第二話 『第三』とは
「ジュリアン・デ・リドリーだ。本日はよろしく頼む、ローズマリー第三王女」
使用人にお馬様は預け、わたくしたちはサロンに移動した。
サロンに到着すると、ジュリアン・デ・リドリー陛下は剣と甲冑を使用人に預け、ドレス姿になった。
「このような姿で他国にやってきたのは申し訳なく思うが、取り繕った男装姿ではなく、素の私を見てもらった方良いと思ってな」
「ご配慮ありがとうございます」
王女としてのプライドで、なんとかにこやかに笑みつつ、着席を勧める。
太ももまであるスリット入りのスカートがふわりと揺れる。
巨漢であるのに動作は優雅。非常に麗しい。
これは脳が混乱する……。
「宗主からの命令とは言え、私との見合いを選んでくれてありがとう」
「い、いいえ……」
単に裸族だけは嫌だという消去法でもあるのだけれど……。
「……わたくし自身、ジュリアン・デ・リドリー陛下のお噂をお聞きしまして、少々興味を持ちまして……」
ジュリアン・デ・リドリー陛下は呵呵と大笑いした。
「『東の変態』との噂を聞いて興味を持つとは! 第三王女殿下もなかなかの豪の者よな!」
「……その単語はともかく。絶世の美女にして巨漢な方とお会いしてみたいと思うのも当然と思いませんこと?」
「なるほどなるほど! 確かに私は首の上と下が間違ってくっついているとよく言われるな! そういう意味では一見の価値があるか!」
怒りもせずに笑い飛ばす。
……性格もなかなかに好感が持てるのでは。
絶世の美女にして、女装趣味。しかも巨体。
これをどう思うかだけど……裸族なんかよりは何千倍もマシだわ!
「外見だけではなく、靴をお求めのお話も興味深いですわね」
「ほう……。その話もすでに聞き及んでいるのか」
「はい。人は歩いて生活する以上、靴は重要ですわね。足に合ったサイズの靴……大きすぎず、小さすぎず。その上歩きやすく、足も痛くない……、そのような靴を求めたいという気持ちはわたくしにもございます。何せ、夜会などで踵の高い靴を履いたまま、何人もの殿方とのダンスを踊りますと……、次の日はさすがに足腰に痛みが走りますもので」
わたくしがそのように言えば、ジュリアン・デ・リドリー陛下の肩がぴくりと動いた。
特に……踵の高い靴というところで。
ん? ん? ん?
何かしら。ちょっと引っかかる……。
今、ジュリアン・デ・リドリー陛下がお履きになっている靴は、まるで軍靴のような編み上げのブーツ。
だけど、贈り物で軍靴を贈られても成婚には至らなかった。
こ、これはもしかして……。
わたくしは使用人を呼んで、わたくしの夜会用の靴を数足、持ってくるように伝えた。
どれもこれも踵が高くて細い、しかも宝石で飾られている華奢な靴。
「ジュリアン・デ・リドリー陛下は、もしやこのような靴をお求めで?」
聞いてみたら、ジュリアン・デ・リドリー陛下は重々しく頷かれた。
「ああ。ドレスに似合う美しい靴。だが、私のこの体で細い靴を履けば……」
踵なんて、すぐにボッキリと折れてしまうでしょうねぇ……。
大きなお体を丸めて、まるで雨に濡れた子犬のよう……。
こ、これは……。ちょっとおかわいらしい。
よっし!
わたくしの中の何かが目覚めたみたい。ジュリアン・デ・リドリー陛下に華奢な靴を作って差し上げたいという気持ちがめらめらと燃え上がる!
「陛下」
「何だ?」
「一年、お待ちください」
「は?」
「一年で、ジュリアン・デ・リドリー陛下が履くことができる華奢に見える靴をご用意してみせますわ!」
ふんす! と、鼻息荒く、わたくしは宣言したのだった。
それから、まず、ジュリアン・デ・リドリー陛下の足型をとらせていただいた。
石膏で固めて、本物と同じ大きさの両足首から足の先までの、型。
これがあれば、わざわざジュリアン・デ・リドリー陛下にお越しいただかなくても靴が作れる!
