67.意味のない時間
「わたしがいま、死んだら、どうなります?」
「トウコ」
カナタがわたしの名前を呼んだが、わたしは少女から目を離さなかった。
少女はすぐに答えた。
「私とカナタが逃亡者を捕らえる。そうして、我々はテリトリーに帰る。それだけだ」
「わたしは行方不明ということで処理される?」
「もし望むのなら、どうとでもしてやろう。他の人間の記憶を書き換えてもかまわない」
「伝説の小説家として、惜しまれつつ逝った、ということも可能?」
「お前の望みがそうなら、そうしてやろう」
ランプの魔人との問答のようになってきたな、と場違いなことを考える。
そこまで聞いておいて何だが、わたしの答えは決まっていた。
「それで、お前はどうしたいのだ」
「魅力的な提案もありましたが、やっぱり、死ぬのは嫌ですね」
彼女はじっとわたしを見つめて、それからカナタへ目を向けた。
「これで、三つの意見が出たわけだが、私の案とお前たちの案は、明確に対立している。私は中山トウコを殺すという。お前たちはいずれも、それを望んでいない。だが先ほども言ったように、私はここで決断を下す。私の案を採用するかどうかは、ここで決める」
わたしとカナタは目を見合わせた。その後で、わたしは彼女にたずねた。
「どうやって?」
彼女は表情を変えずに言った。
「……きゅ、みゅ、りゅ、……この体では言いづらいな」そうして、彼女は、わたしにはどう言ったかわからない、小さな虫の羽音にも似た、聞き取れない謎の音声を発した。「 で、決めよう」
カナタは、その言葉に驚いたようだった。
「本当に、それで、いいんですか」
「争いごとを収めるには、そう珍しい解決方法ではないだろう」
「でも、こういう場で用いるのは、あまり聞きませんが」
「構わない。どうせ、どの方法をとろうともいずれ我々は逃亡者を捕まえるのだ。私が疑問を呈していたのは、お前が何の行動もせず、ただ対象と共に意味もなく時間を過ごしていたことだ」
そう言われて、カナタは苦笑いをした。
彼らの会話はよくわからなかったが、その笑顔を見て、わたしは安心した。
何だか話はいい方に転がっているらしい。




