主に念話をしてみせよう。儂の両手を握って軽く魔力を流してみよ。」
言われるままに団長の小さな手を握り、腕から指先に抜ける様にゆっくりと魔力を流す。
1分ほどそのままにしていたら両手の甲に何か魔法陣が浮かんできた。
団長が手を離したのでそれを見る。
六芒星を少し崩した様な模様が両手の甲に貼り付いている。
「それが儂の魔力をお主の魔力に同調させる魔法陣じゃ。儂からの念話は魔力の波となって空間を伝わり、お主の手の甲の魔法陣に吸収されてお主の聴覚に届く。まずはやってみようぞ。」
そう言って10mほど離れ、団長は口を覆って小声で話しだす。
急に俺の両耳に団長の声が聞こえてビクッとする。
何か前世の骨伝導ヘッドフォンみたいな聞こえ方だな。
頭の骨に響く様な、少しくぐもった声で聞こえる。
「はい、ちゃんと聞こえます。凄いですね、これ。魔力に音声を乗せ送信し、手の平の魔法陣に魔力波長を合わせる事で共振状態にしてこちらの魔力と混ぜて音声に戻すのですか。しかしなぜその魔力が音となって聞こえるのか不思議ですね。」
「そこまで分かるのか?理屈はお主が今言ったとおりじゃ。手の魔法陣で受けた魔力の波がお主の魔力で打ち消され、音声だけが残って頭の骨の耳に近い所を振動させるのじゃな。」
うん、これ完全に無線通信だ。
電波じゃなく魔力を使って、アンテナと検波器じゃなくって魔法陣と登録魔力の相殺を使っているが。
最終的に頭蓋骨の鼓膜に近い場所を振動させるのなら骨伝導ヘッドフォンで完全に物理だ。
こりゃぁ念話じゃなくって魔道音声空間伝導だな。
「これ、念話と言ってますが、音声ですよね?心の中で思った事を離れた所の人物の脳に直接伝えるのかと思ってました。」
「うむ。この呼び名には色々議論があったそうじゃ。お主の言うとおり、この念話は話す音声そのものを遠隔に伝えて声として聞こえる様にするものじゃな。思考をそのまま飛ばして相手の脳に伝えるなんぞ到底無理じゃしな。」
「これは私の前世にあった電気を高速で振動させる電磁波でも同じ事は出来ていましたよ。人間の肉体ではなく機械でやらせるので到達距離も数キロム以上ありましたし、双方向同時通話も出来てましたね。」
初期の日本電信電話公社(現ドコモ)のアナログ携帯電話だな。
基地局との間の数kmを電波で繋ぎ、送受信の周波数をわずかにずらす事で同時通話を実現していた。
その後のデジタル通信時代になると原理は変わってくるが。
「その話は今度詳しく聞こう。今は儂とお主の双方向通話を試すぞ。今から言う概念を心の中で強く思い、この紙に書かれておる呪文を同時に唱えるのじゃ。」
団長は言葉が音の波である事を強く意識し、自分の発する言葉を魔力に乗せる事をイメージしろと言う。
そう簡単にそうは思えないのであれこれ試行錯誤しながら紙に書かれた呪文を唱える。
しばらくやっていると自分の声が魔力に吸い取られる感触があった。
それを団長に言うと、それだ!と言われたので更に練習を重ねる。
15分くらい繰り返したところで団長の両手を握り、同じ様に念じながら呪文を唱える。
最初は団長の魔力を掴みあぐねていたが、何とかきっかけを掴んで同調に成功した。
団長の両手の甲にも俺のとは少し違った模様の魔法陣が浮かぶ。
「こんなに早く成功するとは思ってなかったぞ。お主の魔法適応力はどうなっとるんじゃ?まぁよい。早速双方向で会話してみようぞ。」
そう言うと団長は20mくらい離れた所まで走って行き、向こうを向いたままで話しだした。
「どうじゃ?」
「あーあー、聞こえますか。こちらマーティンです。」
「ちゃんと聞こえるぞ。双方向なんぞ儂の師匠とやったっきりなんで40年ぶりくらいじゃな。ちょっと聞き取りにくいところもあるが、話している内容はちゃんと伝わるのう。」
「それは光栄ですね。距離はどれくらいまで通じるのですか?」
「見通しでせいぜい100サブキロムくらいじゃな。まぁお主の言う魔道増幅器を作れれば距離も伸びると思うが。」
うん、早速魔道具としての増幅器は研究しよう。
団長もそれに近い事は研究していたみたいで、成果を共有出来ればかなり効率は上がるな。




