31◇発火魔石
31◇発火魔石
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さて、発火魔石だが、ハンスは乳鉢で挽いていたので出来たのは微風で飛ぶ様な微粉末だ。あれをもう少し粗く挽き、微粉末を点火剤として混ぜて遅延燃焼出来ないかな?もしくは木炭の粉を混ぜたりしてもいいかも。そうすればロケットの推進剤としても使えるかもしれないな。まずはロケット花火でも作ってみるか。原始的な固体ロケットは火縄銃よりも敷居が低いもんな。
俺はまずロケット花火から先に作ることにした。
日本の駄菓子屋に売っている爆竹の様な紙筒をそのまま竹ひごに括って飛ばす奴だ。
木を細く削って竹ひご状にし、先端に紙で何重にも巻いた弾頭を付ける。
紙筒弾頭の先頭は閉じ、中にはゆるく詰めた発火魔石粉を入れて紙で蓋をし、導火線は薄い紙に発火魔石粉を水で混ぜた泥を塗って乾かしたものをこよりの様によじったものだ。
5本ほど作り、少しづつ発火魔石粉の詰め加減を強くしていった。
表面に番号を書いておく。
とりあえず先に父親の部屋に行き、現物を見せて練兵場の向こうの試し撃ちに使った河原で実験することの許可証を書いて貰った。
ある程度大きな破裂音がすることも言う。
俺とハンスだけで行ったら兵長辺りが文句を言ってくるかもしれないしな。
バレットM95の試し撃ちの時は護衛隊長のマークが居たから何も言えなかったみたいだけど。
ハンスと練兵場に行き、父親の書いた許可証を兵長に見せる。
ファイアボールの発展型の研究で試し打ちをするので少し大きめの破裂音がするかもしれないが、気にしない様に言う。
ちょっと渋い顔をしていたが、領主直筆の許可証である。
しかもそれを使うのは領主の次男なので文句を言えるはずもない。
了解の返事を聞いて練兵場の向こうの河原にに行き、200mレンジをそのまま使って実験てみる。
発射地点に地面に斜め40°くらいの角度に細い木筒を刺し、その中に発火魔石ロケットの竹ひごを刺す。
1mほどの細い木の枝の先に発火魔方陣を描いた紙を付け、盾の後ろからおっかなびっくり導火線に触れて着火する。
1号は導火線が燃えた後、一拍間を置いて紙筒の後ろからシューと燃える炎が出て僅かに動いた。
単に燃焼しただけで、推進力は殆ど発生していない。
2号は導火線が燃えた後、ジュッ!と激しい炎が出て、竹ひごは50cm程飛んで地面に落ちた。
3号は導火線が燃えた後、シュルルという音がして5mほど飛ぶ。
4号は導火線が燃えた後、シュバーっとでもいう音を立てて30mほど飛んだ。
5号は導火線が燃えた後、爆竹の様にパーンとその場で破裂した。
俺たちは盾として1.5m四方くらいの木の板を持って来ており、その陰に隠れながら点火したので爆風の被害は無いが、暫くは耳の奥がキーンと鳴っていた。
やはりこの手の実験には耳栓と防護メガネが要るな。
次から用意しよう。
実験の結果、4号がロケット推進としてほぼ使えることが分かった。
ただ、そのまま太くしても大爆発する未来しか見えない。
発火魔石粉の詰め具合だけではなく、材質で最適な燃焼速度を出したい。
それは火縄銃や大砲を作る上でも重要になる。
あまりにも早い燃焼速度は銃砲を破壊すのだ。
燃焼速度を適度にコントロールすれば銃身を薄くして軽量化も出来るしな。
圧力の低さは銃身を長くすればある程度相殺される。
俺とハンスはロケット花火の残骸を持って屋敷の治療棟に帰った。
「今日の実験で一応発火魔石粉の詰める力加減で燃焼速度を調整でき、爆発から物を飛ばすことまでに使えるのが分かったけど、これをそのまま大きくしてもうまくいかないと思うんだ。」
「そうですね、詰め加減が定量的に計れませんし、移動時の振動などで詰まってしまうことも考えられます。」
「そこでハンスにお願いなんだけど、発火魔石粉の燃焼速度を調整出来る混ぜ物を探してほしいんだ。発火魔石自体の粉末にする程度を変えてみても燃焼速度が変わるかもしれないし。」
「分かりました。それでは実験用に隣の護衛用の射場を使う許可をいただけないでしょうか。あそこならかなり大きな音を出しても問題無いでしょうし、発射して飛んで行っても的の後ろの壁で止まりますし。」
