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嫁ぐなら『西の変態』と『東の変態』のどちらがいいかと問われました  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第一話 見合い

カクヨム様に投稿したギフト御礼小話の取りまとめです

謁見の間には、宰相、教皇、騎士団長、魔術師団長……、国をけん引する重鎮たちが集まっていた。皆、緊張の面持ちだ。

それは、玉座に座る父王も同じだった。


「ローズマリー、お前は十四歳となった」

「はい、お父様」


父王とわたくしの声が、謁見の間に響いた。


「お前の兄である王太子、姉である第一王女と第二王女。三人の婚約がようやく決まったので、次はお前の婚約なのだが……」

「はい」


王族の婚約者など、もっと幼少期から決まっていて当然ではあるのだが……。

宗主国があり、その周辺に多くの小国……従属国がある。

我が国はその従属国のうちの一つなので、王族の婚姻といえども、宗主国の意向抜きには決まらない。


王太子であるジョナサンお兄様は、その宗主国の第四王女様と婚約が決まった。

第一王女であるフィオナお姉様は、隣国の第二王子に嫁ぐことになった。

第二王女であるナナリーお姉様は、我が国の宰相の息子へと降嫁する。


第三王女として生を受けたわたくしも、兄や姉のように国のため、政略で婚約者が決まるのは当然だと思っていた。


「国のため、このローズマリー、父王のご命令通り、どこへでも嫁ぎましょう」


それが、王女としての覚悟というものだ。

たとえ相手が五十も年の離れた年寄りであろうと、戦乱の最中にある蛮族であろうと。国の利となる相手と良好な関係を結ぶべし。


「うむ。さすがローズマリー、その覚悟やよし!」


玉座に座る父王は、満足そうに声を上げた。


「ローズマリーの婚約者には二名の候補がおるのだが」

「二人……ですか?」

「ああ。宗主国の国王陛下からのご命令でもあるのだ。どうしても婚約者の決まらない二者が居て、どうしてもその二者に嫁を取らせたい。二者とも従属国の国王であるので、嫁げばその国の王妃となるのだが……。嫁ぎたがる者がおらず、また、居ても条件に合致しない」


従属国とはいえ王妃となるのに?

どういうことだろう?


「……とにかく、どちらかにわたくしが嫁ぐということになったのでございますね?」

「そうだ。その二者のうち、どちらが良いかは選ばせていただけるとのことだ」

「なるほど……」


宗主国の国王陛下が、我ら従属国にわざわざ命じねばならないほどの相手……。

きっと、相当の難ありの相手なのだろう。


「うむ。どちらを選んでも利があり、どちらを選んでも難がある。であれば、どちらの方がよりマシか、儂が勝手に決めるよりもローズマリー、お前に選んでもらうほうが良かろうと」

「わ、わたくしが……でございますか?」


余りの重大責任に背中に汗が流れそうだ。


「その……、相手がどなたなのか。知らねば選ぶこともできないのですが……」

「あ、ああ……、そうだな。すまない、ローズマリー」

「で、どなたなのですか?」

「まず一人目は『西の変態』と名高いフレミング王国国王であるダムソン・デ・フレミング陛下」

「はい……?」


何かオカシナ単語が聞こえたような……。へ、へん……たい……?


「もう一人は『東の変態』と名高いリドリー王国国王であるジュリアン・デ・リドリー陛下だ」


ま、また変態……。な、何なのですか、お父様!


「二人とも年のころは二十代後半。一国の国王だというのに王妃となる令嬢がいない。両国とも宝石や鉱石や金や銀は潤沢に採掘が出来、農作物などの収穫も安定している。反乱の兆しもなく、嫁ぐ先の条件としては悪くはないのだが……」


宰相、教皇、騎士団長、魔術師団長……、国をけん引する重鎮たちが、一斉に重々しく頷いた。


「これまでいくつもの縁談があり、何回もの見合いがあった。だが、その見合いに参じたご令嬢が皆口をそろえたように言うのだ」

「な、何と……おっしゃったのですか……?」

「『変態』に嫁ぐぐくらいなら、戦争を起こす。それができないのなら、死を選ぶか、修道院にでも逃げる。絶対に変態には嫁ぎたくないと……」


戦争を起こしてまで嫁ぎたくない変態……。

どんな変態だ。

逆に興味が湧いてきた。




「お父様。では、お二方がどのような方であるのかを教えてくださいませ」

「あ、ああ……。『西の変態』と名高いフレミング王国国王であるダムソン・デ・フレミング陛下は裸族信仰者で……」

「待って下さい、お父様‼ 裸族信仰って何ですか! 裸族という名の神でもいらっしゃるのですか⁉」

「いや、一糸まとわぬ姿こそが漢の証とだな。下着すらまとわぬ姿で……」


つまり、裸?

