第三部 第六話
そのトンネルは石造りで<疾風>さんが魔法で灯りをつけたランタンを持ってトンネルを無言で背を縮めるようにして進み続ける。
<疾風>さんは2メートル程度の短い槍を持っていた。
相当に使い込まれたものだが、業物であることはすぐにわかった。
刃先が度重なるモンスターや戦争などを経て黒光りしていた。
そして、槍と言う選択も流石だ。
このトンネルでは狭いので剣は振り回せない。
敵は槍で刺すしかない。
そして、その槍を持った姿を見ると未だに鍛錬を欠かしていないらしい。
恐ろしいまでの強さを感じる。
「急ぐぞ」
「は、はい」
凄く緊迫した感じで<疾風>さんがやや背をかがんで先頭を進み続ける。
お客様にする態度では無いが、逆にそれが<疾風>さんの頼もしさを感じる。
まるで本物の古武士のようだ。
そのトンネルは脱出用として考えられているだけあって、立って普通に歩けるトンネルでは無く、やや背を縮めないと歩けないようになっている。
もし、万が一後を追ってくる兵がいればすぐに追ってこれないようにそう作っているわけだ。
そして、何度も90度に曲がった曲がり角がある。
それがあれば、そこに護衛の兵を伏せて追っ手と戦わせて時間稼ぎもできる。
そして、追ってくるものも狭い中で曲がり角に兵が伏せられていたら戦いにくいとそういう事だ。
まあ、護衛は<疾風>さんしかいないけど。
でも、目立ってもいけないのだ。
とにかく、アチアチカップルのアニサキスと言う俺の存在が最高級娼館である秋月にいたと言う事実を消してしまわないといけない。
だから、手練れが一人で良い。
飲み屋街にでも行って、この夜は下半身向けの話は何も無かったと、そう見せるしかない。。
アマゾネスの警告?
ああ、警告があったので、仕方ないので童貞を捨てるのは諦めました。
そういう感じで酔っ払って、てへぺろしたら良い。
そう考えながら、随分とその暗闇を歩いた。
そして、やっと風の流れを肌で感じた。
そこの風が漏れている岩を<疾風>さんが動かして、俺達は暗闇の中で外に出た。
勿論、魔法のランタンを消してだ。
そこはちょっと丘で周辺より高くなっており、遠くが良く見えた。
そこは王家の親族のものの墓だった。
「待っててくれ」
そう言うと<疾風>は地面に耳を付けた。
俺がそれを息を飲んで待つ。
<疾風>は追撃戦と撤退戦にたけており、地面の音と波動から遠くの敵の動きを読めると聞いたことがある。
伝説の冒険者なのだ。
そして、まさに秋月からの逃走を考えると最高の人物なのだ。
「近衛だけじゃないのか……」
<疾風>が意味不明な事を呟いた。
「え? 」
「全軍だ。ギルドキングダムの全軍が動いているんだ」
そう<疾風>が呻く。
「ば、馬鹿なっ! 」
俺がさらに震えた。
ベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下は軍を強力に強化していて、実は大陸でも屈指の軍事力である二十万近い軍団を作り上げた。
まるで全世界を征服するようにだ。
その全軍が俺の童貞を守るために動いているなどという事があるのだろうか?
震えが止まらない。
「まあ、お客さんに聞くのはルールじゃないが。いったい、何をやったんだ? 」
そう<疾風>が元ジェイドグループだった伝説の冒険者だけあって、いぶし銀のような渋さで聞いてきた。
「いや、その……童貞を捨てようと思っただけで……」
そう俺が呟くと、<疾風>さんは一瞬固まった後、その場で転げまわって爆笑した。
ひでぇ。