デザインは後からでいい。
まずは踵の高い靴で、ジュリアン・デ・リドリー陛下の巨体を支えるにはどうしたらいいか……。
細い踵では、履いた途端に折れてしまうだろう。
「どうしたらいいのかしら……」
悩むこと半年。ある靴職人が作ってくれた靴。
「プラットフォームシューズと名付けた靴でございます。これは、いかがでしょうか?」
「プラットフォーム? ああ、どこかの国の言葉で『台』とか『壇』とかの意味を持つ……」
「はい。通常の靴に比べて靴底をかかなりぶ厚く作りましてございます」
「かといって、軍靴とはまるで違う……」
そう。足裏のつま先の部分と踵の部分には、共に非常に太い台のようなものがついている。
ただし、足裏のつま先部分には低めの台。
足裏の踵の部分には高めの台。通常のハイヒールのように細く長い棒のような踵ではなく。安定感バツグンの太くて高く、切り出した板のような台。
そして、その長くて太いヒールには大小様々なビジューが施され、更に金糸が織り込まれた生地でラグジュアリーなムードが満載だ。
足の甲の真ん中部分には真紅の宝石までが付けられて、その周りを小さなダイヤモンドがぐるりと取り巻いている。
「こ、これだわ! 素晴らしい!」
「ありがとうございます」
「この靴、わたくしも欲しいわ! ジュリアン・デ・リドリー陛下とお揃いで二足作るわよ!」
靴職人の素晴らしき発想! 採用よ!
一年という期限を待たずして、わたくしはジュリアン・デ・リドリー陛下のお手紙を書いた。
「出来上がった靴を贈らせていただきたいので、我が国までご足労願えますか」と。
手紙を書く前に、もちろんわたくし用に作らせた靴を試着してみた。
踵はとても高いのに、ものすごく歩きやすい! わたくしの靴は、すべてこれに換えてもらいたいくらいだわ!
あ、デザインを変えて、もう何足か作らせましょうか。
最初の一足が金糸に真紅の宝石とダイヤモンドだったから……、今度は青い宝石や緑の宝石を使ったものがいいかもしれないわ!
ウキウキしながらジュリアン・デ・リドリー陛下の到着を待った。もちろんわたくしも自分用に作らせたプラットフォームシューズを履いて。
「靴が出来たと手紙にはあったが……」
「ええ。まずはこちらをご覧くださいませ」
わたくしはドレスのスカートをそっと持ち上げて、靴を見せる。
「こ、これは……、第三王女殿下の靴は美しいな!」
「これと同じものをジュリアン・デ・リドリー陛下の足のサイズで作っておりますわ! わたくしとお揃いですわ!」
「なんと!」
早速、履いてもらった。
「……壊れない」
「ええ、試作に試作を重ねました。踵の部分には鉄鋼などの素材も使ってございますので、万が一の場合、魔物や敵を蹴散らすこともできますわ」
ちなみに宝石にもコーティングを施している。金槌で叩いたくらいでは壊れない。
使用人に切り出したばかりの丸太を用意させた。
ジュリアン・デ・リドリー陛下がその美しいおみ足を振り上げて、かかとから丸太目がけて振り下ろす。
丸太は真っ二つに割れたが、靴には傷一つついていない。
「素晴らしい! これぞ、我が求めし靴! ローズマリー第三王女よ! 我が妻となってくれ!」
「ええ、もちろんですわ、ジュリアン・デ・リドリー陛下! 末永くよろしくお願いいたします!」
こうして、わたくしは、『東の変態』と名高いリドリー王国国王であるジュリアン・デ・リドリー陛下に嫁ぐことになった。
宗主も父も大喜びだ。
わたくしも裸族に嫁ぐことなく、ジュリアン・デ・リドリー陛下と夫婦になれることは嬉しい。
ただ……。
婚姻にあたって、わが国だけではなく、宗主国、近隣諸国に新聞の号外が配布されたのだけれども……。
その記事で……
『靴を気に入られ、第三王女ローズマリーは『東の変態』と名高いリドリー王国国王に嫁いだ。宗主もたいそうご満悦である。あと残りは『西の変態』である。かの王に嫁ぐ豪の乙女はどこにいるのだろうか……』
などと延々と続いたのは良いんだけど……。
その記事の見出しなどで……『第三王女』は『東の変態』に『嫁ぐ』って大きな文字で書かれ……。
どういうわけか、このわたくしが……わたくしの呼び名が……。
『第三の変態』になってしまったのだ……。
解せぬ。
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ご指摘いただきまして、足形 右→両に修正。
ありがとうございました。




