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【完結】契約結婚の相手は最悪の騎士でした。不正解な結婚のはずが彼は全てを捨てて任務より私を取りました  作者: 猫燕


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35/100

35. 「厳罰に処せ」

 レオの言葉は鋭い刃となって、私の甘い考えを切り裂いていく。


「でも、彼が罪を犯した背景には、私たちの不備があるはずです!」

「背景など関係ない」

「関係あります!統治は人のためにあるのでしょう?その『人』の事情を無視して、何のための統治ですか」

「多くの人間を生かすためだ」

「その『多く』の中には、エドモンドだって含まれているはずよ!」

「ああ、含まれている。だからこそ、秩序を守り、彼らが真っ当に生きられる環境を維持することが最優先なんだ」

「今の彼に必要なのは秩序じゃない、食べ物です!」

「だから配給を正す。それは別の話だと言っている」

「別の話ではありません!」


 気づけば、私の声は荒くなっていた。


「エドモンドが盗んだのは、配給が届かなかったから。体制を正せば、彼が罪を重ねる理由も消えるんです。根本を直さずに罰だけを与えるのは、ただの責任転嫁ではありませんか」

「根本を直すのは当然だ」


 レオが声を一段低くした。


「だが、犯した罪への落とし前は別途必要だ。改善と処分。その二つは車輪の両輪だ。片方だけでは前に進まん」

「処分の内容次第では、彼は立ち直れなくなる……」

「厳罰に処せと言っているわけじゃない」

「でも――」

「お前は今、処分そのものを回避しようとしているな」


 ぴたりと、言葉が止まる。

 レオの灰色の瞳が、私の内側を見透かすように射抜いてきた。


「お前が議論しているのは、処分の『重さ』なのか?それとも処分の『有無』なのか?どちらだ」


 答えに窮した。

 自分でも整理がついていない。彼の罪を軽くしたいのか、それとも無かったことにしたいのか。

 その境界線が、泥沼のように濁って混ざり合っている。


「……重さを、議論したいのだと思います」

「なら理由を言え。なぜ彼を軽く扱うべきなのか」

「動機が切実な生活苦であったこと。そして、私たちの側に正当な不備があったこと。悪意ではなかったこと……」

「事情は認める。だが、理由があれば何をしても許されるのか?」


 部屋が、しんと静まり返る。

 レオの問いが、呪いのように空気の中を漂った。

 理由があれば、奪ってもいいのか。


「違います。そんなことを言いたいのではありません」

「では何を言いたい」

「彼は、助けを求めていただけなんです!」


 自分でも驚くほどの叫びが、部屋に響き渡った。


「エドモンドは正しく助けを求め、そして拒絶された。だから、正しくない道を選ばざるを得なかった。彼を追い詰めたのは、他ならぬ私たちなのよ。その責任を棚に上げて、彼一人を悪者にするなんて……」

「……だったら、助けられる仕組みをさっさと作れ。それができないなら、切るしかない」

「切る、だなんて」

「明確な処分を下して線を引く。その上で仕組みを整える。それが手順だ」

「順番が逆です。人を守るのが先でしょう」

「枠組みがなければ、守れるものも守れなくなる」

「目の前の人間を無視して、何が全体よ!」


 どちらも一歩も引かない。

 揺れる三本の火影が、私たちの間で激しく踊っている。


「処分なしで、誰が納得する?領民すべてを納得させる答えなど、この世には存在しない」

「だからこそ、寄り添うべきなんです」

「綺麗事だな」

「……そうかもしれません。でも、それを捨てたら領主に何が残るというの?」

「結果だ」

「その結果の中に、心はあるのですか?」

「生きているならそれでいい」

「生きているだけでは足りない時だってあるわ!」

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