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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける

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第28話 悪の天才科学者たち その五

 そら、一恵、ちびそらの三人が、明後日の天空城固着計画の骨子をあっという間にまとめてしまった。

 ひと段落ついたので、みんなで夕食を取ることにする。


 人前で食事をする時はいつも、いつきだけ魔法少女に変身する。

 そうして幻想(ファンタジア)の魔法で、自身には『変身していない』ように見える幻覚を、ちびそらには周囲から見えなくなる隠蔽の魔法をかける。

 ちびそらが人目を気にせず、思う存分食べられるようにするためだ。


「いつもありがとう、いつきちゃん」

「いえいえっす」


 白音が声をかけると、いつきはちょっとはにかんだようにする。

 そんないつきの肩に、ちびそらもぴょんと飛び乗って、


「うむ」


と、感謝を示す。

 いつきのこういう心配りの細やかさが、ちびそらが好んでいつきと一緒にいたがる理由なのだろう。


 八人で夕食を楽しく取りながら、一恵が現世界と異世界に同時に存在していた自分について教えてくれた。

 一恵のことは白音も詳しく知りたかった。

 しかし魔法理論はなかなかに難しく、話についていくのがやっとだった。

 そらがそれをさらに詳しく掘り下げていくので、話がどんどん難解になっていく。


「なるほどなの。情報だけを失わせずに別世界へと送り込むのに、ホログラフィック原理を利用しているみたいなの。ストリング理論の応用かな。粒子を一次元の弦と見なしているの。それでどちらの世界にも一恵ちゃんが同時に存在できる……と。魔法的なアプローチは、もしかしたら物理学に新たな知見を与えてくれるかもしれないの」

「う、うん」


 白音も、そらが楽しそうで何よりだとは思う。

 超高度な魔法の深淵に触れるには、時空を操ることのできる一恵の力が必要となる。

 一方で、魔法理論を現世界の物理学に落とし込んで解釈することは、そらにしかできない。

 そしてそんなふたりが導き出した仮説を、ちびそらが膨大な数のパラメータを使って試行、検証して支えてくれる。

 それが三人組となった天才科学者たちの、新しいスタイルらしかった。

 白音はふと、今の三人に能力強化(リーパー)を目一杯にかけたらどうなるんだろうと、思いついてしまった。何かの蓋が開いてしまう気がする。

 しかしそんな良からぬことを考えていると、佳奈と目が合った。佳奈は無言で、


「この辺でもう流れを止めてくれよ」


と訴えている。

 確かに白音も、知りたいことはそこじゃない。



「今の一恵ちゃんに聞くことじゃないかもしれないんだけど、どうして現世界に来た一恵ちゃんはタレントをしていたの? それもかなり有名だったから、相当目立っちゃってたと思うんだけど」


 白音は頃合いを見計らって、話題を変えてみた。

 そらにはあとで謝っておこうと思う。

 目の前の一恵には、現世界の一恵がタレントをしていたことは少し話してある。

 白音たちとはタレントのHitoeとして出会ったこと、そしてチーム白音の一員に加わるといきなり芸能活動を休止してしまったことも。


「推測しかできませんが、もしわたしがあちらの世界の一恵(ホログラム)の立場だったなら、ということでよろしければお話しできます」

「ええ、是非お願い」


 そうして一恵は、少し自分の過去に遡って話し始めた。



「わたしは元々、召喚英雄としてこの世界に喚ばれる前は、日本で子役タレントをしていたのです」


 つまり一恵はつい最近まで現世でHitoeとして芸能活動をしていたが、そのおよそ二十年ほど前にも子役としてタレントをしていた、ということになる。


「こうみん!!」


 莉美が嬉しそうにパンくずを飛ばしながらそう言った。

 白音がその口元を拭きながら、「お行儀が悪い」と(たしな)める。


「ご存じでしたか。そうです。わたしのその時の芸名が神代瞳(こうじろひとみ)でしたから、こうみんと呼ばれてました。古い話なのに、さすがは莉美さんですね」

「お父さんが持ってる映画コレクションの中にこうみんちゃんが出てたの。それに、一恵ちゃんとちょっと似てるって噂されてたから覚えてた」

「十三歳になって子役も卒業、そろそろタレントとしての売り方を変えないと、という時にこちらの世界に召喚されました。ですので芸能活動はそれきりになってしまっていますが」

