極貧令嬢、試練を受ける(1)
大変なことになってしまった。
ことの発端は、約一ヶ月前に私が国公図書館に連れて行ってもらって以降、入り浸りになってしまったから……なのかもしれない。
だって、ジルグロッセ様の求婚に頷いた半分くらいの理由としては、この国公図書館だもん。
楽しくて楽しくて、もうここに住みたい! と思うほど幸せな場所。
ジルグロッセ様も砦に戻られて、時々手紙をくれるくらい。
でも、ジルグロッセ様がいなくても寂しくもなんともない。
だって私には本がある。
ずっとずっと私には本しかなかった。
生活のためにアビゲイル様やジュエリ様の教えてくださる皇族に必要な教養を覚えることは、真面目にやるけれど。
でもこんなに、本が好きに読んでいいという生活……。
最高ーーーーー!
「あら? これは……」
国公図書館の本棚の奥の奥に、茶色い扉があった。
本棚に挟まれて、ちよこん、と。
好奇心の赴くままに扉を開けると、そこにも本棚が詰まっている。
しかも、なんて古い本の香り!
ふらふらと部屋に入り、本棚から一冊手に取って読んでみると……それは古文書だ。
古にまだ人と神の交流があった時代に書かれた文字を、現代に伝えるために紙の本に複写した本。
祖父の部屋の本棚に三冊、古文書が残っていた。
なぜ祖父の部屋の本棚に古文書が三冊もあったのかわからないけれど、最初はなにが書いてあるかわからなかったそれを、私は何としてでも読みたくて読みたくて。
現代の文字と見比べて、意地でも読もうとした結果、なんとなく読めるようになったのだ!
なお、読めるようになったのは八歳くらい。
子どもの頃の、柔軟な発想がなければ無理だった。
多分今だったら読めなかったかも。
私ってあの頃から本大好きだったのよね。
というわけで、この本棚に詰まっている古文書、私読めます!
この部屋は古文書が集められている部屋なのね。
どれもこれも貴重な一冊ばかり!
素晴らしいわ! それに面白い!
借りていけたりしないかしら?
あ、これは古代人が神に授けられた料理のレシピ本!
すごい、古代人もレシピを書き残すという知恵があったのね。
これも知識の神アルヴァーニュ様の教えたのかしら?
どんな効果があるのかも書いてある。
現代では消滅した食材がいくつかあるみたい。
あれ? これは……ポーション?
飲めば内部の病の予防になり、外傷にかければ傷を癒す。
こんなものが存在するの!? すごい!
現代の材料で作れるのかしら?
ええと……。
「シャーリーさん!? こんなところにいたの!?」
「ひゃわ! あ、あ、あ、アビゲイル様っ。い、いや、あの、個こ、この部屋、古文書が集められている部屋のようで……だからあの、面白そうだなって」
「なにを言っていますの!? 古文書なんて……読めるわけないでしょう!? ここは許可を得た考古学者の研究資料室ですわよ! ……ん? 面白そう……? は? ま、まさかシャーリーさん……あなた、古文書が読めますの?」
「あ、えっと……はい。独学ですが」
「っ――!?」
考古学者の研究資料室だったのか。
部屋の名前札なんて書いてあったかなぁ?
でもこんなに面白い本がたくさんあるのだもの。
なんとかお願いしてこのレシピ本だけでも読ませてもらおう。
「あの……」
「読めるのね? 古文書を。古代文字を」
「え? は、はい。読めます」
「まさか……独学で読めるようになるものなの……? そんなバカな」
ぶつぶつと、突然腕を組んで考え込み始めるアビゲイル様。
えっと、古文書を読めるのって珍しいのかな? 本好きなら読めるのが普通だと思ったのだけれど……。
まあ、なんだか思考の中に入り込んでおられるようだし邪魔してはいけないわよね。
今のうちにポーションのレシピを……。
「古代文字が読めるのなら、シャーリーさん。大神殿にある『神の書』も読めるかどうか試してみるつもりはない?」
「大神殿!? 『神の書』!? 本ですか!?」
「え、ええ……多分? 古代文字を読める人間は、『神の書』の試練を受けることが義務づけられていて――」
「読みます読みます! 読みたいです読みたいです! いつ読めますか!? 今から行けますか!? あ、でもこの本も面白いんですよ! 古代のレシピがいっぱい書いてあって! あああ、でも大神殿にある『神の書』だなんて……! そんな魅惑の……! いいんですか、そんなすごいものを読ませていただいて!? 読みたいです、読みたいですー!」
「ちょっと落ち着きなさいっ」
図書館ですからもちろん小声を心がけた。
けれど、興奮がおさまらない。
そんな、いいんですか!?
『神の書』だなんて、一般人が読めるものではないはずだ。
それを読ませてもらえるなんて!
いったいどんな内容なのだろう。
やはり神々の世界のことが書いてあるのかしら?
神々の世界ってどんな感じなのだろう?
ほとんどの神様は神界ではなく現世、人間の世界に転生して、人間として生きている。
神の記憶も人格もなく、力だけお貸しくださっている。
それとも、神の世界には記憶や人格をお持ちの幽霊のようなものがお住まいなのかしら?
そのあたりのことが書いてあったりする?
気になる……いったいどんな内容なのか……!
早く、早く読みたいー!




