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第九歩 決意

「で、どうだ?そろそろ村長をやってくれるか?」


今自分はカツトシさんの家に居候している。あの二階の部屋を借りている訳だ。そして、毎朝毎朝カツトシさんに会う度に村を任せようとしてくる。


「カツトシさん、やっぱり来たばかりの自分には荷が重いですよ。」

「そんなことないぞ、ここに来てから一生懸命に働いていて、みなの評判もいいしな。」

「でも、自分はそんなことやったこともないですよ。」

「大丈夫だ、私も初めてだったからな。」

「うっ……と、とにかく自分には無理ですよ!」


話から逃げるため外に出る。

いつもこればかりだな。住まわせてもらってるから何か恩返しはしたいんだけど、村を任せるってのはなぁ……。

途中ですれ違った人達に挨拶やお礼を言われつついつもの場所に向かう。村の端にある川だ。ここは数少ない一人になれる場所だった。

川のすぐそばまで行き、腰を下ろした。ここは風が気持ちいいんだよね。なんか時間の感覚を忘れられて凄くいい。これ、寝転がったら寝る。間違いなく。気づいた時には頭に草の感触があった。これはきっと神が自分に寝ろと言っているに違いない。きっとそうだ。それならば寝ないと神に悪いな。……言い訳はこれでいいかな?

などと考えつつ一眠りしよう目をつむったが邪魔が入った。足音が徐々に近づいてくる。俺がここに来るのを知っているのは一人しかいない。


「ユウさん、起きてますか?」


目を開けるとモミジが上から顔を覗かせていた。


「うん、起きてるよ。よくここにいるって分かったね?」

「ユウさんのいく場所ってだいたいわかりますから!」


なんだその能力。


「お昼まだですよね?良かったらここで食べませんか?」

「もう昼になったんだ。そうしようか。」


そういって持ってきたかごをおき、準備を始める。中にはおにぎりが入っていた。カツトシさんの頑張りでだいぶ和食が食べれるようになったそうだ。知った味を食べれるのは嬉しい。


「はい、どうぞ。」

「ありがと。」


モミジからお茶を受け取りお昼にする。


ん、このおにぎりおいしい。


「中は梅干し?」

「はい、そうです!」


そんな会話をしつつお昼を楽しんだ。最後にもう一杯お茶をもらった。


「ユウさんはどうして村長の話を断るんですか?」


モミジが村長と呼ぶのはカツトシさんのことだ。


「自分には荷が重いんだよ。村長なんて大役はね。そんな経験もないし。」

「確かにやったことがないことに挑戦するのは大変です。けど、ユウさんならやれると思いますよ?」


む、すぐに引いてくれるかと思ったけど引かなかったな。


「モミジさんがいきなり村長やってって言われたら出来る?」

「それは……。皆さんのためと考えれば頑張ろうとは思います!」


すごいやる気だ。本当にやればいいんじゃないかな?


「ユウさん、本当にそれだけですか?」

「えっ……」

「やってもいいって思ってるんじゃないですか?」


……実はこの人に心の中まで読まれてるんじゃないかと思う。


「モミジさんには隠しても無駄ですか?」

「ええ、無駄です。」


ニコッとしながら断言されてしまった。逃げ場は……ないな。


「……実を言うとやってみたいって気持ちはあるんです。ただ……」

「なんですか?」

「ただ、不安なんです。こっちの世界に来てまだ少ししか経ってない、そして知らない人たちに囲まれて、いきなり村長をやれって。皆自分を過大評価しすぎてる気がして……」


これが自分の本音。けどモミジには見損なわれたかな。ただのヘタれにしか聞こえないもんな。でもそれでいいか。それが自分なんだし。

しかし、モミジは自分の前に手を差し出してきた。


「そうでしたか……、ごめんなさい。ユウさんに無理をさせる形になってしまっていたんですね……。」

「いや、カツトシさんも好意で言ってくれてることだと思うし、謝らないで。」

「私から言うのも変ですが、自分を信じてくださいね。確かにユウさんはここに来てから日が浅いです。ですが、村の皆さんはユウさんのことを信頼してます。一緒に働いてもらって、手伝ってもらって、そして何より一緒に村を守ってくれた人です。それはユウさんのお力です。その方が村を率いてくれるのなら何も言うことはないと思います。」

「モミジさん……」

「もしそれでも不安というなら、微々たるものですが私がお手伝いします!二人でやればなんとかなると思います!私を信じてください!……っと、熱くなりすぎましたが、どうでしょうか?それでも引き受けては頂けませんか?」


ただでさえ優しい人なのによそ者の自分の事まで心配してくれて正直嬉しかった。

……助けてもらってばかりだな。この人に。ここまで言ってくれてるのに動かないなんてまだまだだな。


「モミジさん、ありがと。やってみるよ。」

「本当ですか!?良かったです!」


モミジは笑顔でそう言ってくれた。そうと決まればカツトシさんに返事しに行かないとな。立ち上がって気合いを入れる。


「よし、カツトシさんのところに行こう、モミジさん。」

「待ってください!」


モミジが顔を背けて袖を引っ張ってる。ん?何かしたかな。忘れてることとかは……特にない。周りを見渡しても特に何もない。


「何かあった?」

「いえ、あの、ですね?」

「ん?」

「お互い助け合って行くわけですから、その モミジさん っていうのは止めにしませんか?あ、嫌ならいいんですよ!別に!」


あー、そう言うことか。さん付けをやめてほしいってことか。でも、それだけで滅茶苦茶恥ずかしがってるな。あんまり慣れてないのかな?


「そうだね。じゃ、俺のこともユウでいいよ。」

「いっいえ、私は恥ずかしいのでさんで呼ばせていただきます!」


よく分かんないけどモミジがそれでいいならいっか。


「分かった、モミジ 行こうか?」

「っ、はい!」


ここから二人で一歩を踏み出した。

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