46.相沢さんはメールに返事をする
カナタとの話を終えると、わたしは一度、すぐに自室に戻った。
準備は間に合うだろうか。
カナタは午前中のうちにまた、家を出ると言っていた。
だとすると、家にいるのは長くてもあと二時間ぐらい。
わたしは若干慌てながら、相沢さんに送るメールを素早く打ち込む。
その後に台所へ戻る。
カナタはまだ居間でテレビを見ている。
つい先ほど、わたしたちの生活に関わる大きな話をしたばかりだ。
だが今の彼に普段と変わった様子はあまりない。
その背中をじっと見つめる。カナタがわたしに気づくことはない。
それからわたしは居間に入ってカナタと話をした。
いつもどおりすぐにテレビを消そうとするカナタに、そのままでいい、と伝え、彼と並んで画面を見る。
わたしの知らない芸能人が出るたびに、あれは誰、とたずねて名前を聞く。
それもこれも、カナタをすぐには出かけさせないためだった。
わたしの作戦はすでにはじまっている。
それでも、午前十一時を回ったころ、カナタはテレビを消し、立ち上がった。
「じゃあまた、三日後の夕方に」
彼はそう言い残して、軽く手を挙げて玄関から出ていった。
わたしはすぐに自室に帰ってパソコンを開いた。
メールを確認すると、相沢さんからのメッセージが届いていた。
(作戦については了解しました。所定の位置に着き次第、スマホに連絡いたします)
そんな風に、なぜか固い文章で書かれていた。
それからわたしは、外出するための服装を選んだ。
普段わたしが選んでいる服は、自分でも正直なところ、おしゃれからかけ離れているものである。
春なら長袖、あるいは七分袖のTシャツに、下にジーンズを履くだけだ。
だけど今日はいつもとは格好を変える必要がある。
服装を変えたところで、それがカナタに通じるかどうかはわからなかったけれども、彼も人間社会になじんでずいぶん時間が経つ。
普段からあの、制約があるかどうかすらわからない宇宙人的パワーを用いて、周囲を感知している、なんてことはなさそうに思えた。
つい先ほどもカナタは、背中に向けていた視線に気づかなかった。
つまり彼が出来るのは視認だけで、ならばわたしの変装は、有効に機能するように思えた。
押入の隅に眠っていた、いつか母がわたしにプレゼントとして買ってきたロングスカートを選んだ。
一度か二度しか身につけたことのないそれは、わたしでも許容出来る程度の丈の長さで、茶色をしており地味である。
それに白いシャツを合わせる。
こちらはネット通販で買ったものであり、わたしがよく確認していなかったせいで、滅多に着ないものとなっていた。
画像では気づかなかったが、首回りには可愛らしいフリルがついており、とてもわたしには着ることが出来なかった。
服をあわせてみてから、鏡に自分の姿を映す。
似合っているか、そうでないのかわからない。
わたしにはそれを判断するための経験が圧倒的にかけていた。
この姿を見て相沢さんはどう思うのだろう。
しかし、目的はわたしらしくない格好をすることなのだから、その本気度をくみ取ってもらえて好都合かもしれない。
最後にわたしは帽子を選んだ。
こちらも普段は決して着用しないものだけれど、小説の資料用に、一通りの種類をそろえていた。
本当はつばの長い、キャップタイプのものがよかったが、赤い色のものしかなく、目立ちすぎるように思えた。
仕方がなく、スカートの色に合わせた、ベージュのベレー帽を選んだ。
帽子に頭を収め、外出用のバッグを肩にかけると、わたしは家を出た。




