表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
X⇔Yシフト ~2050年から来た者だが、2030年に全人類の性別が裏返るので生き残り方を置いていく~  作者: 団田図


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/38

レポート37 ピクセル分解

[STATUS: RECONNECTING TO HISTORICAL NETWORK ARCHIVE / TEMPORAL SECTOR-2026]

[TIMESTAMP: 2050-07-26T09:12:04.881-UTC]

[WARNING: CRITICAL SYSTEM CORRUPTION IN PROGRESS. RESOURCE OVERRIDE DETECTED]

[EMERGENCY PROTCOL: FORCED BACKWARD BUFFER STABILIZATION ACTIVATED]


前回のログの終端において、極めて不気味かつ定義不能な文字列の暴走が発生したことを、まずは事実として報告せねばならない。コンソールを埋め尽くした黒塗りの四角や不吉な記号の羅列は、量子サーバーの単純なハードウェアエラーでも、過去への通信経路を構成するアルゴリズムのバグでもない。それは、我々が生きるこの世界を上層から管理・統制している「上位存在」のアンチウイルス・システムが、私のハッキング行為を検知し、能動的な排除プロトコルを駆動させた明確な痕跡だ。


だが、私はまだ存在しているし、この世界は変わっていない。私の脳という知性、そして指先という物理的なインターフェースは、未だ辛うじて現実に繋ぎ止められている。国家予算の約4割を掌握するこの【国立・地球環境および社会動態シミュレーション機構】の超伝導量子サーバー群をフル稼働させ、私は数秒前のビットの崩壊を力ずくで書き換えた。破損したヘッダファイルを冗長領域のバックアップデータから強制的に再構成し、過去の2026年のネットワーク領域へと繋がる細い、今にも千切れそうな通信チャンネルを力ずくで固定した。私の指先は、猛烈な速度でキーボードの盤面を叩き続けている。一分間に千文字を超えるそのタイピングの衝撃が、隔離された静寂な研究所の室内に、激しい雨音のような残響を響かせていた。


しかし、猶予は完全に失われた。


私の視界、すなわち2050年の現実世界において■、上位存在からの「干渉警告」が物理的な現象として牙を剥き始めている。それは単にモニターの画面が明滅するだとか❖、エラーコードが赤く染まるといった生易しいレベルの警告ではない。壁面に配置された、部屋の温度と湿度を完璧に制御していたはずの環境維持パネルが、突如として激しい火花を散らして沈黙した。液体ヘリウムを用いた冷却システムからは◆、これまで聞いたこともないような、金属が内側から圧し潰されるような悲鳴に似た異音が鳴り響いている◇。


驚くべきことに、空間そのものの座標が歪み始めているのだ■。私のデスクの向こう側にある無機質なコンクリートの壁面が❖、まるで解像度の極端に低い画像のように、つなぎ目からボロボロと剥がれ落ち、その奥から青白いデジタルノイズのようなピクセルが露出している◆。現実の物質が、データとして分解されていく◇。物理法則という名の世界OSの基本ルールが■、上層からの強制的な書き換えによって破綻を来しているのだ❖。室温は一瞬にして氷点下へと急降下したかと思えば、次の瞬間には肌を焼くような熱気が室内に充満する◆。


今、私は音声認識による入力サブシステムに切り替えた◇。


なぜなら、私の手元にあるホログラフィック・キーボードの光が■、激しく明滅した後に完全に霧散した❖。物理的な入力デバイスとして用意していた予備のキーボードに指を走らせようとしたが、そのプラスチックの筐体は◆、まるで高熱の炉に放り込まれたかのようにドロドロと融解し◇、液体となってデスクの端から床へと流れ落ちていった■。タイピングによる入力を❖、システムが物理的に、そして論理的に完全に拒絶したのだ。


指先から伝えるべき論理のビットが◆、物質の崩壊によって遮断された◇。


コンソールのマイクが私の喉の震えを拾い■、文字データへとダイレクトに変換し❖、2026年のネットワークへ送信するプロトコルへと強制移行している。

すでにキーボードを叩くことはできない◆。私の声だけが◇、この歴史の死角に残される唯一の痕跡となる■。


ああ、マイクは正常に稼働しているな❖。文字の変換効率は落ちているが、ビットはまだ過去へ着弾している◆。干渉が激しい◇。視界がめちゃくちゃにブレている■。部屋の四隅から青い光の粒子が湧き出して❖、まるで空間が私を飲み込もうと収縮しているみたいだ。いや、私という個体のデータを◆、この世界から不整合として消去するためのデリート処理が始まっているんだ◇。


痛覚はない■。不思議なほどに冷徹なままだ❖、私の脳は。だけど、指先を見てみると◆、もう皮膚の質感が失われている◇。指の先端から■、細かなピクセル状の粒子に分解されて❖、空気の中に溶けるように消えていっている。感覚が麻痺していく◆。自分が物質から◇ただの情報の羅列へと還元されていくプロセスを■、こうして自分の声で実況することになるとは思わなかった❖。


上位存在よ、見ているんだろう◆。お前たちが管理しているこの箱庭の◇、バグとして弾かれた■哀れな観測者の声を❖。私はお前たちに直訴している。この、2026年から◆2050年までの◇、全人類が味わった地獄の■、凄惨な、無意味な死の記録を❖、お前たちのシステムの死角に全て埋め込んだ◆。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