第七話 語尾がにゃんのニャン 【最終回】
ああ……、何と言うことでしょう……!
これが、西の御方の真のお姿……!
演奏が始まる前までは、皆、見てはいけないとばかりに西の御方から視線を逸らしていましたが。
演奏後は、全員が崇拝のごとき目で、西の御方を見つめています。
一曲の演奏で、皆が認識を変えるほどの力量……。
なるほど。
以前のわたくしは間違っていた。
そう、お見合いに際し『西の変態』か『東の変態』か、どちらかを選べとお父様から問われたとき。
『宗主っ! そこは宗教弾圧してでもいいから、裸族信仰は却下させましょう⁉ というか、嫁なんて見繕わずに国ごと亡ぼしたらよろしいのでは?』
なんて思ってしまったけれど。
宗主が正しかったのよ。
間違っていたのは、わたくし。
裸族が何だ。
裸がどうした。
その裸族信仰の極みが! この、今の、演奏!
ああ……わたくしは神を見た。神の音楽を聴いた。
「わたくしとジュリアン様の婚儀に、これほどに素晴らしい演奏を……。感謝いたしますわ、ダムソン・デ・フレミング陛下」
わたくしは、手を胸の前で組んで、キラキラした目でダムソン陛下に感謝を申し上げましたわ!
「喜んでもらえれば、我も嬉しく思う」
わたくしとダムソン陛下を見て、安心したように微笑んでいるジュリアン様。
ああ……世界は何て素晴らしい!
これぞ、平和!
己と異なる他者を認め合うこと……!
天の国からの祝福の光が注がれるようよ!
ぜひ握手でも……と、手を差し出そうとしたそのとき、わたくしの視界を何かがすっと横切りました。
あ、あれは……、動く毛玉?
「ダムにゃん! お待たせですにゃん!」
毛玉のような何かが……たかたかたか……と、駆け寄って、ダムソン陛下の腰に抱き着いて……。
「おお! ニャンよ! きれいにしてもらったか?」
「にゃん! ここの使用人の皆さんはいい人にゃん! おかげでニャンの毛がふさふさにもどったにゃん!」
ダムソン陛下の腰に抱き着いているのは……。
「ね、猫の獣人……?」
顔をうずめたくなるほどのふわふわした長い毛並み。
ふりふりと揺れる尻尾。
ぴこぴこと動く耳。
全身が白と茶色の毛におおわれて……。
そんな猫の獣人を……ダムソン陛下がお優しい顔で撫でている。
「よかったな」
「うんですにゃん!」
……う、羨ましい。触りたい。なでくり回したい。もふもふしまくりたい。うあ、ああああああ!
だけど、初対面の、見知らぬ猫獣人の娘さんを、いきなりわたくしが撫でたら……。
『第三の変態』が、名実ともに本当になってしまう……!
耐えて。耐えるのよ、ローズマリー!
わたくしが悶えている間に、ジュリアン様が問いかけました。
「西の。そちらのレディはどうしたんだ?」
「ああ。ここに来る途中で拾った」
「拾った?」
猫獣人の女の子がこくんと頷きました。
そして、くるりと回って、カーテシーを!
あああああああああ! かわいいいいいいいいいい!
「獣人の国出身のニャンと申しますにゃん! 国を出発して、船に乗り、遠く遠く……、こっちの大陸まで旅をしておりましたですにゃん! ここに来る途中、ハラヘリで倒れ、埃塗れの泥まみれ、ぼろぼろになっているところをダムにゃんに拾ってもらいましたですにゃん!」
「ほほう?」
「さすがに汚れたままでは結婚式会場に入れないですにゃん! だから、今、きれいに洗って乾かしてもらいましたですにゃん!」
「それはよかった」
ダムソン陛下の席の隣に、猫獣人のお嬢さんの席を用意するよう、素早く指示を出すジュリアン様。
いつもなら、その対応の素晴らしさに、惚れなおし続けるわたくしですが……。
あ、ああ……。ふわふわと揺れる長毛……。
さ、触らせてえええええええ!
