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45/72

45.嘘

 カナタは、まっすぐにわたしを見据えていた。

 予想もしなかったその言葉に、わたしはどう返事をしていいかわからなかった。


「……だから、実際のところ、ここで君と暮らしている理由は、もうないんだ。君から出て行けと言われれば、ぼくは出ていく。だけど、君にそう言われるのが怖くて、このことはずっと黙っていた。すまない」


 彼はそう言って、小さく頭を下げた。

 それから、顔を上げ、言葉を継いだ。


「だから、君はもう、あのことについて申し訳ないと思うことは何もない。むしろ、そう思わなければならないのは、ぼくの方だ。君に嘘をついていたんだから」


 嘘。


 その言葉が、頭の中に引っかかった。

 カナタがいま認めて、わたしに謝った嘘は、わたしにとっては何の問題もない。

 言ってくれなかったのは寂しかったけれど、例えそう告げられていたとしても、わたしはカナタにこの家に残ってくれるよう、話をしただろう。

 だから、その嘘をついてようといまいと、その結果は変わらない。


 ただ、あなたは、また違う嘘をついているんじゃないの?

 先ほどのカナタの告白の驚きから覚めて、わたしの心の中にはカナタへの疑いが育ちつつあった。

 カナタはじっと、わたしのことを見つめている。


「じゃあ、カナタはもう、この家にいる必要はないんだ」


 その言葉は、ただの確認のつもりだった。でも、それがカナタにどう受け止められたのかはわからない。

 わたしの家から出ていけ、という風に聞こえたのかもしれない。

 カナタはちょっと、苦しそうな顔をした。


「……ああ、そうなる。だけど、いま、ぼくにはやらなければならないことがある」

「それは、例の宇宙人を見つけること?」


 それとも、地球人の女の子とお話しをすること?


「関係しているけれど、少し違う。すまないが、君には言えない」


 その答えを聞いて、わたしは不満だった。

 それじゃあ、わたしには何の判断もできない。


「ねえ、トウコ。時間をくれないか」


 カナタが言葉を続ける。


「実は、あと少しだけ、すませておかなければならない仕事がある。昨日も言ったけど、今はまだやりかけで、近くに寄ったから家に帰ってきただけなんだ。そしてそれは、ぼく自身の使命と関係している。その仕事が終わったら、ぼくはこの家を離れることも考えていた。いや、それはぼく自身の意思に関係なく、否応なしにそうなるかもしれなかった。例えぼくらの、この話し合いがなかったとしても」


 その言葉はある種、わたしにはまた別の衝撃をもたらした。

 その仕事を終えた後、カナタはもう、この家にはいられなくなる可能性があった。

 それなのに、今までわたしには、何の話もしてくれていなかった。

 そんなことって、ありえる?


「それは、あと、二、三日の間に決まる。明日からまた少し、この家を留守にする。三日後の夕方に帰ってくるつもりだ」


 そのカナタの発言を聞いているわたしの脳裏から、ある言葉が離れない。


 嘘。


 カナタは今まで、わたしに嘘をついていた。

 今の話は、本当なのだろうか?

 わたしの知らない、あの美しい少女。


 一つ思い浮かんだことがあった。

 外出。わたしの家から離れる。

 つまり、わたしの目から逃れる。

 カナタの言葉が続いている。


「その結果、ぼくはこの家にはいられなくなるかもしれない。そしてもし、ぼくがこの家に残れるのなら、いつまでいていいのか、君にもう一度たずねてみる。……それでいい?」


 カナタの言葉を聞きながら、わたしは小さくうなずいてみせた。

 カナタがいなくなる。それは嫌だ。

 だけどカナタが、わたしに大きな嘘を隠したまま、この家にいつづける方がもっと嫌だ。

 カナタはこの数日、やらなければならないことのために外出をしていたという。なのにわたしは昨日、少女と共にいた彼の姿を目にしている。


 カナタがこの数日で、やらなければならないことってなに?

 美しい少女。わたしの家にはいられなくなるかもしれない。この数日で決まる。


 胸の中に浮かんでくるそんな断片をつなぎあわせながら、あるアイデアを検討しつつ、わたしはカナタに返事をした。


「うん、それでいい」

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