2話 『当たり前の日常』
―《未来感知》を発動させた次の日―
結局俺は一睡もすることが出来なかった。
どうすればあの未来を回避できるのか。
一番良いのは、皆で協力してあの男を倒すことだろう。
しかし、顔を見ることが出来なかった為、あの男を見つけることは困難を極める。
一体どうすればいいんだ……。
「おっはよーう!」
「うわぁっ!」
突然ドアが開かれ、耳をふさぎたくなるような大きな声で、俺の部屋の中にあいさつが響き渡った。
反射的に俺も大声を出してしまった後、誰だか確認するためにドアの方へ目を向けた。
「うははは! びっくりしてやんの!」
そこには、桃色の髪をなびかせ、朝から元気を溢れさせているリーリャがいた。
こいつは俺のパーティーの副リーダーだ。
俺がパーティーを作ったのも、リーリャに進められて設立したのだ。
まるで子供みたいな感じだが、王都の中でも名が知れ渡っている剣士だ。
心強い。
「急に大きな声出すからだろ。まだ他の奴らも寝てるんじゃないのか? 起こしたら申し訳ないだろ」
「みんなもう起きてるよ? 早く起きてこないと、ファレンの朝ごはん食べちゃうよ」
「人の朝ご飯を奪おうとするな」
「嫌だったら早く起きて来なよー」
そう言い残し、ドタドタと音を立てながら階段を駆け下りていった。
俺達のパーティーは俺を含めて八人所属していて、皆同じ屋根の下で暮らしている。
その方が何かあった時に迅速な対応が出来るし、情報共有もしやすい。
副リーダーがあんな風だから、ちゃんと活動しているパーティーなのかと疑われてしまうかもしれないが、一応それなりに活躍している。
この前だって、S級のクエストも達成することが出来た。
自分で言うのもなんだが、結構優秀なパーティーだとおも……う……。
あれ……?
じゃあなんで、俺達は一人の男にあそこまでやられたんだ?
それに、俺のパーティーメンバー以外の人も殺されていた。
つまり、それだけこれから出会う奴は強いということだ。
「早く起きて来ーいっ!」
俺の朝ご飯が食われる!
俺はまた別の危機感を覚え、慌てて下へ降りていく。
食卓へ走って向かうと、もうすでに食べ始めていた。
「起きて来るのおっそ」
「昨日何時に寝たんですの?」
「どうせエッチなことでも考えてて、寝られなくなったんでしょ」
「考えてねぇわ!」
エレクは常に口が悪い。
戦闘中やそれ以外の時でも、馬鹿、クソ、死ねは大体使う。
もう語尾みたいになってしまっている。
サファイナは、このパーティーメンバーの母親のような存在だ。
多分サファイナがいなかったら、この家はとっくの昔にごみ屋敷になってしまっていたはずだ。
そして皆に誤解させるようなことを言ったのは、サナという頭の中がいつもピンクの奴だ。
危険なクエスト中に「ここでヤったらどうなるかな」と、真面目に聞いてきた時はさすがに恐怖を覚えた。
「サナ、お前は女の子なんだからそういうことは言うなって言っただろ?」
「うるさいなぁ。ブッロだってそんなこと言いながらさ、この前夜に――」
「その口をふさげ!」
椅子を倒しそうな勢いで立ち上がり、サナの口を覆っているのは魔法を使うのを得意とするブッロだ。
生まれつき魔力が多いらしく、剣を使う俺からしたらブッロの援護は本当にありがたい。
「ブッロ、人のこと言えない」
「ウェインのパン頂戴」
おっとりとした口調でしゃべる少女二人は双子でキュロルとウェインという名だ。
俺とリーリャがクエストを遂行しているときに、森の中で魔中に襲われているのを助けたのが出会いだ。
その後、俺達は家まで送っていったのだが、パーティーに入れて欲しいと言われ加入した。
この二人のコンビネーションは誰よりも良く、どう動くか予測できるスキルを持っているのかと疑いたくなるほど息がそろっている。
そして今も、同時にパンをかじり水を飲んだ。
俺はこの光景を見ながら、ふとあの光景を思い出した。
無残にも体中深い傷を負い、腕や足が切断されていた。
緑の草で覆われるはずの地面は、血の大地へと姿を変えてしまっていた。
もしこのまま何もしなければ、いつかあの光景が現実となり皆死ぬ。
俺の目の前から、当たり前の日常が崩れた瞬間だ。
当たり前の日常を守るためにも、俺は行動を起こさないといけいない。
《未来感知》で見た光景は、俺の頭の中だけで十分だ。




