32◇尾栓
32◇尾栓
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さて、発火魔石粉はハンスに任せたので、俺は先込め式の銃の設計に入ろう。
最初のプロトタイプは昔の火縄銃を二回りくらいゴツくして安全を確保しよう。
発火魔石粉の本当の爆発力はまだはっきりと分かってないしな。
まず、昔の火縄銃の製法を思い返す。
友人と駄弁っている時に、もし二人で中世みたいな異世界に飛ばされたらどうする?というまさに今回と同じ様なシチュエーションを想定し、魔法が使えない場合の無双方法を色々考えたものだ。
その中に硝石、硫黄、木炭で黒色火薬を作り、戦国武将の如く大量の火縄銃を持った部下で覇権を取るというのがあった。
織田信長というものすごい前例があるしな。
この場合、異世界なのでポルトガルも種子島も無い。
なので自前で火縄銃を開発する必要がある。
俺も友人もその時は火縄銃の作り方なんて知らないので、ちょっとしたチートとして検索可とした。
Webで「火縄銃 製造方法」で検索するとどえらい数が引っかかる。
その中で一番標準的な方法を検討したな。
・弾丸と同じ直径の心棒(真金)を鉄材で作る。
・平らな鉄板を熱して心棒に叩いて巻き付け、一回りした接合部を熱鍛造で接合する。
・もう一枚の板を180°回った位置で熱して巻き付け接合する。
・その上から細長く繋いだ帯状鉄板を熱して打ち付けながららせん状に巻き付けて補強とする。
・帯状鉄板は巻き方向を変えながら複数回巻く。
・鉄板の隙間は熱鍛造して一体化する。
・銃口と反対側に尾栓を付ける。
・尾栓は四角か六角頭のボルト状とし、雄ネジはヤスリかタガネで彫る。
・銃身の尾栓が入る箇所を熱し、冷えた尾栓を入れて周囲を均等に叩いて雌ネジを鍛造生成する。
・銃身全体を温め、尾栓と中の心棒(真金)を抜き出す。
・尾栓を入れる方から覗いて、ゆがみや曲がりが無いか確認し、必要に応じて修正する。
・火口用の細い穴を尾栓のすぐ側に開ける。
・銃床と火縄発射装置を付けて完成。
うん。無茶苦茶面倒だ。
特に尾栓の部分がこんな方法で本当に大丈夫なのかと心配になる。
なにせ「ネジ」だぜ。
使い方によってはナメるやら潰れるやら散々な目に遭っている部品だ。
しかもネジの嵌合隙間から火薬の圧力が相当漏れそうだし。
まー嵌合長さを十分長くするとかネジピッチを粗くするとか座金とガスケットを入れるとか、加えて銃床部分に締め金を付けて補強するだのの方法をその時二人で考えた。
そして、方法は分かったので自分で作るのは諦めて異世界のプロフェッショナル鍛冶屋に頼むことにした。
火薬は硝石と硫黄を見つけて何とかするという適当なことにしてたな。
さて、実際の異世界には発火魔石粉があり、発火魔方陣で簡単に着火可能である。
黒色火薬の様な燃えかすも出ないし、湿気ていても発火する。
そして鍛冶屋は普通の鍛冶に加えて変形魔法と強化魔法が使える。
これだけ揃えば圧倒的に有利だな。
俺は紙を複数枚糊で繋げて長い紙を作った。
まず原寸大の完成状態の銃身の断面図を書く。
口径は16mm相当とし、同じ直径の心棒を原寸で断面図の下に書く。
16mmの円周は円周率を掛けて50.2mmとし、銃身となる長さ1m、幅50.2mmの鉄板も書く。
板金図面の展開図みたいなもんだな。
その他色々な部材を書き込んで、尾栓は指示が多いので別紙に詳細を書いた。
銃身は単なる筒状で、銃床の代わりに太い木の角柱に埋め込む様に書く。
銃身の固定金具も書き、火口の位置は真上に指定する。
最後に別紙に完成予想図を書いた。
うん、これで据え置き型魔道銃第一号の図面完成だ。
太くて重い木の角棒に銃身を埋め込んであるのは銃を自分で持ちたくないからだ。
いつ何時銃身が裂けて吹き飛ぶか分からないし。
これを頑丈なテーブルの上に置いて軽く固定しておけば発射台になる。
角棒が重いので、発射の反動はこれが少し後退して吸収してくれる。
万が一尾栓が抜けたり銃身が裂けたりしても、俺とハンスは護衛の備品の盾を借りて隠れておけば良いだろう。
防護メガネをし、耳栓をして革手袋をはめておけばそうそう怪我をすることもあるまい。
火口に発火魔方陣を押し当てるのは、土魔法で机の上に作った土ブロックを少し変形させれば遠隔で可能だろう。
おっと忘れていた。
鉛玉を作る工具が要るな。
『玉造り鋏』だっけ?
