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第57話 メルリッツ峠の戦い⑦

 位置関係(5/28 午後7時現在)


 北

西 東           ユードラント軍本隊1万

 南

           



(メルリッツ峠)     (デメトール山岳地帯)

   ↓


   ↓

               (レンテン砦)

   ↓            守備隊2千

   

 先遣隊1万       

(カルデア城塞)


             エルトリア軍待ち伏せ部隊3千は現在行方不明




 第4歴1299年5月28日。午後10時。カルデア城塞。


「遅い! いくら何でも遅すぎる!」

 カルデア城塞の一室で、ラロッカ将軍が声を荒げる。


 オルデンハルト卿に城内に案内されてから、既に3時間が経過している。


「宴会の準備をしておりますので、それまで『つなぎ』として酒でも飲みながらお待ちください」


 そう言って出された酒とつまみは当の昔に飲み干してしまった。


 宴会でもなんでもいいから、とにかくさっさと空腹を満たして、早くあの「クロエ」とかいう美しい娘を抱きたいのだ。


「ほ、報告します!」

 突如部屋のドアが叩かれ、外からラロッカ将軍の護衛兵が声をかける。


「なんだ? ようやく準備ができたのか?」

 将軍が応じる。


「い、いえ……。それどころか、城内のどこを探しても、オルデンハルト卿はおろか、人っ子一人見当たらないのです」


「何だと!?」

 護衛兵の報告に、将軍は目を丸くする。







 少し時間をさかのぼり、今は5月28日の午後8時。エルトリア軍。レンテン砦。


「アレク様! お帰りなさいませ!」

 砦の見張りが、アレクたちの一団を見つけて開門する。


「ほかの部隊の到着状況は?」

 アレクが声をかける。


「ハッ! 待ち伏せ部隊3千はすべて『レンテン砦』に集結しました。アレク様の部隊が最後です。先に到着した部隊は休憩を終え、既にダイルン小隊長の先導で『先発隊』として出陣しております


 兵が答える。


「よし、上々だ。俺も少しだけ休憩を取ってすぐに出発する。すまないが、何か軽食を用意してもらえないか?」


「ハッ!」


 ガチャ


「お帰りなさいませ。魔王様。お食事になさいますか? それとも、私が『魅惑の踊り』を披露してタップリとお疲れを癒して差し上げましょうか?」


 アレクが自室の扉を開けると、クロエが室内に立っており、茶化すように煽情的なポーズを取る。


 先ほどラロッカ将軍を「美しい踊り子の衣装」で魅了し、カルデア城塞に誘い込んだ後、すぐに飛竜を駆ってカルデア城塞を脱出し、現在レンテン砦に到着したのだ。


「すごく魅力的なお誘いだが、残念ながら今日は時間もないし、辞退させてもらうよ」

 アレクが肩をすくめる。


「あら、つれないですね」

 クロエはクスクスと笑いながら受け流す。


「その様子だと、上手く行ったみたいだね」


「えぇ、ラロッカ将軍率いるユードラント軍先遣隊1万は、カルデア城塞内に『分断』しております。当面戦線に復帰することはできないでしょう



「ありがとうクロエ。おかげで上手くいきそうだ」


「いえ、とんでもございません。それでは私は、デメトール山岳地帯の山小屋にて、ルナリエお嬢様と交代して、『ユードラント軍本隊』の偵察任務に当たります」


「あぁ、すまない。助かるよ」


 アレクの言葉に、クロエは少しだけほほ笑むと、そのままひらりと窓から飛び出していった。





 30分後。

 アレクは軽食(サンドウィッチとポタージュスープ、それにほんの少し赤ワインを頂いた。)を取り終え、グレゴリー卿と「こちら側」の打ち合わせをしている。


「恐らく、城内の異変に気付いたとしても、カルデア城塞にこもった『ユードラント軍先遣隊』は少なくとも朝までは動かないはずだ」


 アレクが指示を出す。


「念のため、レンテン砦には1千の守備隊を残しておく。万が一、敵が部隊を分散してレンテン砦を狙う場合は、これで対応してくれ」


「ハッ!」


 実際その可能性(・・・・・)は低いが、万が一ということもある。最低限の守りは残しておく必要がある。


「残りの兵はすべて連れて、今から『ユードラント軍本隊』を叩く!」


 アレクはそう言うと、レンテン砦守備隊2千のうち、1千を引き連れて、デメトール山岳地帯へ向けて出陣したのである。





 時刻は日付が変わった深夜0時過ぎ。デメトール山岳地帯の中腹。


「アレク様! お待ちしておりました!」

 ルナが敬礼してアレク率いる1千の部隊を出迎える。


 ナユタやダイルンもおり、既に「待ち伏せ部隊3千」もとい「夜襲部隊3千」は準備万端といった様子である。


 ここに先ほど、アレクがレンテン砦より連れ出した1千の増援部隊を足して、合計で4千の「夜襲部隊」が完成した。


「ユードラント軍本隊の野営地はアレか……」

 アレクが遥か眼下、暗い闇の中に広がるユードラント軍の野営地を見ながら呟く。時刻は既に0時を回っていることもあり、敵軍の野営地は静まり返っている。


「敵の『総大将天幕』の位置は分かるね?」


「ハイ! 私とクロエで、敵の動向は常に上空から監視しておりました」


「よし、夜襲部隊を展開する。皆、音を立てずについてきてくれ」


「ハッ!」


 こうして、アレク率いる夜襲部隊4千は、音をたてずに密かに「ユードラント軍本隊」を狙える位置まで移動する。


 折しも、つい先ほどから小雨も降り出し、濃い霧が立ち込めたため、ユードラント軍本隊のすぐ近くまで全く気付かれずに接近することが出来た。


「よし! ここまで来たらもう十分だ! エルトリア王国の繁栄はこの一戦にあり! 姫様との約束通り、必ず生きて帰るんだ!」


「うぉおおおおおおおおお!!!」


 大歓声が上がる。


 敵に気付かれるが、もう関係ない!


「行くぞ! 全騎突撃!!」

 アレクの合図とともに、全部隊が一斉に山の斜面を駆け下り、ユードラント軍本隊向けて突撃を開始したのであった。








 位置関係(5/29 午前0時現在)


 北

西 東           ユードラント軍本隊1万

 南            エルトリア軍夜襲部隊4千

           

                  ↑


(メルリッツ峠)     (デメトール山岳地帯)

   ↓              ↑


   ↓              ↑

               (レンテン砦)

   ↓            守備隊1千

   

 先遣隊1万       

(カルデア城塞)

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