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壁の花がいたので婚約破棄させて連れ帰ってみた。  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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帝都へようこそ、婚約者さん(1)


「え、ええと、ちょっとお久しぶりです」

「ああ」

「ああ、って……他に言うことはないの? もー、ジル兄様ってば」


 一週間後、帝都の中心部にある城の門の前。

 遥々家族と別れてロゲオス帝国まで輿入れしてきてくれた彼女を迎えるのは当然のこと。

 という主張により、妹のアビゲイルとともに出てきたわけだが自分が現れると門の付近にいる兵たちの緊張感が増すのでかわいそうに思う。

 帝都の兵たちは前線の兵たちに比べれば緊張感がないが、立っているだけで牽制となるのだからそれでいいと思っている。

 アビゲイルに脇を小突かれ、仕方なく馬車を下りてきたシャーリーを見ると、想像以上に荷物が少ない。

 馬車は一台、荷馬車も一台。

 女の嫁入りは平民でも荷馬車三台分の荷物が動くものだと聞いていたので、首を傾げる。


「あら? 荷物はこれだけ? 話に聞いていた以上に持ち物が少ないのね」

「え、ええと……。あ、ええと、あの、ご、ご挨拶を、よろしいでしょうか?」

「やだ! わたくしったら! そうよね、まずは自己紹介よね! わたくしはジルグロッセお兄様の妹でアビゲイル。第一皇女よ」

「アビゲイル様……! あ、お目にかかれて光栄です。シャーリー・シャレルットと申します」

「よろしくね! あなたにお会いするのを本当に楽しみにしていたの! さ、まずは屋敷に案内するわ! 長旅で疲れているでしょうから、さっさと行きましょう!」


 ポカーンとするシャーリーの腕を引き、乗ってきた馬車に再び乗り込むアビゲイル。

 本来であれば城の一室で数日休ませて、落ち着いてから屋敷へと案内するべきだろう。

 だが、シャーリーの格好を見たアビゲイルはまず屋敷に連れて行くことを決めたらしい。

 馬車に乗り込んだアビゲイルが窓から「兄様も早く!」と叫ぶ。

 まったく皇族で、しかも既婚子持ちがなんとがさつな。

 深々溜息を吐きながら、馬を一頭連れてきてもらい、またがる。

 おそらく馬車の中でアビゲイルがシャーリーに色々と説明しているのだろう。

 主に、屋敷の準備状態について。

 漏れ聞こえてくる話にシャーリーが必死に相槌を打つ姿。

 一週間ぶりに見る彼女の姿を見つめていると、馬が拗ねたように跳ねる。

 危ない。

 間もなく貴族街の大通りから少し外れた皇族の別邸――ジルグロッセとシャーリーの仮の新居として用意された屋敷へと辿り着く。

 城にシャーリーを入れない、とアビゲイルが判断した理由は二つ。

 見た目があまりにも、あまりにもだったこと。

 もう一つは警護の面。

 城に入れるには無防備すぎると判断したのだろう。

 それもそのはず、シャーリーが連れているのは自分が派遣したルシカ一人。

 使用人もそうだが、侍女も護衛も足りなさすぎた。

 安全を考えてすでに警備面の整えてある屋敷への誘導となったのだろう。

 門から馬車が入ると、三匹の犬が駆け寄ってきてお座りでお迎えしてくれる。

 馬車から下りたアビゲイルが、番犬たちをシャーリーに紹介して行く。

 次の瞬間、シャーリーはドレスが汚れることも気にせず膝を折って犬たちと目線を合わせた。


「アンダー、ルカ、ジュリ、よろしくね。私はシャーリーよ」

「くん、くん」

「わんっ!」

「ハァ、ハァッ」


 犬たちは立ち上がると、差し出された手のひらを各々くんくんと嗅ぐ。

 犬に軽率に手のひらを差し出すのは、危険な行為だ。

 目線を合わせることも、優しく声をかけることも間違いではない。

 しかし、人間の手というのは犬にとって一番噛みやすい場所。

 同時に匂いを確認させ、覚えさせるという意味では有効。


「撫でてもいいですか?」

「ふふん」


 まさかの発言に目を見開くジルグロッセとアビゲイル。

 驚いたことに、匂いを最初に嗅いだジュリが勢いよくお尻をシャーリーに向けて座った。

 まさしく『どうぞ!』と言わんばかり。

 ジュリは中型で、他二匹よりも警戒心が非常に強い子だ。

 その子が自分から背中を差し出して撫で撫でを許すとは。

 驚いてみていると、他の二匹もお尻を差し出して『どうぞお尻の匂いを嗅いでください』と尻尾を振る。

 舌を出し、ニコニコの笑顔の犬たち。

 シャーリーはそれぞれ背中を掻いてあげたり、尻尾のつけ根をポンポンと軽く叩いてあげたりと、なかなかに犬の扱いを心得ている。

 いや、それ以前に番犬として調教された犬たちが、こうも簡単に人に心を許すところを初めてみた。

 いくらアビゲイルと一緒にいたからと言っても、初対面の相手にここまで懐くとは。


「シャーリーは犬を飼ったことがあるの?」

「小さな時に、祖父母の屋敷に番犬がいたんです。可愛いですよね、犬。倉庫にはねずみ番の猫もいました」

「まあ……。それで動物の扱いに長けているのね。この子たちは元々軍用犬で、かなり厳しく調教されているのよ。こんなにすぐに懐くなんて……すごいわ」

「そうなんですか? すごく頑張りやな、真面目な子たちなんですね。えらいえらい」


 頭を撫でると、三匹とも尻尾の振りが早くなる。

 大型犬たちが左右を囲み、シャーリーの頰を撫でたり耳の裏をくんくん匂いを嗅いだり、距離感がさらに縮んだ。

 アビゲイルが「これから一緒に住むのだから、また明日遊んであげてちょうだい」と言うとシャーリーが立ち上がって三匹に「また明日ね」と手を振る。

 犬たちが「わん、わん!」と返事をすると、笑みを深めるシャーリー。


(なんという慈悲深い……)




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