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 次の日の朝、昨日のように朝食後ジュリアンの部屋に集まった私達のもとにハイト様から用件を言いつけられたヴィヴィ様が資料を片手に現れた。


「反対派の主な人間のリストの中で特に強硬姿勢を持つのはドミニク・ボーモンでした。

 後の人間は彼に追従するかのような人が多いようです。そしてこれがあの大聖堂の過去の修復などに関する資料です」


 昨晩のハイト様の無茶ぶりで眠っていないのか、ヴィヴィ様のどこか愛らしさを残す王子らしい顔つきは目の下にクマを作っていてげっそりとしている。

 机の上に広げられた大聖堂の報告書は大聖堂の過去の改修記録だけでなく、近辺の建物の建築、改修、撤去までリストアップされていた上に、設計図や地図まで添付してある。


「よく調べたな、ここまで」


 ここまでいるか? と思わず突っ込みたくなるが、ヴィヴィ様の昨晩の努力の結果だと思って隅から隅まで皆が目を通す。

 だが、改修工事に関しては、建築分野の専門家でもないので欠陥工事が行われた可能性などはわからないし、資料を見てもこれと言って気がかりなことはない。


「今日僕はこれから市庁舎の建設課に行って資料に書かれている工事に関して問題がないか確認を取ってきます」 


「ありがとう。それが終わったら少し休むといい。

 ヴィヴィも疲れているだろう

 私はこの改修工事反対派のリストの主だった人間と面会できるように市長に掛け合ってみる」


「それなら王子、私達が会いたい人物がこのリストの中にいる」


 改修工事反対派リストの一人の名前をライス様が指さした。


「このボーモンという人物が、缶詰工場を経営していて広大な農場の持ち主のドミニク・ボーモンなら、私達がこの数か月面会希望している人物だよ。

 面会したいと何度も依頼してもなしのつぶてで、今回のこんな事件が無かったら、今日にでも約束無しでも家に行こうかと思っていたんだ」


「カレンデュラ帝国の大臣の依頼に返事をしていないのですか?

 それは由々しき事態ですね。

 このリストのボーモン氏は、ライス様がおっしゃる通りの缶詰工場の持ち主です。

 差し支えなければ面会希望の理由をうかがってもいいですか?」


「そうなのかい。ヴィルフリート君、ありがとう。

 王子、差し支えなかったらこの人から訪問していただけると助かる。

 今回もともと俺たちが式典後のラオン滞在中に何とか面会しようと思っていた人物だな。

 ちょっと先のラオンの港、貿易港があるだろう?

 あそこにアルマリクの船も止まるんだが、ラオンでも荷物を補完したい倉庫が欲しくて、海沿いの使用されていない広大な土地の所有者がそのボーモン氏なんだ。

 彼に土地を借りたいと何度も申請しているが一向にいい返事をくれないし、エリスフレールの王宮や政府側に話を持っていく前に、約束無しだろうが一度話をしに行こうかと思っていた相手だ」


 と。



 あれから午後は急遽ドミニク・ボーモンの家に向かおうという話でまとまった。


 もちろん外出の際には再びマギーの手を借り、昔のジュリアンの服を着て今日は髪を帽子の中に入れ、マフラーと手袋をして完全防備だ。


 この街の住人たちからは旧住宅街と呼ばれている場所にある彼の家の家まで馬車を走らせようとしたのはいいが、その家がわからず、通りがかったおじいさんを見つけ、窓際の私とセリム様二人で道を尋ねると、ちょうどその人の手荷物の中に近くの食料品店で買ったという缶詰を見せながらドミニク・ボーモン氏の家を教えてくれた。


「ドミニク・ボーモンの屋敷はあの外れだよ。

 あの池と畑の奥に白い大きな家があるだろう。あそこだ。

 彼は野菜、特にイモ類の缶詰で成功して、缶詰の会社を大きくした上に、缶詰を作る際に出る野菜の皮を使った肥料開発に成功しているな。

 ちなみにこれがその缶詰だよ。

 ここ数年、他の国にも出荷してるって聞いたけど、見たことあるだろう?」


 普通、地元の人間が作った商品なら、地元愛などでうれしそうに話すかと思いきや、おじいさんは若干面白くなさそうな表情で、白地に赤の文字のパッケージの缶詰を乱暴に袋の中に戻した。


「野菜を身から皮まで全て利用する着眼点は素晴らしいですよね。

 肥料はどこで作っているんでしょう?」


 たまたま道を尋ねたおじいさんは、偶然にもこれから会いに行こうと思っていたドミニク・ボーモンという人間をよく知っているようだった。


「肥料は離れた場所だって聞いたことがあるよ。

 缶詰工場は奥の、あの農園の黄色い大きなプレハブの建物は見えるか? あれだ。

 で、君達、失礼だけどその髪と目だと外国の人?

