犯人の正体
駆けつけてきた騎士たちに犯人二名を預けて、ジルグロッセは城へと急ぐ。
攫われていたシャーリーを、まずは医者に見せるべきだと判断したからだ。
大事な婚約者を危険に晒してしまった罪悪感。
見た目には怪我もない様子だが――心は無事だろうか。
戦争の犠牲になるのは命懸けで戦う覚悟がある者だけでいい。
そのはずなのに、九神教の者たちは戦う力のない者、本来ならば戦争とは無縁の者を巻き込む。
それが本当に許せない。
「ジルグロッセ! シャーリー嬢は!?」
「見た目は無事だが……まずは医者に」
「わかった。すぐに部屋へ」
城の玄関ホールに、変わらず佇んで陣頭指揮を取っていた次兄に無事を報告。
シャーリーのために、すでに医者の手配をしていてくれた。
ルシカを始めとする侍女たちとともに用意された部屋に入り、医者にシャーリーを託して隣の部屋のソファーに腰を下ろす。
「ジルグロッセ様、報告をよろしいですか?」
「聞こう」
お茶が出され、ソルドがいくつかの書類を出しながら説明する。
出入国の記録と照らし合わせ、[転移]魔法の使い手は『所在地移動なし』とされた。
これは関所を通らずに帝都へ他国の[転移]魔法使いが侵入した、ということ。
由々しきことだが、九神教ならばそのくらいはやるだろう。
問題は不法入国した[転移]魔法使いが何者なのか、という点だ。
「セジュール・ルルオールだった」
「シャーリー嬢の元婚約者の、ですか? 彼が[転移]魔法の使い手だったのですか!?」
「シャーリーの身辺調査をした時に、当時婚約者だったセジュール・ルルオール伯爵家の調査も行っている。女好きで数多の女と連日遊び歩けるように、ティヴァロニ王国内では[転移]魔法を使って各所に出没していたらしい」
「え。カス」
「ソルド」
前線出身者、貴族であっても口が悪い。
言いたいことはとてもよくわかるのだけれど。
それでも真顔で言っていいことと悪いことがある。
内心同じことを当時の感想として抱いたけれども。
正直『女と遊ぶためにそこまでする……?』とも思ったけれど。
しかし、だからこそ印象に強く残っていた。
それは彼の特殊魔法が[転移]であることに加えて、彼の実家の家族構成を調べるきっかけにもなったのだ。
それほど各地へと頻繁に足を運ぶ“理由”。
女遊びのため?
本当にそれだけか? ――と。
平和な国で平和な生活を享受していた者たちには、『女遊び』という“名目”は非常にありきたり。
そう言ってフラフラ、うろうろしている者は間者の可能性が非常に高い。
シャーリーの婚約者であるから、と調べたわけではなく、シャーリーの婚約者の『女遊びが激しい』という一点のみで追加調査が行われた。
そうしたら案の定――親戚に九神教と繋がりのある司祭がいるわ、シャーリーの実家の土地に神殿を建設しようとしているわ、本人は[転移]魔法の使い手であったりとなかなかに香ばしい情報がボロボロ出てくる。
だからこそ監視がつけられ、ロドリゲスの捕獲の際にはすぐに動くことができた。
そして、今回――おそらく虎の子であろう[転移]魔法の使い手が脅迫されてでも出てきたことで捕えられたロドリゲスが“影武者”ではなく“本物”の可能性が極めて高くなった。
警備はより厳重にしなければならない。
「ティヴァロニ王国を内部から瓦解させようとしていた――ということですか?」
「どうだろうな。シャーリーの実家領地に九神教の神殿を建て、それを足がかりに平民を洗脳していくつもりだったのかもしれない。九神教の興りもロドリゲスの演説に、少しずつ人々が心うごされてのことだと聞いている。それの真似事をしようとしていたのかもしれない」
「なるほど。ですが、どちらにしてもティヴァロニ王国が狙われていたのですね」
「ティヴァロニ王国は大陸でもっとも神の生まれ変わりが生まれやすい国、と言われている。もしかしたら、聖人や聖女が目的だったのかもしれない。シャーリーもティヴァロニ王国の出身。あまり考えたくはないが、万が一『知識の神アルヴァーニュの転生者』が生まれたら、真っ先に発見できるようにと画策したとも考えられる」
「ロドリゲスにとって、知識の神アルヴァーニュの生まれ変わりこそ天敵ですからね……」
生まれる前から、アルヴァーニュの転生者は狙われていた可能性。
一見、ロドリゲスの生誕祭などと言って戦端を一部縮小し、おとなしくしているかのように見せかけ、その裏では天敵たるアルヴァーニュの生まれ変わりを探し、その可能性が高いティヴァロニ王国への侵入を試みていた――というのがやつらの策略であったのか。
ニュージブに侵攻していたのは、ティヴァロニ王国内に神殿建設を進めている事実からジルグロッセたち帝国軍の目を逸らすため。
ある意味、ニュージブの侵攻はなにかから目を逸らすため、というジルグロッセの読みは正しかった。
ロドリゲスにとって自分の地位を確実に崩す可能性が高い存在――知識の神アルヴァーニュの転生者を探す――という目的であったのは、読みきれなかったけれど。
それほどまでにロドリゲスは小心者であったといえる。
「なんにしても、御者の方は間違いなく九神教の狂信者には違いない。拷問してでも知っていることはすべて吐かせろ」
「かしこまりました」








