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「◎すいたい」衰退しちゃった高校野球。堕ちた名門野球部を甲子園まで  作者: 末次 緋夏
紅白戦編

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第8話 紅白戦② 拝啓、じいちゃん

初めてのマウンド。

憧れのキャッチャーと、夢のような舞台。

けれど、心の中ではーーずっと天国のじいちゃんに語りかけていた。



天国から、見えてますか?


オレはいま、高校のグラウンドでーー

生まれて初めて、マウンドに立ってます。


白い息が空に溶けていく。

春なのに、指先は冷たい。

でも、胸の奥は燃えるみたいに熱い。


照り返す太陽が、まだ硬い土を照らしていた。

白線の上を風がなぞり、砂粒が舞い上がる。

そのすべてが、オレを“ピッチャー”として試している気がした。


背番号はまだない。

それでも、ここがオレの場所だと信じたくて

グラウンドの真ん中で、深呼吸をした。


 

そしてキャッチャーは、

ずっと「いつか捕ってもらいたい」と思ってた人。


煌桜学園野球部の主将ーー天王寺ヒカル先輩。


まさか、こんなに早くその日が来るなんて。

……いや、早すぎるだろ!



理由は単純。

一年生チームに、キャッチャーがいないから。


だから紅白戦のあいだだけ、

ヒカル先輩がオレのボールを受けてくれることになったんだ。


夢みたいな話だろ?


 

けれど、夢を見てるみたいに足が震える。

スパイクの底が、硬いマウンドを掴めない。

風の音より、心臓の音がうるさい。


バクン、バクン、バクン。

鼓動が体の内側で暴れて、世界の輪郭が滲む。


帽子のつばを握りしめる。

じいちゃんが、いつも大事な場面でやっていた仕草。

オレも、あの人みたいに“風”を掴めるだろうか。



「構えてるぞ、タイチ君」


 

マスク越しのヒカル先輩が、ほんのわずかに頷いた。


たったそれだけの仕草なのに、空気が変わる。


スタンドのざわめきが遠のき、

春の匂いと土の感触だけが、鮮やかに浮かび上がる。


ヒカル先輩のミットが、まるで夜空の星みたいに見えた。

その中心に、小さな“目標の光”が瞬いている。


世界が、静かになる。

風も、観客も、音も消えて――

そこに残ったのは、投げるための空間だけ。


 

(……見ててくれ。じいちゃん)


 

ヒカル先輩のミットが、ゆっくりと動いた。

合図は言葉じゃない。

呼吸で伝わる。間で感じる。


風が背中を押す。

腕がしなり、指先がボールを送り出す。


リリースの瞬間、世界が一瞬、光った。




タイチの最初の投球は、誰かに見せるためじゃなく、

“届けたい人”に向けたものだった。

それが、彼の野球の原点。

そしてこの一球が、彼に“風を掴む感覚”を教えてくれる。


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