不機嫌な幼馴染
「何言ってるんだ? 馬鹿なのか?」
「おいおい、一応今日が初対面のやつに馬鹿はないだろ」
「すまん。つい、本音が出てしまった」
「ははは。その本音こそ隠せよな。悠って面白いな」
どうやら、ほぼ初対面である俺に馬鹿呼ばわりされたことは大して気にしていないようだ。気にしていないどころか面白がっている。
これが陽キャを極めた者の余裕というやつか。俺なら、初対面で馬鹿呼ばわりなんてされたら絶対に関わりたくない。そういう礼儀がなっていないやつは、間違いなく面倒くさい奴だと相場が決まっているのだ。
ちなみに俺は、自分自身が面倒くさい奴だという自覚はある。陰キャに面倒くさくない奴なんていないのだ。
「それで? いきなり何言ってんだ?」
「あぁ、それな。だってさっきからずっと――」
「さっきから何を楽しそうに話してるの、悠くん?」
智也が言い切る前に、彩花が会話に割り込んできた。
気のせいだろうか? 何だか微妙に不機嫌そうな顔をしているような……?
陰キャを極めた俺は、こういった他人の所作には敏感なのだ。常に相手の顔色を伺った対応をしておかないと、会話が無駄に長引いたりと面倒なことが増えるからだ。
「ん? 彩花か。別に面白い話なんてしてないぞ?」
「そう? さっきから随分と楽しそうにお話ししてるみたいだったけどね?」
「もしかして、怒ってる?」
「……別に怒ってない」
あぁ、これはあれだ。完全に不機嫌なやつの反応だ。
普段ならすぐに謝るのだが、今回ばかりは俺が何かやらかした記憶がないので謝るに謝れない。相手が不機嫌そうだからという理由だけで謝ると、大抵の場合において『なんで謝ってるの?』といった感じで余計に不機嫌にさせてしまう。謝る時は「自分が何をしたか」を添えて謝るのが、場を穏便に収めるコツなのだ。
こういった時は相手が話し始めるのを待つか、どこかに行くのを待つのがセオリーなのだが、彩花の性格が小学生の頃から変わっていないのなら恐らく前者だろう。俺は沈黙を貫きながら、彩花が話し始めるのを待つ。
ここでポイントなのは、スマホを触ったり本を読み始めたりといった自分勝手な行動をせず、真摯に相手に向き合って待つことである。
「……ずるい」
「ずるい?」
「私と歩いてる時は相槌ばかりで、自分から話してくれなかったのに……」
「あぁ……」
歩いている時というのは、校門から続く桜道から教室に入るまでのことだろう。確かに俺は彩花の話を聞くことに徹していたので、自分から話題を振ったりはしなかったが……なんで?
それが俺の率直な感想だった。少し考えてみるも、不機嫌になる理由がまるで分からない。会話に対しては相槌だけでなく返答もしていたのだから、やり取りとしては成立しているはずなのだが……。
分からないものは分からない。いくら考えても分からないことをいつまでも考えるというのは、陰キャであろうと陽キャであろうと愚者のすることだ。特に、こういった他人の繊細な精神面のことなど、他人である自分に解解できるわけがない。ここで「分かってる」なんて言う奴はただの傲慢野郎だ。
よって俺がすべきことは1つ。お詫びと提案である。
「確かに久しぶりの再会にしては冷たかったかもな……悪かった」
「……うん」
「お詫びと言ったらなんだけど、今度また久しぶりに遊びに行かないか?」
「ほんと!?」
「彩花さえ良ければだが」
「行く! 約束だよ!?」
「分かってるよ」
我ながら完璧である。もちろんこの約束を反故になどしない。それに、久しぶりに再会した幼馴染と出掛けるというのも悪くはないだろう。いくら陰キャと言っても、たまには遊びに行きたくもなる。それに、1回遊びに行けばしばらくは穏やかに過ごせるだろうしな。
……さっきは遊びに行きたくなることもあると言ったが、俺は陰キャだ。やっぱり家に引きこもりたいというのも本音ではあるのだが。
「……すげぇ。こんなにナチュラルにデートに誘ってるやつ、初めて見た」
「何を言ってるんだお前は?」




