48.ある疑い
わたしはカナタの外出に、ある疑いをかけていた。
ひょっとすると、用事があるといっている三日間のうちに、例の少女とまた会うつもりなんじゃないだろうか。
昨日と同じように。
わたしの知らないうちに、ちょくちょく彼らは会っており、少女と親しくなった結果、カナタの二重生活に限界が生じたんじゃないだろうか。
そう仮定すると、カナタの今朝の説明は、違う意味にもとれる。
カナタがわたしの家から離れるのは、すでに親しくなってしまった、あの少女と暮らすため。
あるいは彼の方から、少女にその話を提案するのかもしれない。
もし少女が、ともに暮らすことを了承してくれたら、わたしにはどうしても行かなければならなくなった、と嘘をつく。
彼は、そんな、とんでもないことをしているのではないか。
そのとんでもないことをしているかもしれないカナタは、いま、わたしの約二十メートル前を歩いている。
わたしたちはある都内の駅を降り、前進をしていた。
カナタがどこに行くかはわからない。が、今のところ特に急ぐ様子はない。
電車での移動の際、わたしはカナタの隣の車両に乗り込んだ。
それなりに混んではいたが、何とかカナタの様子をうかがえる、優先席に陣取ることができた。
カナタが席を立ったのは、一時間近く電車に乗った後のことだった。
そしてカナタが降りた駅の名前を確認したとき、わたしは自分の慧眼さに驚くと共に、カナタへの疑いが胸の中に満ちてきたのを感じた。
カナタが降りた駅は、カナタがあのセーラー服の見知らぬ少女と行動を共にしていた交差点の最寄り駅だった。
今度はあのときのように、悲しくも、つらくもならなかった。
ほらな、というどこか意地の悪い感情と、カナタへのいらだたしさを感じた。
だからこそ、今度はそこから先を確かめてみようという気持ちになっていた。
改札へ向かうエスカレーターに乗りながら、わたしは相沢さんに連絡をとった。
予想通りその店の最寄りの駅に降りたので、駅へ向かって歩いてきて欲しい。そのうちわたしが近くを通りかかるはずなので、合流しよう、と手早く文字を打った。
返事は数秒で来た。了解です、と書かれていた。
カナタとこれからについて会話をした、あの午前中のうちに、わたしは相沢さんにパソコンでメールを打っていた。
その内容は、わずかな真実を、嘘で練り固めたものになっていた。
わたしの職業が作家のせいか、あるいはそもそもわたしは嘘が得意なのか、それとも相沢さんがその編集者という職業のせいでフィクションの世界に触れすぎて麻痺しているのか、理由はわからなかったが、彼女はどうやらわたしのそのメールの設定を信じてくれたらしい。
こんなメールをわたしは書いた。
相沢さんに相談がある。というのも、相沢さんから見抜かれてしまっていたように、わたしには最近彼氏が出来た。
だがその彼氏は遊び人で、どうも他にも会っている人がいるらしい。
その彼が今日の午前中から外出をするという。
どこに行くか聞いてもはぐらかされるので、わたしは隠れて尾行をするつもりだが、彼が女と合流した後は、一人では尾行しきれないかもしれない。
仕事があるのはわかっているが、可能ならば、担当作家の取材につきあうと思って、その尾行を手伝って欲しい。
そんな内容だった。
相沢さんを巻き込んだのは、人手の問題、つまり実際に彼女の手伝いが必要かもしれないと思ったのもあるが、それ以上に、彼女に相談したいというのもあった。
これまで、わたしは仕事以外に他人と接する経験がほとんどなかった。
学生時代から一人でいることが多く、そのために人との関係がこじれたことがなかった。
だからこそ、いま、客観的な視点が欲しかった。
今日、もしもカナタを見失った場合でも、相沢さんに嘘を基調としつつ、真実をまぜた相談をして、今のわたしがすべきことについて、アドバイスをもらうつもりだった。
その相沢さんにわたしは、昨日一緒に食事をした店の近くで待っていて欲しいと、メールで依頼をしていた。
場所を絞り込んだのはわけがある。
わたしの家の周囲以外でカナタを見たのが、この駅の付近で、あの少女と共にいるときしかなかったからだった。
人の込み合う駅からの直線道路でも、カナタのことは見失わなかった。
やはり頭一つ抜きでていて、探しやすい。
逆にわたしは、女性としては平均身長程度である。人に紛れて見つかりづらい。
そうであってくれることを期待した。




