35. 「厳罰に処せ」
レオの言葉は鋭い刃となって、私の甘い考えを切り裂いていく。
「でも、彼が罪を犯した背景には、私たちの不備があるはずです!」
「背景など関係ない」
「関係あります!統治は人のためにあるのでしょう?その『人』の事情を無視して、何のための統治ですか」
「多くの人間を生かすためだ」
「その『多く』の中には、エドモンドだって含まれているはずよ!」
「ああ、含まれている。だからこそ、秩序を守り、彼らが真っ当に生きられる環境を維持することが最優先なんだ」
「今の彼に必要なのは秩序じゃない、食べ物です!」
「だから配給を正す。それは別の話だと言っている」
「別の話ではありません!」
気づけば、私の声は荒くなっていた。
「エドモンドが盗んだのは、配給が届かなかったから。体制を正せば、彼が罪を重ねる理由も消えるんです。根本を直さずに罰だけを与えるのは、ただの責任転嫁ではありませんか」
「根本を直すのは当然だ」
レオが声を一段低くした。
「だが、犯した罪への落とし前は別途必要だ。改善と処分。その二つは車輪の両輪だ。片方だけでは前に進まん」
「処分の内容次第では、彼は立ち直れなくなる……」
「厳罰に処せと言っているわけじゃない」
「でも――」
「お前は今、処分そのものを回避しようとしているな」
ぴたりと、言葉が止まる。
レオの灰色の瞳が、私の内側を見透かすように射抜いてきた。
「お前が議論しているのは、処分の『重さ』なのか?それとも処分の『有無』なのか?どちらだ」
答えに窮した。
自分でも整理がついていない。彼の罪を軽くしたいのか、それとも無かったことにしたいのか。
その境界線が、泥沼のように濁って混ざり合っている。
「……重さを、議論したいのだと思います」
「なら理由を言え。なぜ彼を軽く扱うべきなのか」
「動機が切実な生活苦であったこと。そして、私たちの側に正当な不備があったこと。悪意ではなかったこと……」
「事情は認める。だが、理由があれば何をしても許されるのか?」
部屋が、しんと静まり返る。
レオの問いが、呪いのように空気の中を漂った。
理由があれば、奪ってもいいのか。
「違います。そんなことを言いたいのではありません」
「では何を言いたい」
「彼は、助けを求めていただけなんです!」
自分でも驚くほどの叫びが、部屋に響き渡った。
「エドモンドは正しく助けを求め、そして拒絶された。だから、正しくない道を選ばざるを得なかった。彼を追い詰めたのは、他ならぬ私たちなのよ。その責任を棚に上げて、彼一人を悪者にするなんて……」
「……だったら、助けられる仕組みをさっさと作れ。それができないなら、切るしかない」
「切る、だなんて」
「明確な処分を下して線を引く。その上で仕組みを整える。それが手順だ」
「順番が逆です。人を守るのが先でしょう」
「枠組みがなければ、守れるものも守れなくなる」
「目の前の人間を無視して、何が全体よ!」
どちらも一歩も引かない。
揺れる三本の火影が、私たちの間で激しく踊っている。
「処分なしで、誰が納得する?領民すべてを納得させる答えなど、この世には存在しない」
「だからこそ、寄り添うべきなんです」
「綺麗事だな」
「……そうかもしれません。でも、それを捨てたら領主に何が残るというの?」
「結果だ」
「その結果の中に、心はあるのですか?」
「生きているならそれでいい」
「生きているだけでは足りない時だってあるわ!」




