君と出会ってから(2)
(俺なんかに嫁いできてくれることを、そこまで)
皇族に輿入れするには、相当の覚悟が必要だということはわかる。
しかし、田舎の子爵令嬢が唐突に皇族に求婚されて、それを受け入れ、覚悟を決めるなんてどれほどのことか。
受け入れてくれただけで彼女には感謝していた。
側に置きたい、と。
けれど彼女は自分をとても想ってくれた。
理解しようと努力してくれた。
自分でもわからなかったことまで見抜いて、支えてくれた。
なんですごい女性なのだろうかと感動した。
隣に置いておきたいと求婚したのに、いつの間にか彼女の手紙に支えられ、救われ、『彼女の隣にいたい』と思うようになった。
「大丈夫です、ジルグロッセ様。きっと上手くいきます。終戦までもう一息ですよ!」
「……ああ、そうだな」
終戦。
その言葉がこれほど現実味を帯びる日が来るとは。
ずっと、本当に長い洞窟の中を歩いてきたような気がする。
彼女に出会った時、彼女の手を掴んでその洞窟に引き摺り込んだ。
これは完全にジルグロッセの我儘。
けれど彼女はいつの間にかその真っ暗な洞窟にランプを翳し、ジルグロッセの手を引いて出口へと誘ってくれるようになった。
終戦――終わりの光。
出口が見えてきた。
戦争が終わったあとの話を、彼女は誰よりも早く父にしていたのだというから本当に――。
「公表は来週。早いと思うかもしれないが、神々の裁きが今月の末と思えば急がねばならない。警備の方も魔法使いを揃える。ジルグロッセ、お前もこのまま帝都に留まり、準備を整えなさい。砦の方にはミゲイルを向ける。ここからは政治の話が強くなるからな」
「しかし……」
「気にはなるだろうが、シャーリー嬢の安全が最優先だ。お前が側にいればその心配は格段に減る」
「わかりました」
それを言われて終えばその通りだ。
今回の件、シャーリーが作戦の要となる。
「必ず守ろう」
「あ……。は、はい! 信じてお任せいたします!」
胸を抑える。
その姿を見てシャーリーが驚いて「どうされたんですか」と聞いてくるがジルグロッセにもわからない。
ただ、突然胸が苦しくなったのだ。
なんだか彼女と話をする度にこのような症状を引き起こす。
父の方で服を用意してくれるというのと、警備の配置などを任せて一週間後まではシャーリーとともに城で暮らすようにと言われてそのまま居住区へ。
ジルグロッセは自室がある。
シャーリーはどこで寝泊まりをしているのか、と聞くとなんとジルグロッセの部屋の隣り。
「結婚前の令嬢を独身男の隣の部屋だと? 馬鹿なのか?」
「ええと、あのでも、ルシカさんには『婚約しているし、ジルグロッセ様は留守なので』と言われて」
「ちっ……」
皇族ではジルグロッセだけがやる。舌打ち。
だがルシカの言っていることは間違いではない。
よその男の隣の部屋など絶対に許せない。
「君の方の部屋には、行かない。なにか、危険があると判断した場合は、入る」
「あ、は、はい! わかりました!」
魔法で部屋の中に結界を張る。
シャーリーに害意を持つ者の侵入を拒み、光と音で警告と知らせが来るように、頑丈に。
それを見たルシカとソルドが呆れた顔をしている。
「では一週間、よろしくお願いします!」
「ああ」
なにが? と思わないでもなく。
そのまま部屋に入る。
部屋に入ってはみたものの、一緒に入ってきたソルドを振り返って思わず聞いてしまう。
「仕事は?」
「え? お休みになるんですよね?」
「休む……? シャーリーの護衛をやるのだよな? だが、シャーリーは部屋で休むと。……では、俺はなにをすればいい?」
「ええと……。趣味などなさればよろしいのでは?」
「趣味……?」
かなりたっぷりとした沈黙が流れる。
三分、四分……五分。
考えが一時停止したあと、再起動してから検索。
趣味――仕事、職業としてでなく個人が楽しみとしてしている事柄。
「……趣味……」
「ええと……なにか、ないんですか? 趣味」
「………………鍛錬にでも行くか? いや? しかし……部屋を離れるのは……」
「シャーリー様をお誘いして、城の図書室にご案内しては?」
「それはいいかもしれない。そうしよう」
読書好きなシャーリーのことだ、城の図書室も興味があるだろう。
部屋を出て、隣の部屋に。
ドアをノックする。
すぐに返事がきた。
「はい。これは、ジルグロッセ様。どうかなさいましたか?」
「夕飯まで時間がある。城の図書室に行ってみるのはどうかと」
「城の図書室!? 行きます!」
部屋の扉を開けたのはルシカ。
だが、ジルグロッセが図書館と告げた途端その後ろからシャーリーが顔を出す。
魔法でも使ったかのような速度に、目を丸くしてしまう。
「てっきり図書室にはもう行っているのかと思ったが」
「国公図書館に通っていたんです。買取ゾーンが楽しくて楽しくて……」
「買取ゾーン?」
「同じ本がすでにある場合や、処分対象の本が置いてあるところなんですけれど、そこの本は買い取ることができるんです! ジルグロッセ様がお屋敷の私の部屋に空の本棚を用意してくださったでしょう? そこに私の本を集めている最中なんです」
凝視してしまう。
そういう使い方をしてくれたら、と思っていたが、本当に使ってくれているのか。
(……今度商会に本を頼むか……)








