第1章 春 第6節 漁
第6節です。
ぜひご一読ください!
「おはよぉ。漁って朝早くからしないといけないんだね。」
なおは、寝ぼけ眼で大きなあくびをする。
「おはよう。そうだ。朝早くからですごいだろ!早起きは三文の徳?っていうしな。」
俺は帰り道にした約束を叶えるために、漁に誘った。
正直、漁は嫌いだ。
でも、海を見るのは大好きだ。
それになおと一緒だったら、なんでもできる気がする。
「おはよー!なおくん。早起きできて偉いね。出航するよー!」
母の声量で目が覚めた様子のなおは、明朗快活に返事をした。
「ありがとうございます。参りましょう!」
帆が風に身を委ね、水辺線を追いかけていく。
「うぇー。気持ち悪い。」
船酔いした俺は吐き気と戦っていた。
すると、おでこに冷たいものがあたった。
ペットボトルの水だった。
なおが渡してくれている。
「サンキュ。」
さり気ない優しさが身に染みた。
「うわぁ!マリンブルー色だ。本当に青色って吸収されにくいんだ。」
「青色が吸収されにくい?」
「そうだよ。赤色の光は水中で早く吸収されるけど、青色の光は吸収されにくいんだ。だから、海は青色に見えるんだよ。」
「なんか分からんけど、すげぇ!」
「かずはいつも褒めてくれるね。ありがとう。」
なおに感謝され嬉しかった俺は、尋ねた。
「他に知ってる知識ある?俺に関係するもので!」
「あるよ。たくさん。」
なおは少し考えたあと答えた。
「かずは幼稚園の頃、青バラ組だったよね。」
「あぁ、そうだ。よく覚えてたな。」
「うん。勿論。青バラの花言葉って叶わぬ夢なんだ。」
「えぇ!?」
輝かしい未来に溢れる幼稚園児のクラスにつける花の名前じゃないなと目を白黒させた。
すると、なおは俺の顔を観察するかのような目つきで見たあと言った。
「永遠の愛、深い感謝という意味もあるけん、安心して。」
「おー。分かった。」
長年一緒にいるからか考えていたことの答えを述べてくれた。
「僕のクラスはキンシャチ組だったんだ。花言葉は儚い夢。」
「えぇ?」
俺は思わず声を漏らした。
他に良い花の名前無かったのかよと少し笑った。
「おーい、かず。なおくん。網引っ張るわよー!」
「はーい!」
二人で大きな声を重ねた。
「わぁ、鰆だ。」
「なおくん、物知りね。」
「俺だって知ってるし!」
「あなたは、手伝ってたんだから知ってて当然よ。」
そう言われ少し口を尖らせた。
だから、意地悪をしてやろうと思い質問をした。
「鰆ってどんな漢字か知ってるか?」
「答えはな、魚へんにー」
「春だよね。」
「まぁ、そんなことも知ってるのね。本当にすごいわ。なおに爪の垢を煎じて飲んでほしいくらいよ。」
「ありがとうございます。なおのサッカーのセンス、光るものがありますよ。」
「なおー。」
意地悪をしてやろうという魂胆で質問をしたのに、なおは正解した上でフォローもしてくれた。
「なお、お前って良い奴だよな。」
口角を上げたなおの顔は、日光に照らされ綺麗だった。
帰り道はずっと、なおのことを考えていた。
海は穏やかで静かだった。
「さぁ、魚たちを捌くわよ!」
なおがみていることで、いつもより気合いが入っている母を見て笑みがこぼれる。
「かぁちゃん、気合入れすぎ。」
「あら、かずだって、集合時間の1時間前から待ってたのにね。」
「はぁー!?そんな事ないし。」
耳までタコのようになり、なおを見てみた。
「ふふ。」
「笑ったな、なお!」
「あははは」
二人の笑い声は天高く浮かんでいった。
「なおくん、魚の捌き方知ってる?」
「はい、お見せしましょうか?」
「すごいわね。折角だから、見せてちょうだい。」
「任せてください。」
包丁が波打つかのような切れ味で魚を捌いていく。
「なおって、なんでもできるよな。ーすごいや。」
「かずも出来るんじゃないの?何年も手伝ってるんでしょ?」
「ー俺、魚捌けない。ー血が、怖いんだ。怖く、ないのか?」
なおにはできる。俺にはできない。その事実に直面する。
「僕?怖くないよ。だって、さっきまで生きてたんだから血が出るのは当たり前だもん。」
「ーそっか。」
なおの当たり前と俺の当たり前は違う。少し胸がざわつく。
「さぁ、完成ね。新鮮なうちに、食べましょうか。」
「二人とも、手を合わせて。せーのがさん、はい。」
「いただきます。」
ようやく食事にありつける。
食べるのは大好きだ。
「この海の鰆は、甘みが強いね。」
「甘いの嫌いなのか?」
「好きだよ。人間の本能だからね。」
「そうなんや。好きなら良かった。」
「じゃんじゃんおかわりしてね!頑張ったご褒美だからね。」
「かあちゃん、おかわり!」
「かず、お母さんはおかわりじゃないよ。」
「先生みたいなこと言うなぁ。」
思わず歯を見せる笑顔になる。
「かずは笑ってる顔が似合ってるよ。笑ってね。ずっと。」
「おうよ!任せとけ。」
なおとの漁は楽しかった。
「次はなおの家行きたいな。」
「いいよ。うちのみかん食べにおいでよ。一緒にみかんを収穫しよう。」
「本当にいいのか?」
俺は弾んだ声で聞いた。
「もちろん。」
「みかんについてたくさん調べる!そんで、なおよりみかんに詳しくなるからな!覚悟しとけ!」
「そうなの!?すっごく楽しみ。期待して待ってるね。」
初めて聞いたなおの弾んだ声に、俺の心も弾むのを感じた。
「というわけで、かあちゃん、今度なおの家行っていい?」
「いいわよ。」
俺は天に向かって二本の指を突き出していた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!!
次回、みかん。




