戴冠式
ーーバターンッーー
扉は盛大に開かれた。
それは、ちょうどヒュウガがシオンの頭に王冠を載せた時であった。皆はいっせいに背後に視線を移す。頬が上気したアリッサムがそこにいた。その上気は、怒っているのだが……頬を桃色に染めたその可愛らしい憤怒に、恐ろしさを感じる者など一人もいないだろう。アリッサムはツカツカと進む。一直線にあの書庫官の元に。戴冠式の記録をしている二人の前へと。
「待って、リサ!」
慌ててガロが王間に入ってくるも、
「こっ、こっ、これ!!」
アリッサムは、すでに書庫官の前へ。手に持っていた冊子を二人に差し出した。それは、あの『最終巻』である。書庫官は二人同時に『ああ、はい』と答えた。
「こ、これは、どういうことです?!」
追い付いたガロは『ああ』と顔を手で覆った。
「はい、好評に売れております」
書庫官の答えに、アリッサムは、
「もおっ! そうじゃなくって!」
と……その様には女王である威厳も、女神である凛々しさもない。あるのは、可愛らしい女性の姿である。小さく地団駄を踏んだアリッサムを、ガロは諌めるのだ。
「リサ、今……戴冠式だってわかってるか?」
と。アリッサムは、周りが見えていなかった。つと、視線を上目遣いに動かしていく。王間を見回すように。桃色の頬は、青へと……いや、白くなっていく。
「や、やだぁ、どうしよう、ガロ」
アリッサムは、ガロの服の裾を掴みその背後に隠れた。
「姉上」
シオンはアリッサムを呼ぶ。ガロの背後に隠れたアリッサムは、チラリと顔を出してシオンを見た。
「ご、ごめんね?」
「ぶっ」
シオンは吹き出した。アリッサムの可愛らしさは、全開である。
「すみません、シオン様」
ガロは謝りながら、アリッサムを自身の横へと促した。モジモジと恥ずかしそうに立つアリッサムを、各国の訪問団が見ている。皆一様に、呆れている……というか、さらなる魅力を見せつけられて惚けていると言った方が正確だろうか。
「だ、だって! これ……」
アリッサムはシオンに例の冊子を見せた。
「ああ、はいはい。幸せそうでなによりな結末ですね」
シオンは笑った。白くなっていたアリッサムの肌は、一気に上昇する。もちろん桃色に。
「なっ! なんでそうなるのよ?! こ、こんなことしていないわ!」
アリッサムは叫ぶ。また、戴冠式であることを忘れているのだろう。シオンはチラリとガロを見た。いつもなら、反らしたりしないガロの視線は微妙にずれる。シオンの口元は笑む。
「絶対、していない? 全部偽りですか?」
シオンはアリッサムに問う。
「ぜ、全部じゃないけど、ち……」
「リサ、真正直に言わなくていい」
ガロはアリッサムの言葉を止めた。
『誓ったけど』
アリッサムは口をムッと閉じた。
「シオン様、本当にすみません。連れて行きます」
ガロはアリッサムの手を取った。アリッサムはシュンとしながら、ガロに連れられていく。
「なんだ、やっぱり『最終巻』通りじゃないか。戴冠式で手を繋ぐ……」
シオンや、書庫官、ルピナスの者は笑顔で二人を見送ったのだった。
***
彼女の名は別にある。
だが、その名を口にする者はほとんどいない。
……
……
「リサ」
ただ一人、愛する者のみが彼女をそう呼ぶのだ。
『瑠璃の女神』一凛
終わり
完結まで読んでいただきありがとうございます。
『籠の姫』から、こちらを追いかけていただいた読者様、『青の奇跡』を胸に抱くサラ姫の物語もストンと胸に落ちていただけましたでしょうか? 追いかけていただき、こちらも最後まで読んでいただきありがとうございました。
お気に入りユーザー登録をしていただいている読者様、活動報告でもお知らせしましたが、『31番目のお妃様』の連載を本日中(たぶん午後)に開始したいと思っております。こちらは執筆中ですので、更新速度は週に2~3回となります。更新毎に次話更新日程はいつも通りお知らせいたします。
作者他作品から、またはこちらの物語を見つけていただいた読者様、最後まで読んでいただきありがとうございます。作者の作品は、なろうサイトにおいて、異世界(恋愛)のカテゴから少々逸脱ぎみと作者自身感じております。それにも関わらず、足を運んでいただき、また最後まで読んでいただき嬉しい限りです。
作者のいくつかの作品は作風が少々変わったものもあります。お好きな作品を読んでいただければ幸いです。
ありがとうございました(*´ω`*)
桃巴。