 あの人のとこの商品でも卸す話でもするのかい?

 昔はまだましだったのに、ここ最近、嫁さんに出ていかれて更におかしいみたいだから気を付けたほうがいいよ。ちょっと前までは奴のいとこが一生懸命尻拭いしたりしてたという話は聞いてたけど、そのいとこも病気でどっか入っちまったらしいし。

 確か今日は改修工事の反対活動か何かで出かける姿を見たけどな。

 馴染みがあまりないと思うが、君たちは街の中心の大聖堂は見たか?

 あの大聖堂の神様は知ってるかい?」


「はい。詳しくはないですが、今では隣の大陸で信仰されている神様を祀っている建物ですね」


「ああ、そうだ。

 今は海の向こうの神様ってイメージだが、この地方はエリスフレール王国ができる前にあの神様を信仰していてね。今でも信仰している人がこのあたりにはたくさんいるんだよ。

 儂の家族もみなそうなんだが、ボーモン家も昔からそうなんだ。

 だが、どうも今のあの当主は信者らしくないというか……、女好きで節操がないし、誠実を良しとする神の教えを同じ信者だと思いたくないんだな。

 あの男自身は熱心な信者だと自分で言い張っているが、何度も嫁さん変えてるし、前の床工事の時は寄付していたくせに今度の改修工事で大聖堂の歴史ある建物に何かあったら大変だと反対しているんだと言いふらしているが、そんなのは建前で、きっと居なくなった嫁さんの離婚の慰謝料が心配だから改修工事の寄付にビタ一文も出したくないというのが本音なんだろうって言ってるよ。

 何かあったら大変だというなら、ちょっと前の床工事の時も反対しておかしくなかっただろうってのに。

 ボーモン家は、大聖堂の司祭の末裔だから、王室よりも由緒ある家だとか言い張って自分の家の歴史を自慢しているくせにな」


「それはそれは……、由緒ある古いおうちなんですね」


 そうだとしたらこの大陸の王室のどの家よりも古いじゃないか。

 偶然にも道を聞いたおじいさんのボーモン氏の情報にかなりびっくりする。

 驚きが伝わったのか、大人しく待っていた馬車の馬すらブルルンと息巻いたくらいだ。


「そんなことあるかい。

 最近のあいつを知っている人間なら皆嘘だって思ってるさ。

 ああ、長いこと引き留めて悪かったな。

 無事会えるといいな」


「どうもありがとうございました」


「おう、気をつけてな」


 手を振って去っていくおじいさんを横目に、訪ねたい本人がいないこと聞いた以上どうするかをそこで話し合った。

 ハイト様はおじいさんの話を聞いている途中で何やら閃いたらしく「ちょっと街でお茶でも飲んでから大聖堂へ行こうか」と提案してきた。























































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 ここまでいるか? と思わず突っ込みたくなるが、ヴィヴィ様の昨晩の努力の結果だと思って隅から隅まで皆が目を通す。

 だが、改修工事に関しては、建築分野の専門家でもないので欠陥工事が行われた可能性などはわからないし、資料を見てもこれと言って気がかりなことはない。

「今日僕はこれから市庁舎の建設課に行って資料に書かれている工事に関して問題がないか確認を取ってきます」 

「ありがとう。それが終わったら少し休むといい。

 ヴィヴィも疲れているだろう

 私はこの改修工事反対派のリストの主だった人間と面会できるように市長に掛け合ってみる」

「それなら王子、私達が会いたい人物がこのリストの中にいる」

 改修工事反対派リストの一人の名前をライス様が指さした。

「このボーモンという人物が、缶詰工場を経営していて広大な農場の持ち主のドミニク・ボーモンなら、私達がこの数か月面会希望している人物だよ。

 面会したいと何度も依頼してもなしのつぶてで、今回のこんな事件が無かったら、今日にでも約束無しでも家に行こうかと思っていたんだ」

「カレンデュラ帝国の大臣の依頼に返事をしていないのですか?

 それは由々しき事態ですね。

 このリストのボーモン氏は、ライス様がおっしゃる通りの缶詰工場の持ち主です。

 差し支えなければ面会希望の理由をうかがってもいいですか?」

「そうなのかい。ヴィルフリート君、ありがとう。

 王子、差し支えなかったらこの人から訪問していただけると助かる。

 今回もともと俺たちが式典後のラオン滞在中に何とか面会しようと思っていた人物だな。

 ちょっと先のラオンの港、貿易港があるだろう?