ペンチの様な形をした鉛玉の鋳型だ。
先の内部が球形の空間になっており、上に溶けた鉛を流し込む湯口がある。
閉じて流し込んで開くとまん丸の鉛玉が出来るな。
これも図面を書いて発注しよう。
大雑把な図面が出来た俺は父親に見せに行く。
「父上、魔道銃のおおまかな図面を書きました。鍛冶屋に試作を発注してもよろしいでしょうか。」
父親に完成予想図を見せ、鍛冶屋に渡す展開図も見せる。
完成予想図の詳しい説明をし、発火魔石粉の最適化はハンスに依頼してあると言う。
しばらく唸っていたが、許可をくれた。
まぁ理解の範疇外なのは仕方が無いし。
上司ってのはだいたいそんなもんだろ。
「うむ。頼むのはガーソン工房だな。ガーソン宛に発注依頼を書こう。」
父親は俺の書いた完成予想図に発注の指示と署名を書いてくれた。
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「ガーソン、居るー?」
俺はマークを伴い、ガーソン工房を訪ねた。
城下に出向く時は必ず護衛を一人以上付ける様に言われている。
まぁまだ12歳だもんな。
誘拐でもされたら目も当てられない。
しかも今の俺は当領にとって存在感出しまくりだしな。
ハンスも強い魔法使いなので護衛と同じ扱いで良いそうだ。
暫くするとカンカンいう音が止まり、カウンターにのそりと出て来る。
奥の方で小さくカンカンいってるのは弟子だろうな。
「はい、いらっしゃい。今日はどの様なご注文で?」
金払いのいい領主のボンボンだと思ってるのかな。
まぁその方が気が楽だ。
「今日は作って貰いたい物の図面を持ってきたんだ。これを見てよ。」
俺は据え置き型魔道銃第一号の図面一式をカウンターに広げた。
銃身口径と尾栓の形状は詳しく指示してあるが、その他は成り行きで良しとしてある。
当然、銃身はライフリング無しのスムースボアだ。
長剣と同じ様に、鉄を赤熱させてハンマーで叩く鍛造で作ると言う。
「これは、、えらい手間のかかる物ですね。作り方はこのとおりで出来ますが、違う方法でもっと簡単に作れますよ。」
「え?どういうこと?中空の鉄の筒を作る方法が別にあるってこと?」
「そうです。火魔法を併用して鉄をどろどろに溶かし、砂で作った鋳型に流し込んで作る方法ですね。中心には予め作っておいた熱に強い陶器の棒を入れておき、あとで土魔法で砕いて抜けば筒になります。」
俺は力が抜けた。
なんだ、鉄の鋳造が出来るんだ。
それなら話は簡単だな。
鍛造に比べて強度は落ちるが、厚みを増せば補える。
魔法で強化も出来るしな。
俺はその場で予備に持って来た別な紙に鋳造する場合の構造図を書く。
鋳造なら尾栓の雄ネジも銃身後端の雌ネジも火口の穴も一気に作れるな。
銃身の内部は正確で均一な円筒にする必要があるが、これは公差を書いてガーソンに任せよう。
鉛玉を作る工具で出来る弾は、直径を銃身の内径より僅かに小さくしてある。
これも後から要調整だな。
「これなら木型を作って砂型を作り、陶器の棒を中心に置いて溶けた鉄を流し込めば出来るので4日もあれば十分かと。尾栓も同じ方法で作れますので両方で5日もあればなんとか。この掴みバサミみたいなのはあともう2日ください。」
まぁ他の注文もこなしながらなんでそれくらいはかかるか。
「この木の台座も作って欲しいんだけど。ここで作れる。」
「これは木工屋のウィリスに発注した方がいいですね。私の方で頼みましょうか?」
「うん、お願い。あと、鉛の塊とそれを溶かせる鍋みたいな物は無いかな?」
「ありますよ。鉛は色々な物の重しや滑らせる箇所に使っていますので在庫があります。それを溶かす鍋も何個か在庫がありますのでご用意しましょう。」
「うん。それでお願い。出来上がったらマークの所に持って来て。必要ならその場で指示したいから。」
指示が終わると鍛冶場の見学をさせてもらった。
丁度護衛用の剣を打っている所だそうだ。
金床の上に半分仕上げた剣の形をした鉄板がある。
さすがに長剣は鍛造で作るらしく、一振り作るのにもそれなりに手間暇はかかるとのこと。
短い包丁や短刀なら鋳造で作れるので弟子に大量生産させているらしい。
刃を研いだ後の最終処理で強化魔法をかければ十分実用になるそうだ。
なるほど。




