第五部 第一章
信じがたい前世の話は皆が首を傾げていた。
アリアーネ嬢だけは何となく察しているような驚いた顔していたが、わざわざそれをここで聞くほど全体の雰囲気を読めない人間ではない。
俺に興味を持っていると言うゼス皇帝の話から、<ワールハイドゥ>のメンバーにそれを調べるための工作員が紛れ込んでいるのを見つけたのだとディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵がその場で説明してきた。
出来るならベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下に話してからと思っていたのだが、どうやら相手にされなかったので、それならという事で、遠回しに伝える為に俺らしい人物を特定できたので、それで依頼に変わったらしい。
もっとも、自分を執政に参加させないベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下に対する、嫌がらせもあったようだ。
それを「ちょっとしたいたずらで……」などと言ってしまう所が非常にディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵の問題があるところなのだが。
「名前は何と言うんです? 」
俺がそれでディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵に聞いた。
「ヨゼーヒュス・エルンスト・カルクです」
「ん? カルク男爵家のものか? 」
ベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下の顔が歪む。
確か、カルク男爵家は王弟派として処断された一族のはず。
「分家の分家で、カルク男爵家とは距離を置いていたと言うので、うちのフェリクス・カスペル・ワッセナーが仲間に入れてしまったようで……」
「まあ、王弟派で問題のありそうなのは、ほぼ監禁するか処断いたしておりますれば」
アドリアヌス・ラウレンス・ヘールツ伯爵が鶏が絞められた時のような顔をして話す。
ぶっちゃけ、その時の処理を任されたのが、アドリアヌス・ラウレンス・ヘールツ伯爵なので、それをベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下に失点として挙げられるのは困るのだろう。
いろいろと必死だ。
「だが、お前は忘れているようだが、カルク男爵家は神聖帝国と関係のあった家だぞ? 」
ベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下の言葉が厳しい。
そうなのだ。
もともと、ダンジョンの魔物からとれる魔石とかを扱っていた家で、そう言う意味ではワッセナー商会とも神聖帝国は伝手があるのだ。
ダンジョンで出たものはワッセナー商会が一手に引き受けているとこがあって、そこから魔石を手に入れて、剣とか宝飾品につけて魔除けとか強化したりすると言う作業を自分の領地でさせていたのがカルク男爵家だ。
考えてみると分家の分家とは言えそういう魔石の取引で息子さんとの関係があったのかもしれない。
それは合ってもおかしくない。
普通の貴族の家では、三男坊くらいになると父親や後を継ぐ長男の仕事を手伝ったりするのは普通にある。
まあ、基本は長男が後継者だが、当然問題を起こして廃嫡されたり事故や戦争で亡くなったりすれば三男以下にも後継の話が来ることはあるのだ。
当然、そう言う事に手を入れておかないと後を継ぐのに問題が出る。
ディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵は長男は後継者で商会のトップ、次男は高級官僚で、三男は冒険者になるようにしているが、ちゃんとその辺りは教育していたに違いない。
だから、神聖帝国の密偵と言うのはかなりの信憑性があるのだ。




