表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢と冷徹騎士の契約結婚 ~正しさを捨てて、あなたを選びます~  作者: 猫燕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

33. 「食料を抜き」

 怒りではない。

 ただ、どうしようもなく分からなかった。言ってくれれば、私は全力で動いた。救おうとした。

 なのに。


「……クラリス様は、あまりにも多くの重荷を背負っていらっしゃいましたから」


 エドモンドが目を伏せる。


「これ以上、あなたに迷惑をかけたくなかったのです」

「迷惑だなんて、そんなこと……!」

「ですが」

「迷惑では、ないのです!」


 感情に任せて声が上ずった。

 エドモンドはただ、深く頭を下げた。

 責められなかった。彼が犯した罪は、紛れもない裏切りだ。

 だけど、その理由が『私の不甲斐なさ』にあるのだとしたら。彼が絶望した仕組みを放置していたのが、私なのだとしたら。


「待て」


 レオの声が、思考の渦を止めた。

 彼は私をじっと見つめていた。その瞳は、何かを計算しているのではなく、ただ静かに私の動揺を見守っているようだった。


「一度、席を外せ」

「……え?」

「感情が濁っている状態で判断をするな。一度頭を冷やして、落ち着いてから戻ってこい」

「でも、私が――」

「エドモンドの話は俺が引き継ぐ。後ですべて共有してやる」


 レオの言葉は、命令ではなかった。

 今の私にはこの場が毒であることを、彼は瞬時に見抜いたのだ。


「……分かりました」


 私は一歩、後ずさる。エドモンドの顔をもう一度見て、


「後で……またお話ししましょう」


 それだけを告げた。

 逃げるようにその場を離れ、屋敷の裏庭へと向かった。冬枯れた低木の向こうに、古い石壁がそびえ立っている。

 壁に手をつくと、ざらりとした冷たい感触が手のひらに伝わってきた。

 頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 エドモンドがやったことは、許されることではない。

 けれど、彼が申告を諦めるに至った経緯を作ったのは、この領地の『過去』であり、それを変えられなかった『現在』の私だ。


『お優しい方だと分かっていたから』


 その言葉が、耳の奥で呪文のように反響する。優しさが、法を無視する言い訳にされた。私の甘さが、領民を『犯罪者』に仕立て上げてしまった。

 石壁から手を離すと、手のひらに赤い跡がついていた。

 見上げれば、冬には珍しいほどの雲一つない青空。こんな日に限って、太陽は残酷なほどに輝いている。

 不意に、少しだけ笑いたくなった。


「ここに居たか」


 背後からかけられた声に振り返る。

 裏庭の入り口に、レオが立っていた。


「終わったのですか」

「ああ」

「……エドモンドは」

「今はカルに預けてある」


 レオは私に歩み寄り、隣に並んだ。


「話をすべて聞いた。配給の途中で食料を抜き、三ヶ月にわたって近隣の困窮者に配っていた。量は微々たるものだが、事実だ」

「三ヶ月。……そんなに長い間」

「ああ。誰にも、お前にも言わずにだ」

「理由は、心配をかけたくなかったから、ですか?」

「それもそうだが、お前に言えば、お前が自分の食事を削ってまで彼らに与えるだろうと……そう言っていた」


 どこまでも、私の『甘さ』を見抜かれていたのだ。


「……彼を、処分すべきだと思いますか」

「必要だ」


 レオが断言する。


「だが、方法は一つじゃない」

「どういうことでしょう」

「統治において、厳罰が常に最善とは限らない。目的は領民を怯えさせることではなく、二度と同じことを起こさせないことだ。今の状況下で、彼をどう扱うべきか――」


 レオが私を真っ直ぐに見据えた。


「俺の判断だけで決めるべき話ではない、と言っている」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