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チョコレート・ハウス3  作者: 猫又


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25/25

殺人鬼VS芸術家7

 女の首から血が吹き出した。そして女の身体はがくっと前につんのめった。

 その方向にいた山吹の顔に血がかかり、山吹は慌てて顔をぬぐった。

「な、なにも殺さなくても」

 と山吹が震える声で言った。

 私は斧を肩に担いで目の前の男を見た。

「あら? エイミのおかしな作品には大金を出すくせに、目の目でわざわざ実践してあげた私には罵倒しかないの? あなたってエイミの作品を本当に評価してるの?」 

 私は斧の刃を山吹の喉元に突きつけた。

 山吹の顔色が真っ白になり、脂汗が流れ出始めた。

「ど、どうして、俺まで」

 と山吹が言った。

「だってあなたを殺す為に来たんだもの。むしろその彼女はあなたの被害者。あなたみたいな男にぶら下がってこんな所に来なければ、死なずにすんだのに」 

「か、金ならいくらでも」

「いらないわ、お金なんて」

「何故……俺に何の恨みが」

「あー、重たい」

 私は山吹に突きつけていた斧を下ろした。

「悪いのはあなたと岩本」

「岩本さんって……」

「私が殺した。そしてあなたが死ねば完成なの」

「か、完成って」

「私だってエイミに負けないくらい完成にこだわるわ」

 そんな問答をしていると、

「お姉様、そんな乱暴なの駄目よ。パーティが台無しだわ」

 とエイミが言った。

 いつの間にか老人執事がエイミの側にいる。

 多分、廃墟区間でボディガード達の死体を発見したのだろう。

 エイミにすれば、ボディガードが私を片付けるとふんでのパーティご招待だったのだ。山吹からお金を引っ張るまでは殺されては困る、と顔に書いてある。

 

 振り返った瞬間にエイミの顔を斧でなぎ払った。

 スパン!と頭が半分飛べばよかったのに、驚いたことに老人執事が見事な身のこなしでエイミの身体を引っ張った。重たい斧は空を切り、その重みで私の身体が振り回されてしまった。だが、そのおかげで執事が投げたナイフのような刃物が私の身体をかすっただけですんだ。私の後ろに立っていたアキラが持っていたマチェットでカンッカンッとナイフを弾いた。

 その一連の動作の後に、執事はまじ老人ですか?という早さでエイミの腕を取り自分の後ろにかばい、懐から拳銃を出した。

 エイミをかばいながら銃を構える。

 そんなものを出されたらこちらにはもう打つ手はない。

 所詮、素人殺人鬼だもの。

 ナイフや斧でちょこっとやってる相手に拳銃とか。

 私は肩をすくめて斧を下ろした。

「パーティはお開きですな。お嬢様」

 と老人執事が言った。

「そうねぇ」

 とエイミ。

「アキラ様、お嬢様と一緒にお越しください」

 と言う老人執事に、

「嫌だね」

 とアキラが短く答えた。 

「お嬢様を裏切ると?」

「どうかな、俺が美里について公平じゃね? 美里にはチョコレートは抜群に美味いけど、あんま戦闘能力のなさそうなパティシエしかいないんだぜ? そっちは大企業のお嬢様で警備も半端ねえし、あんたがいつだって守ってる。あんた、強いしな。それに俺は組織にはむいてない。姉ちゃんと地味にやってくよ」


