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第24話 晴れと雨の暴走

 堂々と隊長を名乗ったシャインは、少し屈むと地面に座り込んだままのヒナタに手を差し出す。


「悪かったな。怪我はないか?」

「はい……」


 模擬試合の後に紳士的な態度で気遣うシャインにヒナタは頬を赤らめている。

 今まで試合でヒナタに勝った軍人はいなかったが、勝負で負けた時にヒナタが感じたのは悔しさよりも憧れだった。

 国王ではなくても殿下であるシャインの命令ならば隊長の座は黙って譲る。だがシャインは顔を隠して正当な勝負を挑んで勝ち取った。


(シャイン様こそが、国王であるべきお方……)


 憧れ以上の感情を抱き始めたヒナタはシャインの手を取ると立ち上がる。

 ヒナタは長身のシャインを見上げる事なく頭を下げる。それに倣って周囲の兵士たちも次々と集まってシャインの前で敬礼をする。


「シャイン様。国民はヘリオス様を支持しておりますが、シャイン様こそが国王に相応しいと思っております」

「ヒナタ隊長の言う通りです! 我々はシャイン様に従います」


 シャインの強さを知る軍人たちが彼を支持するのは当然だった。それにシャインは国王でありながらも日常的に軍事訓練に参加していた。


「ふっ、当然だろう。だがヘリオスの前で言うなよ。謀反になるぞ」


 シャインは冗談交じりで笑って返すが、これこそがヘリオスが見えていない現実でもあった。

 一時の国民の支持だけで成り上がったヘリオスの王権が長続きするとは思えない。人との絆や経験、積み上げてきたものの数が違う。

 しかしヒナタにはシャインの意図の他にも疑問が多くある。シャインの10日以上の不在は、理由を明かさなかったために国民の不信にも繋がった。


「シャイン様は今までどちらに行かれていたのですか? レイニル様もご一緒だったのですよね?」

「あぁ、その事なのだが。レイニルを取り戻しにアメリア国に行ってたのだが、オレだけ強制送還された」

「え!? 単身で乗り込まれたのですか!」


 ヒナタはレイニルがアメリア国に不当に連れ去られたと解釈する。本当はレイニルが母国のアメリア国に自主的に帰国した形なのだが。

 もはやシャインを信仰・崇拝している他の兵士たちも自然と同じ解釈をしていた。シャインを神格として崇めるヒナタは自己解釈が止まらない。


「水を輸出している立場だからって思い上がって、許せません! 我々の手でレイニル様をお救いしましょう!」 

「あぁ、そのつもりで今後はオレが隊長、ヒナタは副隊長だ」

「承知しました! いつでも出兵できます!」


 ヒナタと兵士たちは声を合わせて敬礼をする。

 他人の解釈がどうであれ、シャインは戦争を起こす気なんてない。だが王でなくなった今、アメリア国に行くための正当な方法と肩書きが必要だった。

 そう……これは、あくまでシャインの考える『正当な方法』なのであった。




 それから数日間、アメリア国では大雨が続いた。シャインが帰国したからなのか、レイニルの悲しみの涙なのか。

 レイニルはその日も薄暗い自室で窓の外を眺めているだけ。出るのはため息ではなく、雨と連動するかのように瞳から流れ出る涙だけ。


(どうしよう……このままじゃ……でも涙が止まらない)


 窓の外の雨粒の激しさを見るだけでも、この雨が災害級である事が予想できる。悲しみによって効力を増す雨女の能力は、やっぱり呪いとしか思えない。

 泣き止めば雨も弱まるのかもしれない。だがシャインの事を考えてしまうと感情が抑えられない。


(雨も感情もコントロールできない私は、役立たずどころか有害……どうしたらいいの?)


 自虐的なレイニルの問いかけに答えるように部屋の入り口のドアが開いた。ノックもせずに入る人物は一人しかいない。

 ヴェルクは部屋に入るなり早足で窓際のレイニルに近付いてきて足を止める。


「レイニル様、また泣いているのですね。見ての通り、連日の大雨が洪水などの被害をもたらしています」

「そんなに……」


 ヴェルクは無情にもレイニルの感情よりも雨と国に重点を置いている。レイニルもまた、被害の大きさを知って言葉と胸が詰まる。

 

「婚礼よりも先にレイニル様の能力を調節する必要があります。来てください」

「え? い……いや! いやです!」


 今度こそ夜伽の強要だと思ったレイニルは窓に背中を付けて顔を横に振る。そこまで拒絶をされてはヴェルクも男として格好がつかない。

 ヴェルクは少し困った顔をして穏やかな声で発言を訂正する。


「あぁ、違いますよ。少しの間だけ別の部屋に移動してもらうだけです」

「別の部屋……?」

「今は結婚の話どころじゃないですからね。ゆっくり時間をかけましょう」


 急がないのは余裕の表れでもあるが、時間がかかっても自分を受け入れてほしいとも取れる発言。ヴェルクは恋愛に関しても堅実なのかもしれない。

 しかしヴェルクに優しく手を引かれて連れて行かれた場所は、城の外にある階段を下った先。つまり地下牢だった。

 レイニルは再び地下牢に幽閉されてしまった。


(……私、また地下牢で暮らすんだ……)


 雨雲に覆われた外よりも暗い地下の牢獄に閉じ込められたレイニルだが、それほど落胆はない。もう地下牢には慣れている。

 これは大雨が弱まるまでの一時的な処置だが、これでは実家の地下牢で暮らしていた頃と変わらない。


(私はどこへ行こうと、地下にしかいられない運命なのね)


 そう思うと余計に涙が滲んでくるのは、なぜなのか。地下牢が辛い訳ではない。今のレイニルはもう以前とは違う。

 一度でも地上に連れ出されて愛を教え込まれたレイニルの心と体は、どうしてもシャインという名の幸せを求めてしまう。

 雨雲の暗い空しか知らずに生きてきたレイニルは、明るくて眩しい太陽に照らされる幸せを知ってしまった。


(シャイン、お願い。何度でも私を連れ出して……愛してる)


 空が繋がっているのなら、この願いは雲に乗って遠い地のシャインに届くはず。

 遠い地上で降り続ける豪雨の雨音が響く牢の中で、レイニルは悲しみの涙を願いに変えてシャインの元へと降り注ぐように祈る。

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