幼馴染との再会
今日は4月8日。俺こと翡翠悠がこれから通うこととなる私立明宝高校の入学式の日だ。
中学時代は陰キャを極めたかのような日々を送っていたので「高校ではデビューを!」なんて意気込みなどある訳もなく、培った陰キャスキルを駆使して平和な日々を送ろう――などと考えながら、校門から校舎へと続く桜道をのんびりと歩いていた。
「あれ? もしかして……悠くん?」
その声は聞き馴染みのある声であると同時に、すごく懐かしい響きを含んでいた。
「えっ……彩花?」
「やっぱり! 久しぶりだね!」
「本当に彩花……なのか?」
「それ以外の誰に見えんのよ! もう!」
そう言って頬を膨らませるのは、俺の幼馴染の柏村彩花だ。彩花とは中学に上がるタイミングで俺が引っ越しをしたのを機に会わなくなっていたので、今日の再会は実に3年ぶりとなる。
俺が彼女を本当に彩花なのかと疑ったのは、久しぶりの再会という理由だけではない。端的に言うと可愛くなっていた。いや、可愛くなり過ぎているのだ。
肩くらいまで伸びたゆるふわな茶髪が春風になびき、透き通るような肌と大きな瞳が嫌でも目を引く。周囲からは『あの子めっちゃ可愛くない?』なんてささやき声が聞こえてくるほどだ。しかし本人はその反応にも慣れているのか、一切動じた様子はない。
そして、何を隠そう。彼女は俺の初恋の相手である柏村奈菜の妹である。
彩花の姉である奈菜さんは俺より2つ年上で、俺にとっては姉のようであり、憧れでもあり、初恋の相手でもあった。奈菜さんとも引っ越して以来会っていないのだが、彩花を見る限り、姉も間違いなく美少女へと進化を遂げているのだろう。
「いや、久しぶりだったから一応……な?」
「確かに3年ぶりだもんねぇ。どう? 可愛くなったでしょ?」
「ん? まあ、そうだな」
「ふふん。悠くんはあまり変わってないね!」
「人間そうそう変わるもんでもないんだぞ?」
「可愛くない……」
「俺は男だからな」
「もう! 3年前はもっと可愛かったよ!」
そう言って俺の肩をペチペチと叩いてくるあたり、変わったのは外見だけで中身はまるで変わっていないようにも感じる。小学生の頃も俺がおちょくったりすると、こうして肩をペチペチと叩かれたものだ。
それでも、昔と今では全然違う。彩花は紛れもなく美少女となっているので、俺にとっては幼馴染……ましてや、初恋相手の妹だといってもドキドキしてしまうわけで……なんていうのは全くない。
確かに、彩花は可愛くなった。それは認めよう。知識として理解はできる。でも、それだけだ。中学時代にあらゆる陰キャスキルを極めた俺にとっては、この程度で動じるわけなどあるはずもないのだ。
ちなみにどのくらい極めていたのかと言うと、班活動をする際なんかにはすぐに声を掛けてもらえるくらいには極めていた。
意味が分からないって? 簡単な話だ。俺がいてもいなくても変わらない人間だから、人数を埋めるだけの要員としては完璧なのだ。陰キャを極めすぎると、声が掛からないどころか声が掛かりまくる。人気者(?)になれるのだ。
そのレベルまで陰キャを極めた俺としては、いくら彩花が可愛くなっていて、肩を叩くなどのボディータッチを含むスキンシップを取ってこようと俺は何も思うことはないのだ。強いて言うなら周りの視線だけが辛い。陰キャを極めているがゆえに、周りからの視線には人一倍敏感なのだ。
「はいはい。早く行かないと入学式から遅刻になるぞ?」
「むぅ……話を逸らした」
「彩花は何組なんだ?」
「私は1組だよ。悠くんは?」
「俺も1組だ」
「おぉ! 一緒だね!」
「みたいだな」
「ふふ。お姉ちゃんもびっくりするだろうなぁ」
「奈菜さんが?」
「うん! お姉ちゃんも明宝高校だからね!」
この会話の中で、俺の陰キャを極めた者としての勘が警鐘を鳴らしていた。そして、この予感は間違いなく当たるという確信もあった。
そう……俺の高校生活は、陰キャとして平穏に送るには難しすぎるのかもしれない、と。
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