 私はアキラと老人執事の問答を聞いていたが、口を挟む余地もないし、何だか面倒くさそうな話なので聞き耳をたてながら山吹を見ていた。

 山吹は青白い顔をして居心地が悪そうに突っ立っていたが、きょろきょろと辺りを見渡している。

 エイミとアキラと執事が言い合っているうちに、活路を開こうというのだろう。

 背後の扉を見て、それから私達の方を見た。

 私はアキラの方を見ているふりをした。

 山吹がこちらを見ながら少しずつ後ずさる。

 ぱっと後ろを向いて扉へ走り出そうとした瞬間に、私は斧を両手で持って横向きで山吹の背中へ向かって投げた。

「ぎゃっ」と悲鳴がして、山吹が転んだ。

 残念ながら刃が山吹の腰を切断する事はなく、ただ、身体に当たっただけだった。

「駄目よ、山吹さん。逃げ出すなんて、何て卑怯なの」

 私は倒れた山吹の方へ行って、また斧を拾った。

 山吹は真っ白な顔で私を見上げた。

 私は斧を振り上げて、山吹の足首に思い切り斧を振り下ろした。

 絶叫が上がり、山吹はのたうち回る。二度ほど斧を振り下ろすと、山吹の右足から先がことんと離れた。血が大量に流れ出す。

 私は右足首から先を蹴飛ばした。人間の足首って案外重い。

 近くのコンパニオンの娘の足下で止まった。

 それを見ていた他の客が悲鳴を上げながら、ドアへ殺到する。

 優雅なダンス音楽は悲鳴と絶叫に代わり、テーブルや椅子をなぎ倒しながら客達は次々に逃げ出して行った。

 山吹はろうそくのように白い顔で泣いていた。

 右足を押さえ、ただ転げ回って泣くだけだった。

 それから左足首から先を切断する。

 山吹は失禁して、再び絶叫を上げた。

 芋虫のように身体を丸めて、両足を抱え込む。

 動き回るからうまく狙いが定まらず、右肩切断を狙ったのだけど斧は床に突き刺さった。

「ああ、もう疲れちゃった」

 私は斧から手を離した。

 重くてもう無理だ。

 破壊力はあるが、こちらに力がないので上手く使いこなせない。


「手伝おうか」

 と声がしたので振り返ると、部屋にはもう誰もいなかった。

 エイミと老人執事も消えていた。

 いつの間にかアキラとオーナーと私だけになっていた。 

「エイミを逃がしたわね?」

 アキラは肩をすくめて、

「山吹を殺して目的は達したんだ、それでいいだろ。今、ここでエイミと殺し合うのは不利だ」と言った。

「そう?」

 ばらばらばらと音がしているので、私は窓の方を見た。

 ヘリコプターが飛び去って行くのがちらっと見えた。

「明日にはこの廃墟は跡形も無くなっている。美里が殺った人間達の行方も永遠に分からない。遺体すら見つからない。山吹も明日からは誰の頭の中にも残っていない。エイミはそういう組織に守られている」 

 私は転げ回っている山吹を見た。

 ひーひーと言いながら泣いてるような、笑っているような顔だった。

「エイミには手を出すなって事?」

「そうじゃないけど、山吹とは違う。エイミの居場所をつかむのは不可能って事さ」

「そう、分かったわ。エイミには別に恨みはないしね。今夜は楽しかったからそれでいいわ」


 大きな斧の刃が自分の顔面に振り下ろされる瞬間はどんな気分なのだろう。

 山吹の顔が真っ二つに割れた。骨ごと顔を切断出来るなんてうらやましい。

 アキラが斧をぽいっと投げ捨てた。

 血と肉片と脳みそがぐちゃぐちゃになり、割れた顔面からどろりと流れ出た。


「帰りましょうか、お腹がすいたわ」

 と私が言うと、

「食事をして帰ろうか? アキラ君のおごりで」

 とオーナーが言った。

「なんで俺のおごりなんだよ。安い給料でこき使いやがって」

 とアキラが唇を尖らせた。

「そういう事を言うか? だいたい君があの娘を連れて来るからこんなことに」

「山吹を殺る為にはエイミが必要だったんだ」

「だったら全部終わったんだから、君はあの娘と一緒に帰ればいいだろう? あの執事も一緒に来いって言ってたじゃないか」

「やなこった」

 アキラはぷいっとよそを向いた。


「ねえ、焼き肉食べに行かない? お腹すいちゃったわ」

「いいね」

「おう」

 私達は二度とお目にかかれないだろう廃墟を後にした。

 岩本を殺して、山吹も殺した。


 今夜はよく眠れそうだわ、と私は思った。             完

チョコレート・ハウス3は完結しました。

ご愛読、ありがとうございました!<(_ _)>

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本当に執筆の励みになりました!

ありがとうございました!

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