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第25話 晴れ男の出陣

 一方のサンディ国では、以前のように晴れの日ばかりが続くようになった。

 加えてアメリア国が大雨による被害で水の運搬・輸出が不可能となり、サンディ国は以前よりも深刻な水不足に陥っている。



 起床したヘリオスはベッドから下りると、上半身が裸のままで窓の前に立つ。カーテンを少し開けると晴天の朝日が眩しくて目を細める。

 決して清々しい朝ではない。雨と水が足らずに枯渇した国の王であるヘリオスは、焦りによって心までが枯渇していく。


(兄貴が帰国したから雨が降らないのか? それともレイニルちゃんがいないから?)


 やっと王位を手にしたヘリオスは決して自分に原因があるとは疑わない。

 水不足を解消する方法を考えた時に、晴れ男のシャインを追放するか、雨女のレイニルを連れ戻すかの二択の考えしか浮かばない。

 その時、ふと腕の素肌に温かく触れてくる感触に気付いて横を見る。いつの間にか隣にいたローサが頬を触れさせていた。


「……もう、ヘリオスったら。ちっとも幸せそうな顔をしてませんわ」


 ローサは雑に下着を身に着けただけの格好で頬を膨らませている。両思いになって幸せな夜を過ごしても、朝になるとヘリオスの顔が沈むからだ。

 まるで夜にも満足してないように感じて、ローサまで気持ちが沈んでしまう。乱れた金色の長い髪をかきあげると、わざとらしく顔を背ける。


「そんな事ないって、オレは幸せだぜ! ほらローサ、こっち向けよ。おはようのキス」


 そう言って無理に笑って口付けてくるヘリオスを見るのは余計に辛い。唇を離すと途端にヘリオスの思考も離れて別の所へ向いてしまう。


「なぁ。やっぱりレイニルちゃんを取り戻そう。兄貴が取り戻せないならオレが……」


 その言葉を聞いたローサの青い瞳が見開かれる。ヘリオスが国のために雨を降らそうとしている意図は理解している。

 本当は優しいヘリオスが、シャインを追放するという選択肢を選ばないという事も。それでもローサの感情がそれを許さない。


「そんな必要はないですわ! ヘリオスはまだ雨女に未練がありますの!?」


 気付けば怒声と懇願が混じった声で涙目になっていた。ローサにしてみればヘリオスの提案は屈辱でしかない。

 ローサとレイニルの姉妹は容姿が似ている。そっくりな妹と見比べられるのが、ヘリオスがレイニルを必要とするのが悔しいと思ってしまう。

 ヘリオスを本気で愛した今だからこそ生まれた嫉妬という辛さ。どうしたらいいのかローサ自身も分からない。

 ……だからこそ、禁断の言葉を口にしてしまう。


「ヘリオスは私と国のどっちが大切なんですの!?」


 ローサの問いかけは、王としてのヘリオスにとっては残酷な選択肢だった。男としてなら確実にローサだと答える。

 これに即答できないという事が、ヘリオスの王としての器を示す答え。

 間もなく二人は、その残酷な現実を目にする事になる。



 着替えを終えたヘリオスとローサが同時に部屋を出ると、廊下では側近の男性が待っていた。


「ヘリオス様! つい先ほど、軍がアメリア国に向けて出兵いたしました」

「なんだと? オレはそんな命令は下してねぇよ!」

「ですが、隊長命令だとか……」


 それを聞いたローサが不安げにヘリオスの顔を見る。


「もしかして、それってシャイン様ではなくて?」

「兄貴か! ありえるな、何考えてんだ! アメリア国と戦争でもする気か?」


 シャインが軍隊に入隊したとは聞いていたが、王位を退いたシャインの仕事に口出しはせずに放置していた。

 このタイミングでの出撃といえばシャインの目的は明確。レイニルを力ずくで奪い取りに行くとしか思えない。


(武力行使とは、兄貴らしくねぇな……)


