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第85話 神聖十字軍⑤「中央六国と魔王国と『死者の国』との境界線」

 10月10日。


 空は良く晴れ渡り、降り積もった雪が太陽光の反射を受けて、幻想的な雰囲気を作り出している。


 神聖十字軍先遣隊は、魔王国への突入ルートを切り開くべく、大陸北方のノア山脈地帯と行軍中だ。


 あたりは一面の雪景色。


 今は穏やかな気候のもと、幻想的で美しい景色だが、これがいつ何時、「死の山」へと変貌するかは分からない。


 行軍中の兵たちは万全の装備を施している。


 防寒具や手袋、靴下やインナーは当然に全兵士にいきわたっているし、大量の予備も準備万端だ。


 これは、日中の行軍で汗をかき、天候の悪化や日没で気温が下がると、急激に体温が低下し、低体温症や凍傷の恐れがあるため、その際の「着替え用」という訳だ。


 また、各国の軍をいったん解体し、5~6人の「登山パーティー」を編成し、行軍を行っている。


 これは、エルトリア軍は国内のデメトール山岳地帯で雪山行軍の訓練を行っているため、このような事態にも対応できるが、海岸沿いのケルン公国軍や、平原地帯のタイネーブ騎士団領軍は同種の経験が少なく、「国ごと」に行軍すると各国の進軍速度に大幅な差が出てしまうからだ。


 また、魔道国家シーレーン皇国の魔道兵たちを、可能な限り各パーティーに均等に配置している。


 彼女らは魔法で炎を起こしたり、遭難した際に信号弾を発射したりすることが出来るため、雪山の行軍においては非常に貴重な存在なのである。


 こうして全軍一丸となって、少しずつ、だが確実に、魔王国へ向けて歩を進めていくのである。





 やがて、山の中腹、開けた場所にたどり着いた。


 標高2000メートルほどはあろうか?


 澄んだ空気、眼下に無限に広がるパノラマビューは、まさに「絶景」と言うほかはない。


 俺たちはしばしの間、行軍の疲れも忘れ、美しい景色を声もなく見つめている。


 だが……。


「おっと、嫌なものが見えるな」


 第4軍隊長、ワルター=ダビッツが遠くを見つめ、顔をしかめる。


 彼が見つめるのは魔王国がある東側ではない。「北側」の空である。


 他の方角の空は良く晴れ渡っているのに、北側の空だけに雲がかかり、黒くよどんでいる。遠雷が光るのがわずかに見え、時折ゴロゴロと腹に響くような不気味な雷鳴が響いてくる。


 火山の光? であろうか。黒い雲の下に紅い光が見て取れる。


 俺たちが見つめる先にあるのは、北に広がる死者の国「アモンドゥール帝国」だ。


 北方ノア山脈を東に抜ければ魔王国にたどり着くが、このまま北へ抜ければ、死者の国へ到達してしまう。


 この場所は、中央六国と魔王国と死者の国の3つの勢力にとっての「国境地帯」なのだ。


「ゴクリ……」


 行軍中の兵たちが、言葉もなく北を見つめている。


 死者の国に入って、生きて帰ったものはいない。


 これは誰でも知っている常識だ。子供たちをしつけるのに、「死者の国の悪魔にさらわれてしまうぞ」というのは、どこの国でも使われる言葉だ。


「正気」であれば、どんな馬鹿でも決して死者の国には近づかない。


 これらの格言の恐ろしいところは、中央六国だけでなく、神聖メアリ教国や魔王国にさえ似たような言葉がある(・・・・・・・・・・)というところか。


 同国のことは一切が不明だ。


 怨霊たちの徘徊する腐った荒野を進むと、闇王が支配する死者たちの都「シャダール=ククルカン」が存在するといわれているが、その存在を確認したものは、中央六国はおろか、メアリ教国にも、魔王国にも、(もちろんダルタ人勢力圏にも)ただ一人として存在しない。


 魔王である俺でさえ、闇王にはあったこともないし、そもそも本当にそんな人物がいるのか、意思疎通ができる対象なのかと言ったことも知らない。


 歴代魔王たちも同様である。どんなに好戦的で凶暴な魔王であっても、死者の国に軍を派遣するような暴挙を行った人物は存在しないのである。




 おっと、いけないいけない。


 今は「死者の国」に気を取られている場合ではなかった。


 俺は邪念を振り払うように頭を振って、一旦闇王のことを忘れることにした。


 さぁ、魔王国までもう少しだ!


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