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第58話 メルリッツ峠の戦い⑧

 こんばんは。モカ亭です。

 9/8 深夜1時半ごろ、第57話 メルリッツ峠の戦い⑦の後半部分を少しだけ修正いたしました。(具体的にはレンテン砦2千の守備隊でカルデア城塞を包囲していましたが、包囲はせず、2千の守備隊のうち1千をアレクの夜襲部隊の援軍に組み込みました)


 作戦を見直してみて、「兵力分散した意味ねーじゃん」とセルフつっこみ状態になってしまったためやむなく改訂させていただきました。混乱させてしまい申し訳ありません。(修正後の布陣図は以下に記載させていただいておりますので、こちらもご参照ください)


 第57話を8日以降にお読みになった方は修正後のものになりますので、変更はありません。ご迷惑をおかけしました。




 位置関係(5/29 午前0時現在)


 北

西 東           ユードラント軍本隊1万

 南            エルトリア軍夜襲部隊4千

           

                  ↑


(メルリッツ峠)     (デメトール山岳地帯)

   ↓              ↑


   ↓              ↑

               (レンテン砦)

   ↓            守備隊1千

   

 先遣隊1万       

(カルデア城塞)



 第4歴1299年5月29日。深夜0時半。

 雨がやんだのを確認したアレクは「夜襲部隊4千」に総攻撃を命じた。


「うぉおおおおおおおおお!!!」


 まるで地鳴りのような怒号を上げながら、エルトリア軍は山を一気に駆け下り、ユードラント軍本隊1万の野営地を狙う。


「な、何事だ!?」

「敵襲! 敵襲!!」

「ば、バカな!? 一体どこから!?」


 一方、完全に「虚を突かれた

形となったユードラント軍本隊は大パニックだ。


 爆睡していた兵たちは、武器や鎧を付けることも忘れ、あたふたと走り回るばかりだ。






 これこそが、今回アレクが練りに練った、「必殺の策」である。


 もともとエルトリア軍5千 VS ユードラント軍2万で始まった今回の戦争。


 兵力差4倍という状況でまともに戦えばエルトリア軍の敗北は必至。かといって「籠城戦」に出るのも得策ではない。


 そこでアレクは一計を案じ、ユードラント軍の兵力を「分散」することにしたのだ。


 彼は開戦当初、「メルリッツ峠」におとりの「待ち伏せ部隊3千」を用意し、その情報を、「オルデンハルト卿」を通じて「わざと」ユードラント軍に流したのだ。


 待ち伏せ部隊の情報を得たユードラント軍は、まんまと兵力を分散し、おとり部隊の撃破に釣りだされてしまった。


(敵は兵力を「分散」せざるを得なかったのである。なぜなら、もともとユードラント軍は攻城戦を行う予定だったため、大量の「攻城兵器」や「兵糧」を保有していたのだ。これらの「重たい荷物」を持ったままエルトリア軍の待ち伏せ部隊を追走するのは不可能だ)


(よって、敵は副将のラロッカ将軍率いる身軽な「先遣隊」を派遣し、攻城兵器を抱えた「本隊」は峠道の入口で待機する羽目になってしまったのだ)


 待ち伏せ部隊3千をあっさりと撃破したユードラント軍先遣隊1万(むろん、アレクは待ち伏せ部隊に、まともに戦わずにすぐに退却するように指示を出していた)はそのまま待ち伏せ部隊の追撃を行ってしまう。


 なぜなら「エルトリア軍総大将」のアレクが目の前にいるからだ。


「大将首」という甘い蜜に誘われてまんまと南へ南へ戦場から引き離されてしまうユードラント軍先遣隊。


 そんな彼らの元に、「カルデア城塞ががら空きになっている」という更においしい情報が舞い込んだのだ。


 情報をもたらしたのはまたしても「オルデンハルト卿」。


 先ほど彼の情報通りエルトリア軍待ち伏せ部隊を撃破したユードラント軍先遣隊は、疑いつつも、もはや彼の情報を無視できなくなってしまったのだ。


(最初にオルデンハルト卿が流した「待ち伏せ部隊」の情報が「本当だった」ことがここで効いてくるのだ)


 ラロッカ将軍率いる先遣隊は冷静な思考能力を無くし、ふらふらとカルデア城塞に吸い寄せられていく。


 そしてダメ押しの「絶世の美女」クロエによるハニートラップ。


 これにより、ユードラント軍先遣隊1万は、「カルデア城塞を制圧した」のではなく、「カルデア城塞に閉じ込められてしまった」のだ。


 こうしてアレクは、ほぼ無傷で、ユードラント軍2万のうち半数の1万を「戦闘不能」にしてしまったのだ。


 そして初戦にて「わざと」敗走したエルトリア軍待ち伏せ部隊3千。彼らは散り散りになって敗走したが、最初から集合場所を「レンテン砦」と定め、敵軍をまいたらすぐにレンテン砦に集まるよう、小隊レベルで指示を出されていたのだ。(こうすることで本隊からはぐれても各隊が自分で判断し、集合場所に集まることが出来るのだ)


 そして残すはユードラント軍本隊を構成する兵1万のみ。


 レンテン砦に集結した待ち伏せ部隊3千+レンテン砦守備隊1千をグレゴリー卿が「夜襲部隊」として再編。


 デメトール山岳地帯で頻繁に訓練を行っているダイルンが先導し、メルリッツ峠を迂回せずに一直線に「夜襲部隊」をユードラント軍本隊の元へこっそりと移動させる。


 ユードラント軍本隊が移動することも考えられるため、クロエがハニートラップを仕掛けている間、ルナリエが飛竜を駆って上空からの偵察任務を引き継ぎ。


(カルデア城塞に敵を釘づけたオルデンハルト卿やクロエたちはその間にこっそりと退避)


 こうして、5千 VS 2万で始まった戦争を、局地的にだが4千 VS 1万にまでもっていったのである。





 兵力差がここまで埋められた状態で、地の利のあるエルトリア軍が夜襲を仕掛け、しかも上空からの偵察任務で敵将の位置もバッチリ把握済なのである。(おまけにユードラント軍本隊は兵力1万といっても、残っているのは「攻城戦用の部隊」である。「野戦」が得意なラロッカ将軍は遥か南のカルデア城塞に閉じ込められてしまったのだ)


 この状況で、「どちらが優勢か」は火を見るよりも明らかだろう。


「おのれぇ! 直ちに陣形を整えよ!」


 ユードラント軍総司令官ポロゾフ将軍が声を張り上げるが、もはや手遅れ。


 むしろ、エルトリア軍に「将軍の居場所」を知らせてしまうだけである。


「ひ、ひいぃ!!」


 ヘクソン侯も飛び起きて、慌てふためき逃走を開始する。


「ナユタ! 逃がすな!!」


 アレクの鋭い指示が飛ぶ。


「了解!」


 ナユタ率いる精鋭騎士100騎が、逃げるヘクソン侯の背中を追う。


 一瞬で距離を詰め、あとわずか数メートルで、憎きヘクソン侯に刃がとどく。


 もらった!


 そう思った瞬間、横から突如騎馬隊が出現し、ヘクソン侯を守るようにナユタの前に割って入る。


「エルトリア軍! 貴様らの快進撃もここまでだ!!」


 そう言って、ユードラント軍の若き騎士、シドニア=ホワイトナイトは剣を構え、エルトリア軍に対峙するのであった。

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