 そんな違和感を覚えるが、国王ではないシャインには背負うものがない。国よりもレイニルを優先して感情のままに動ける。

 ある意味、今がシャインにとって一番自由で最強、無双状態と言えるのが恐ろしい。


「追いかければ、まだ間に合いますわ。行きましょう」

「あぁ。国王が誰なのかを思い知らせてやる!」


 ローサに背中を押されたヘリオスは、ついにシャインと衝突する覚悟を決める。



 その頃、シャイン隊長率いるサンディ国軍の軍隊は城下町の道の真ん中を堂々と闊歩していた。

 それは戦の騎馬ではなく、人を運ぶ馬車でもない。兵士が乗る馬が引いているのは荷台で、大きな木製の樽を大量に積み上げて運んでいる。中身は空なので軽い。

 何も事情を知らない一般市民や通行人は驚き戸惑いながらも端に寄って軍隊が通るための道を開ける。


「何事だ? 戦争が始まるのか?」

「先頭で指揮していらっしゃるのはヘリオス様?」

「ヘリオス様が王位に就いてから水不足が深刻化したというのに、こんな時に戦だなんて……」


 ヘリオスを支持していたはずの国民は口々に不満を吐き出す。国王が裏で努力しようが頭を悩ませようが、国民は目に見える結果しか認めない。

 今のシャインは黒い軍服を着ているが、ヘリオスとは双子ゆえに遠目で見ただけでは判別できずに勘違いされてしまう。

 先頭を進むシャインは、そんな国民の声を聞く度に馬を止めて言葉を返していく。


「オレはヘリオスじゃない、シャインだ。それに戦ではない、今からアメリア国に行って水を調達してくる」

「なんと、シャイン様でしたか!」

「シャイン様、ありがとうございます! みんな道を開けろ!!」


 水不足のサンディ国では炊事、洗濯、風呂などの生活用水を限界まで節水していて生活に支障が出ている。

 シャインとしては国を救う目的もあるが、アメリア国に入国するための正当な理由にもなる。まさに一石二鳥。

 国王の器を持つシャインは、愛する女性と国を天秤にかけるのではない。両方とも合理的に手に入れる男である。

 全軍が足を止めている最中に、シャインの後方から新たな馬の蹄の音が近付いてきた。


「兄貴! 何考えてんだよ!!」


 シャインの横に付けて止まった馬の上にはヘリオス、その後ろにはローサも乗っている。道路にはシャインの軍隊の馬が連なっているため馬車では通れなかったのだ。

 シャインは馬から降りると堂々と腕を組んで馬上のヘリオスを見上げる。隊長シャインと国王ヘリオス、見事な下克上の図である。


「見ての通りだ、ヘリオスよ。アメリア国に行って水とレイニルを持ち帰ってくる」


 売られた喧嘩を買うかのようにヘリオスとローサも馬から降りる。これでシャインと同じ目線と土俵に立った。


「バカか!? アメリア国は水害で水が輸出できない状態なんだぞ!?」

「向こうが来れないなら、こっちが行けばいい。お前が動かないならオレが動くまでだ」


 不敵に笑うシャインに同調した市民からは『そうだ、そうだ!』という同意の声が飛び交う。すでに国民の支持はシャインに傾いている。

 危険を顧みずに自らで即行動、それを隠さずに国民の目に曝す事で示す。それこそがシャインの国王としての在り方だった。


「いくら兄貴でも危険だって言ってんだよ!」

「ふっ、オレを誰だと思っている? 晴れ男だぞ」


 それを聞いたローサはシャインの思惑に気付いた。シャインは自らの能力でアメリア国をも救おうとしている。その途方もない考えには畏怖さえ感じる。

 周囲で見守る国民はシャインしか見ていない。空気も主役すらも変えてしまうシャインの能力こそが、晴れ男の脅威かもしれない。


(シャイン様には誰も勝てないのかもしれないですわ)


 それでもローサはヘリオスの味方であり続ける覚悟がある。国民の不満や批判なんて怖くない。ただ黙ってヘリオスを見守り続ける。

 シャインは馬車の荷台から二本の木の棒を取り出す。それは軍事訓練にも使われる木刀だった。その一本をヘリオスに向けて差し出す。


「ちょうどいい。ヘリオス、勝負だ。国王に相応しいのは誰か、国民の前で見せてやろうではないか」


 シャインが戦うべき相手は、アメリア国ではなく双子の弟・ヘリオス。

 国民の信頼を取り戻しつつあるシャインは、力の勝負でもヘリオスを打ち負かそうとしていた。

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