「うん、父上に許可証を貰っておくよ。あと、危険物の実験なんで作業する人の安全性も考えたいんだ。この様な物を作りたい。」
俺は紙に安全用具を書き出した。
・防護メガネ:ガラスでは割れてかえって危ないので、透明容器を加工して顔を覆う物を作る。
・耳栓:綿を細く丸めて耳穴にちょうど入る様に加工して、端に紐を付けて抜けて落ちない様にする。
・手袋:薄手の革手袋を使う。
「まず目だよね。多少耳が遠くなっても生活は出来るが、目が見えなくなったら生死に関わる。そこで破裂の破片や粉塵から目を守るメガネの様な物を用意しよう。これは出来れば顔全体を覆う方がより良いので、私の出す部材で加工しよう。」
俺はそう言うと、ランク1装備召喚でペットボトル入りの飲料水を2本出した。
召喚の光に驚くハンスを落ち着かせ、これは銃を出せる俺のスキルの延長だと説明する。
透明なペットボトルの蓋を開け、中身の水を治療棟の流しに捨てる。
ポケットから簡易工具を取り出してナイフで上下を切って筒状にし、縦方向に切って開いて透明な板状にした。
長期保存水みたいで、PET樹脂は少し厚めだ。
木の板に四隅を釘で打って留め、ファイアとウィンドを併用した高温ドライヤーでゆっくり温める。
熱で軟化したPET樹脂板はしばらくうねっていたが、徐々に平らになった。
これを2枚作り、重ねてみるとまぁまぁの透明度だった。
少し炙り直し、ゆるい曲面として顔に当てられる様にする。
「これで目と口を覆う仮面の様なものを2組作ってくれない?透明だから顔に被せても向こうが見えるでしょ。」
ハンスはPET樹脂の板を手に取り、透かしたり曲げたりして暫く見ていた。
「これは見たことがない材質ですね。こんなに透明で薄くて、曲げても割れないし折れない。ガラスとは違うのでしょうか?」
ハンスの疑問は最もである。
もうあまり隠すことを止めた俺は出来るだけ分かり易く説明する。
「それは違う世界の物質で、ペット樹脂というものだよ。製作方法は私もあまりよく知らないで大雑把に言うと、地面から噴き出す黒い油をある方法で精製していくとその透明な板になるんだ。熱によって簡単に加工出来るので、主に販売用の飲料水の容器に使われているよ。」
俺はもう一本飲料水を召喚してハンスに見せる。
ハンスは中に水が入っているのが信じられない顔をしていたが、俺がキャップを外して中身を流しに捨てて空容器を渡すと、叩いたり握って少し押し潰したり脇目も振らずにいじっていた。
「素晴らしいですね!こんだけ薄くて軽くて透明でなおかつ強いなんて!」
「うん。そんな容器だけど、あちらの世界では使い捨てなんだ。容器ではなく、中身の液体にお客は金を払う。客は中身を飲み干したらその容器は捨てるんだ。」
「信じられません。こんなすごい容器を捨てるなんて。」
「まぁちょっとした工夫で空容器を色々な工作に使えるんで今回出しただけだよ。これも部外秘にしといてね。」
ハンスはまだ空容器をいじり回していたが、暫くして了解の返事をした。
「さて、次は耳栓なんだけど、鍛冶屋で使っている物が良い様なのでガーソンに少し譲って貰ったよ。これなんだけど、小指くらいの棒状の綿の中心から紐が出ていて左右繋がっているんだ。紐は首の後ろに回して使うと邪魔にならないし、耳の奥に突っ込み過ぎても紐を引っ張れば簡単に出て来るから安全だしね。」
「これはいいですね。鍛冶屋もハンマーで鉄材を一日中叩くので難聴になる人は結構居ます。これがあったら解決しますね。」
ハンスも賛同して耳栓は決まった。
「次に手袋なんだけど、鍛冶屋で使っている物は皮が厚すぎてちょっと使いにくいんだ。細かい作業が出来る様に薄い皮で出来た手袋ってどこかで使ってない?」
「そうですね、乗馬用の革手袋も少し厚いですし、少し高価になりますが、女性が防寒用に使っている薄手の皮で男性用に作れば使えそうに思います。」
「うん。それなら母上に聞いてセバスチャンに手配して貰うよ。その時に手の形を取りに来ると思うんで対応してね。」
「はい。いつでもお申し付けください。」
その後俺は父親の部屋に行き、ハンスが護衛の射場を自由に使える様に一筆書いて貰った。
さて、これで発火魔石粉の調整はアウトソーシング出来たな。
やはり餅は餅屋に任せた方が効率がいいし、なにより知識量が違うんで正確だ。