わたくしの顔が思わず赤く染まった。


「……宗主の御前で、でもですか?」

「ああ。宗主は各国に信教と宗教の自由はお認めになっているのだ……」


宗主っ! そこは宗教弾圧してでもいいから、裸族信仰は却下させましょう⁉ というか、嫁なんて見繕わずに国ごと亡ぼしたらよろしいのでは?


「しかも、だ。フレミング王国国王一人が裸族を信仰しているだけではなく。かの国では貴族の男のほとんどがそうである。故に、彼らの妻たちにも、その信仰を強要して……」

「却下ですわ! いくらこのわたくしでも裸で社交をしろと命じるような男には嫁げません‼」


絶対に嫌だ。

フレミング王国国王に嫁ぐということは、このわたくしも……、宗主の前でも……つまり、大勢の前でも……裸になるということで……。


「絶対に嫌ですわ!」

「……では、残る『東の変態』との縁組となるが」


『西の変態』と双璧をなす『東の変態』

その内実を聞きたいような、聞きたくないような。


「とりあえず服は着ていらっしゃいますか⁉」

「ああ」


それだけでだいぶマシなような気もするが……。『東』の御方も、宗主が命じて嫁とりをさせるほどの、二大変態の片翼……。


心臓がバクバクするわ……。




「『東の変態』と名高いリドリー王国国王であるジュリアン・デ・リドリー陛下はな……。その……女装というか、ドレスを着用するのがお好きでな」


なんだ、その程度か。


わたくしはほっと胸を撫でおろした。

一国の王がドレスを着る程度、裸族信仰に比べれば大したことはない。


わたくしはそう言ったが、お父様は渋いお顔だ。


「ジュリアン・デ・リドリー陛下は顔だけを見れば絶世の美女だ」

「は?」

「ただし、その身長は、ローズマリー、お前の倍は軽くある」

「は?」

「更に体つきはがっしりとした巨石。小型のワイバーン程度なら片腕で殴り殺せるほどの筋肉」

「は?」

「そんな国王がドレスに身を包み、これまた巨大な馬にまたがる姿は、何というか……脳が理解を超えて正常に動かなくなる感覚が……」


ああ……、それは、もしや平民言葉で言うところの「脳がバグる」というものでは……。


「さすがに『西の変態』とは異なり、服を着ている上に顔だけは美女なのでな、見合いに臨んだ令嬢もいるのだが……。その者たちは皆『化粧も施していないのに、わたくしよりも美女。プライドがへし折られます』とだな……」

「ま、まあ……」

「しかも、リドリー王国国王は見合い相手の令嬢に言うのだ。『私と婚姻を結びたければ、私のこの足に相応しい靴を献上せよ』と……」

「く、靴……ですか?」

「ああ。贈られる靴に納得が出来なければ婚姻しないと」

「……これまで靴を贈ったご令嬢はいらしたのかしら?」

「ああ。巨体を支えられる頑丈な軍靴を贈られたらしいが……」


婚姻が成立していないということは、それではダメだったのね……。


「分かりましたわ、お父様。とりあえず、わたくし一度ジュリアン・デ・リドリー陛下にお会いしたいです」


二者択一なら、絶対に裸族は嫌。

宗主の命令であれば、その『東の変態』とやらをわたくしは絶対にこの手に掴まなくてはなりませんわ!


わたくしとジュリアン・デ・リドリー陛下のお見合い。

初めてお会いするリドリー陛下は……何というか、お父様が言った通りのお人だった。


「美しい……」

「大きい……」

「堅そう……」


我が国の鍛え上げられた使用人たちでさえ、思わず感嘆の声を上げだした。


金髪のウェーブヘアとサファイアブルーの瞳を持つ絶世の美女。それが馬を駆けてやってきた。


そのお姿はまるで、神話の戦乙女。


甲冑に身を包み、白鳥の羽根飾りのついている兜をかぶり、片手には剣、もう片方の手で馬の手綱を持っている。

甲冑の下は緋色ドレス。スリットの入ったスカートから延びるおみ足には黒色の編み上げブーツを履いている。


何という麗しいお姿だろう。


ただし、遠方から眺めていれば……だが。


近づくにつれて、地面が揺れる。乗っている馬も大きければ、ジュリアン・デ・リドリー陛下御自身も大きい。

まるで移動する山。

圧倒される。

ジュリアン・デ・リドリー陛下お一人でワイバーン程度倒せるというのもうなずける。


「待たせたか、我が見合い相手よ」


お顔の美女さ加減と異なり、声は野太い男の声。

違和感に眩暈がしそうだけど、わたくしは腐っても王女。

背筋を伸ばす。


「ようこそお越しくださいました。わたくしが第三王女、ローズマリーでございます」


腰を抜かしそうな侍女たちを目で制して、わたくしは淑女の礼を執った。



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