「そうそう。急に芸能界から消えたから。実は隠れて子供産んでて、それが一恵ちゃんなんじゃないかって言われてたよ?」


 確かに莉美は両親の影響を受けて、古い映画やテレビドラマなどは呆れるほどよく知っている。

 しかし芸能ゴシップにはさほど興味がなかったはずだ。

 なのにそこまで知っているということは多分、気になってわざわざ調べていたのだろう。


「その話は僕も知ってるっすよ……」


 いつきが少し遠慮がちにそう言った。

 ネットアイドルをしていて、一恵(Hitoe)のことも大好だったいつきなら、知っていて当然の話だろう。

 もちろんいつきも気にはなっていた。

 しかし推しである一恵に対して、「誰の子か」などと不躾なことを訊けるはずもない。

 それに『推しの親』が誰であろうと、何か行動や気持ちが変わるものでもない。

 ただ、それが本人だったとはさすがにいつきも驚いた。


「隠し子ですか……。そんな風に言われていたのですね。いえ、タレントとして顔が知られていたので、投影体が同一人物だと疑われたら厄介だなとは思っていました。ですが、隠し子とは……。まあ確かにわたしが創ったので、言い得て妙ではありますが」

「一恵ちゃん、何故芸能活動をしていたかの話なの」


 そらが、話の軌道修正を促すためにそう言った。

 全員がちらりとそらの方を見る。

…………と、全員の視線がそちらに釘付けになってしまった


「?」


 そらの傍のテーブルの上ではちびそらが正座して、パクパクと美味しそうにミートパイを頬張っている。

 藍色のコスチュームを身に纏い、身長20センチメートルちょっとの体格で、並の人間よりもよほど多くの夕食を美味しそうに平らげていく。

 そしてそらとちびそら、ふたりの間――計ったようにきっちり中間の位置――に、同じように正座をしている身長60センチメートルほどの大きさのそらがいた。


「!?」


 みんなの思考が一瞬止まりかけるが、その脳裏に『(ちゅう)そら』という言葉が浮かぶ。

 それ以外に表現のしようがない。

 テーブルの上にでん、と鎮座し、ちびそらと共に何食わぬ顔で夕食を食べている。

 その姿を見た魔法少女たちはみんな数瞬の間を置いて、思いっきり銘々の夕食を口から吹きだした。

(ちゅう)そら』は見た目はそらやちびそらとそっくりだが、色違い――緑色のコスチュームを身に纏っている。

 もちろんそらよりも随分小さいのだが、ちびそらが横にいるために不思議と「大きいな……」という印象になる。

 その尋常ならざる食欲を見ていれば、やがて『中そら』の正体はリプリンだろうと気づく。

 全員、しばらくおなかを抱えて笑い、笑いすぎて息が吸えなくなった。リプリンの大勝利だった。


「ちょ…………、もう……やめてよリプリン。周りの人から変な目で見られてるじゃないの…………」


 そして白音は一恵に謝る。


「ごめんね、一恵ちゃん。真面目な話なのにこ、こんな……こ……っ!」


 白音はもう一回吹いた。


「いえ、わたしも、その……、ちょっと衝撃でした。」


 一恵もやはり、やや呼吸困難に陥って震えている。

 テーブルの上を綺麗に拭いて、みんなに酸素が行き渡ってから、話を本線軌道に戻す。



「えーと……、そう。どうしてタレントをしていたのか、よね? 一恵ちゃん」

「はい、白音様」


 急に真剣な顔になった一恵が、姿勢を正して改めて白音の方を見つめる。


「少し言いにくいのですが、投影体(ホログラム)の考えはきっと…………」

「な、何かしら? 一恵ちゃん」

「当然ながら、デイジー様の適合者である人間ならきっと可愛いはず」


 そう言って一恵が白音の方へと身を乗り出す。


「えと、何を……」

「現にこんなに可愛らしい」

「いや、だから……」

「そう推測して、タレントの中を捜すのが良いのではないかとわたしなら考えます。タレントになられていなくとも、タレント事務所にはそういう素質のある女の子の情報が入ってきます。ですので事務所の運営にも関わるようにしておけば、地道に捜すよりは向こうから情報が飛び込んでくるのではないかと」

「な、なるほど? って頷きにくいのよねぇ…………」


 白音が褒められて居心地悪そうにする。


「何も持たずに身ひとつで突然現世界に結像して生まれ出るわけですから、適合者の捜索活動にも、生きるためにもお金が必要となるでしょう。タレント業はわたしも決して嫌いではありませんので、当面の糊口を凌ぐ手段としては良い選択かと思います」


 一恵が白音の手を取った。

 大魔道の時とは違って、一恵の方から触れても避けることはない。

 白音はその手をしっかりと握り返す。


「糊口って……、いやそれどころじゃなくて、Hitoeさん。めちゃくちゃ稼いでらっしゃいましたけどね…………」

全員マイペース!!

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