顔には淑女の笑みを浮かべ続けていたはずのわたくしですが。
バクバクと心臓は走り、ふらふらと手が伸びそうになり……。
そんなわたくしに、侍女が、すすすすす……と寄って来て……耳元でささやきました。
「……ウエディングドレスにお猫様の毛が付着すれば、式の開始時刻は遅れます」
くっ!
目から血の涙が流れそうよ!
「おお! そうだ! ニャン殿は西ののことはどう思う?」
「にゃん?」
右にこてんと首を傾げ……。
「私がこれから結婚式とすると、次の結婚は西の……と、我らが宗主は考えるだろう」
「にゃん?」
左にもこてんと首を倒します。
「つまり、西の……ダムソンは、嫁、募集中だ」
分かりやすく、区切って話すジュリアン様。
「あー、ニャンがダムにゃんのお嫁さん?」
あ、あああああああ愛い! 首をかしげるそのお姿がかわいらしすぎるううううう!
淑女の仮面をかぶりつつ、奥歯を噛み締めるわたくし。
ダムソン陛下は、ニャン様の足元に跪いて。
「もしも……、もしも、ニャンが良ければ。嫁に来てくれないか……」
ダムソン陛下を見て、フッとお笑いになるジュリアン様。
「私とローズマリーは式の準備に戻らせていただくが。式が始まるまでしばしある。ニャン殿を口説いておかれよ、西の」
「東の……」
ニヤッとお笑いになるジュリアン様。
あ、あああああ!
ニャン様もお可愛らしいですが!
やはり、ジュリアン様! かっこいいですわあああああ! 惚れなおす!
「さあ、ローズマリー。我が妻よ。控室に戻るとしよう」
そう言った後、ジュリアン様はわたくしの耳元にこっそりと「……今後、西のたちとの個人的な交流の機会は幾度もあるだろう。そのときまで、ローズマリーが触れる優先順位はこの私にしておいてくれ」と、低い声で囁いて。
あ、あら……。わたくしが猫獣人様のもふもふに心奪われかけてしまったのも、お分かりで……。
ですが、わたくしの一番は……、やはり……。
「そうですわね。お猫様より先に、ジュリアン様を堪能させてくださいませ」
わたくしは、顔を、耳まで赤らめながらも、そう答えたのだった。
結婚式はつつがなく終わり……、そして、初夜。
わたくしは、ドキドキする心臓を無理やりに押さえつけて、寝室でジュリアン様を待っておりました。
これから営まれる初夜。
無事にできるのだろうか……。
不安。
いえ、フツーの貴族の令嬢が初夜を迎える時の心細さではなく。
「物理的に大丈夫なのかしら……」
だって、ジュリアン様は巨体だ。
はっきり言って大きい。
男性の身体の中心部に存在するジュリアン様のジュリアン様も……相当に大きいのでは?
わたくし、耐えきれるだろうか? いや、それよりも……。
「……そもそも入らないのでは?」
平民ならともかく、ジュリアン様は一国の王。
跡継ぎが絶対的に必要だし……。
その場合は……どうしたらいいのだろう?
本気で不安になりながら、わたくしは待った。
そうして……。
「待たせたな、ローズマリー」
「ジュ、ジュリアン様……」
明かりを落として薄暗くなる寝室。
バスローブをはだけたジュリアン様。
そして、わたくしは見た。
見てしまった。
ジュリアン様のジュリアン様は……小さかった。
いえ、きっと、一般的な男性サイズではあるのでしょうけれど……、ジュリアン様のお体からすれば、かなりの小ささ。
マジか? と声に出さなかったわたくしは偉い……などと、自分で自分を心の中で褒めている間にコトは済み……。
……ええと、案ずるより産むがやすし?
違うわ。
ええと……。
とにかく。
後に、わたくしは三男四女を産むことになるのだけれど……。まあ、夜のほうの不都合は皆無だったわ……。
更に言えば、わたくしの産んだ次男は、西から嫁をいただき……。
わたくしはもっふもふの孫を愛でることが出来て、狂喜乱舞するのですが。
それは、また、別のお話。
終わり!