 あそこにアルマリクの船も止まるんだが、ラオンでも荷物を補完したい倉庫が欲しくて、海沿いの使用されていない広大な土地の所有者がそのボーモン氏なんだ。

 彼に土地を借りたいと何度も申請しているが一向にいい返事をくれないし、エリスフレールの王宮や政府側に話を持っていく前に、約束無しだろうが一度話をしに行こうかと思っていた相手だ」

 と。


 あれから午後は急遽ドミニク・ボーモンの家に向かおうという話でまとまった。

 もちろん外出の際には再びマギーの手を借り、昔のジュリアンの服を着て今日は髪を帽子の中に入れ、マフラーと手袋をして完全防備だ。

 この街の住人たちからは旧住宅街と呼ばれている場所にある彼の家の家まで馬車を走らせようとしたのはいいが、その家がわからず、通りがかったおじいさんを見つけ、窓際の私とセリム様二人で道を尋ねると、ちょうどその人の手荷物の中に近くの食料品店で買ったという缶詰を見せながらドミニク・ボーモン氏の家を教えてくれた。

「ドミニク・ボーモンの屋敷はあの外れだよ。

 あの池と畑の奥に白い大きな家があるだろう。あそこだ。

 彼は野菜、特にイモ類の缶詰で成功して、缶詰の会社を大きくした上に、缶詰を作る際に出る野菜の皮を使った肥料開発に成功しているな。

 ちなみにこれがその缶詰だよ。

 ここ数年、他の国にも出荷してるって聞いたけど、見たことあるだろう?」

 普通、地元の人間が作った商品なら、地元愛などでうれしそうに話すかと思いきや、おじいさんは若干面白くなさそうな表情で、白地に赤の文字のパッケージの缶詰を乱暴に袋の中に戻した。

「野菜を身から皮まで全て利用する着眼点は素晴らしいですよね。

 肥料はどこで作っているんでしょう?」

 たまたま道を尋ねたおじいさんは、偶然にもこれから会いに行こうと思っていたドミニク・ボーモンという人間をよく知っているようだった。

「肥料は離れた場所だって聞いたことがあるよ。

 缶詰工場は奥の、あの農園の黄色い大きなプレハブの建物は見えるか? あれだ。

 で、君達、失礼だけどその髪と目だと外国の人?

 あの人のとこの商品でも卸す話でもするのかい?

 昔はまだましだったのに、ここ最近、嫁さんに出ていかれて更におかしいみたいだから気を付けたほうがいいよ。ちょっと前までは奴のいとこが一生懸命尻拭いしたりしてたという話は聞いてたけど、そのいとこも病気でどっか入っちまったらしいし。

 確か今日は改修工事の反対活動か何かで出かける姿を見たけどな。

 馴染みがあまりないと思うが、君たちは街の中心の大聖堂は見たか?

 あの大聖堂の神様は知ってるかい?」

「はい。詳しくはないですが、今では隣の大陸で信仰されている神様を祀っている建物ですね」

「ああ、そうだ。

 今は海の向こうの神様ってイメージだが、この地方はエリスフレール王国ができる前にあの神様を信仰していてね。今でも信仰している人がこのあたりにはたくさんいるんだよ。

 儂の家族もみなそうなんだが、ボーモン家も昔からそうなんだ。

 だが、どうも今のあの当主は信者らしくないというか……、女好きで節操がないし、誠実を良しとする神の教えを同じ信者だと思いたくないんだな。

 あの男自身は熱心な信者だと自分で言い張っているが、何度も嫁さん変えてるし、前の床工事の時は寄付していたくせに今度の改修工事で大聖堂の歴史ある建物に何かあったら大変だと反対しているんだと言いふらしているが、そんなのは建前で、きっと居なくなった嫁さんの離婚の慰謝料が心配だから改修工事の寄付にビタ一文も出したくないというのが本音なんだろうって言ってるよ。

 何かあったら大変だというなら、ちょっと前の床工事の時も反対しておかしくなかっただろうってのに。

 ボーモン家は、大聖堂の司祭の末裔だから、王室よりも由緒ある家だとか言い張って自分の家の歴史を自慢しているくせにな」

「それはそれは……、由緒ある古いおうちなんですね」

 そうだとしたらこの大陸の王室のどの家よりも古いじゃないですか」

 偶然にも道を聞いたおじいさんのボーモン氏の情報にかなりびっくりする。

 驚きが伝わったのか、大人しく待っていた馬車の馬すらブルルンと息巻いたくらいだ。

「そんなことあるかい。

 最近のあいつを知っている人間なら皆嘘だって思ってるさ。

 ああ、長いこと引き留めて悪かったな。

 無事会えるといいな」

「どうもありがとうございました」

「おう、気をつけてな」

 手を振って去っていくおじいさんを横目に、訪ねたい本人がいないこと聞いた以上どうするかをそこで話し合った。

 ハイト様はおじいさんの話を聞いている途中で何やら閃いたらしく「ちょっと街でお茶でも飲んでから大聖堂へ行こうか」と提案してきた。


読んでくださってありがとうございます。

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