趣味と書いて人生と読めるか?
目の前のドラゴンは火を噴きながら攻撃してくる。
「おい!お前をこの俺が倒してやる!」
そう言いながら、一人の青年がドラゴンに向かっていく。やぁ!と振り下ろした青年の剣がドラゴンの体に深く突き刺さり、ドラゴンは叫びながら体が光を放ち消えていく。
「何これ?」
呆れたように悠姫は言った。
「何って、小説?物語?ワンダフル・ストーリー?」
ふざけているのかそれとも本気なのか、当たり前ジャン!とでも言うように水樹は言った。
「本気で言ってんの?」
「え?本気だけど?」
はぁ、と更にさらに呆れた様子で息を吐く悠姫。水樹の文章能力の無さは…と半ば諦めるように悠姫は心の中で呟いた。水樹はこれまでにも何回か小説(?)を書いてきたことがある。それは正直出来が良いわけではないが、それでも彼女は楽しそうである。悠姫は彼女と過ごしてきた時間の中で、趣味を持つことは良いな、と素直にそう感じた。そう思うと、呆れていたのに頬が緩んでくる。
今回彼女が書いてきたものは勇者の青年が主人公の冒険物語である。これは何というべきか非常にありきたりな、悪いドラゴンを倒す、というものである。それでも彼女が楽しければそれで良い。
時々思う。悠姫には趣味というものが無い。それは人間として足りないのではないか、と。
―――――今更趣味なんて、ね…
§§§§
その日の帰り道、悠姫はコンビにに寄って帰った。部活には所属しておらず、文芸部の水樹とは別々に帰っている。コンビにではお菓子と飲み物を買った。
コンビニから出た後はまっすぐ家に帰るつもりだ。雑貨屋とかもあるが、別に欲しい物も無い。ただ一人でトボトボと歩いていると、一匹の黒猫を見つけた。ただの黒猫だったけど、何故か目が引かれて立ち止まる。
その猫は悠姫の視線に気づいたのか、悠姫の方を向いた。鋭いその瞳は緑がかった琥珀色。肢体を包む流れるような漆黒の毛皮。とても美しいその姿に、更に見入ってしまう。
「わぁ、すごく綺麗ね、あなた」
猫に話しかけてしまった。周りに人がいなかったことは幸いだったが、思わず赤面してしまった。
―――――猫に話しかけるなんて…
そのままその場を立ち去ろうとしたその時――――――――
「お前、吾輩を美しいと言ったか?」
突然背後から声がした。
――――――――――――は?
―――――――――――――誰かいたの?
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには誰もいない。
ただそこには美しい黒猫がいるだけだった。




