49.相沢さんはイケメンに驚く
十字路を抜け、流れる人の密度が減った後で不意に、わたしに横から声がかけられた。
「中山先生、ですよね」
驚いてそちらへ目を向けると、そこには普段とそう変わらない格好をした相沢さんが歩いていた。
ただし黒いサングラスをかけている。
にやりと笑い、ちらりとサングラスを持ち上げて目を見せると、彼女は言った。
「私です、相沢です」
「いや、わかります」
「そうですか? まあ、サングラスをしただけですからね。でも中山先生、なかなか気合い入ってるじゃないですか。それともお休みの日はいつもそういうファッションなんですか」
「違います。いつも相沢さんが見てるような格好ですよ。今日は、ちょっとその、ばれないように」
「そうなんですか? よく似合ってるのに」
「実はこれ、はじめて着たんです。わたしがこんなの着て、おかしくないですか?」
「全然おかしくないです。普段からそういうの、試してみればいいんですよ。いつも着ている服もいいですけど、たまには気分を変えてですね、冒険してみるのも一つの手です」
こそこそとそんな会話をしながら、わたしたちは並んで歩く。
やがてわたしから目を話し、前方に目を向けながら、相沢さんが言った。
「で、中山先生の彼氏っていうのは、あれですか?」
相沢さんがあごをしゃくるようにして、カナタを指し示す。
戸惑いながらも、わたしが大きくうなずいて見せると、彼女はちょっと目を細めて言った。
「ピュアな中山先生の気持ちをもてあそぶなんて、不届きなやつ。だけど……」彼女は何度か瞬きをして、それから言った。「さっきすれ違うとき、ちらっと見ただけですが……彼、ちょっとびっくりするぐらいイケメンじゃないですか」
「そうですかね」
「そうですよ。どこであんな逸材を発見したんですか」
車で走っていたら道ばたでひいたのだ、とは言えなかった。
ちょっと偶然知り合って、と言うに留めた。
「まあその話はあとで詳しく聞きましょう。ともあれ、中山先生、残念ですが、かなりの確率で彼、やってますね」
「何をですか」
「先生の心配しているようなことを、です。あんなイケメン、そうそう放っておかれませんよ。ああいうのはね、捕まえただけじゃだめなんです。首根っこをつかんで、しっかり教育しておかないと。ところで、先生」
相沢さんは目を輝かせながら話を続ける。
この作戦のことを言い出したのはわたしだけれど、それにかける熱意は彼女の方が高いようだった。
普段の仕事のときには見たことのない勢いで、彼女は私に指摘した。
「現場を押さえたとして、どうするつもりです? 彼と別れる気ですか? それとも、もうその女と会うなと迫る? どっちが好きかと選ばせる? そのあたり、はっきりしておかないと、いざというとき判断に困りますよ」
判断。
確かに、わたしはそのときのことを決めていなかった。
その後、カナタが家に帰ってきたときなら、彼に別れを告げ、出て行けと言えばそれでいい。
ただ、その現場では、どうするべきだろうか。
わたしはこの作戦で、カナタが本当は何をしているのかを知りたかっただけだった。
ならば今日、実際に、あの少女とカナタが再び出会っているのを見つけたとき、そのときわたしはどうすればいいのだろう。
「先生は、どうしたいんです?」
そう聞かれて、わたしは曖昧に首を傾けた。
相沢さんがじっとわたしを見て、ふう、と息を吐き、ちゃんと決めておいてくださいね、と小さく言った。




