39.セーラー服を着た少女
この数日、ふと感じる寂しさも、カナタの存在をより強くわたしに意識させていた。
彼氏さん。カナタ。大事な人。世間一般では、それを恋人と言うのですよ。
そんな言葉の切れ端が頭の中を右往左往して、わたしはだんだん、訳がわからなくなる。
カナタの挙動は、どんどんと人間らしくなっている。
もしもはじめから、今のようだったら、わたしはたぶん彼を家には連れてくることはできなかった。
最初のうちは、ただ人間世界を知識として知っているだけの、わたしたちとは「ずれ」のある存在だったから、わたしは大して意識もせずに彼と接することが出来た。
そのうちに慣れ、敬語を使うのもやめ、家にいるのが当たり前になってから、カナタの人間味は増していった。
もし今、わたしの記憶がすべて消えて、カナタが宇宙人とも知らず、彼が今のようにわたしに接してくれた場合はどうなるだろう。
彼へ抱く感情は、今とは別なものへと変質するのだろうか?
わからない。想像も出来ないように思うし、想像するのがなんだか怖かった。
道の向こうに駅が見えてくる。そこには多くの人が歩いていた。
わたしがそれに気づいたのは、駅の看板が目に入り、ああ、電車の中も混んでいるかなあと不安に感じたときだった。
目の端に何かが引っかかった。ちらりと見えたそれを、わたしは歩きながら、首を回して目で追った。
カナタ?
一瞬だけとらえた映像が、その印象が、考える間もなく、わたしに直覚させた。
人混みの中に、わずかに高く突き出ている頭があった。
今までその状況の中にいるのを見たことはなかったが、180センチを越えており、平均身長よりも高いカナタの姿は、人混みに紛れていても目立つ。
すでにすれ違っており、わたしはその姿を目の端でとらえている。
数歩、前に進んで、ためらった後に、わたしは駅へと向かう人の列から抜け出した。
わたしが進路を変えている間に、多くの人が、わたしとその、少し突き出た頭との間に立ちふさがっており、すぐには追いつけなさそうだった。
ただ、見失うことはない。
カナタと見られるその男性が、十字路へとさしかかった。
彼は直進を選んだようだった。
そちらは三方向の中でもっとも人の少ない道で、例え彼が歩き続けたとしても、少し走れば容易に追いつける。
わたしも十字路にたどり着き、目の前の人混みが左右へと別れていくのを待った。
視界が開け、わたしが見たものは、たしかにカナタの姿だった。
二十メートルほどの距離の向こうに、カナタはこちらに斜めに向いて、両腕を開いて誰かに何かを話していた。
特に普段と変わった様子もなく、だからこそ、それがカナタであるとわたしは即座に確信をした。
彼の目の前には、わたしよりも小柄な、藍色のセーラー服を着た女の子が立っていた。
長い、まっすぐな黒い髪が伸びている。
わたしにはほとんど背中を向けており、顔をうかがい見ることは出来ない。
彼女は、カナタの言葉の反応するように、何度かうなずいていた。
そうして二人は道を横切るようにして歩き出した。
カナタが道の向こうにある、いくつかのお店の看板が並んでいるビルを指さして移動をはじめる。
女の子をのぞき込むようにして語りかけるカナタの表情は、いつもわたしの話を聞く時のような、真摯な表情をしていた。
女子高生らしいその女の子は、カナタの隣につきしたがっていた。
その横顔がわたしに見えた。
肌の色が白く、目が大きく、鼻立ちが整っている。
遠目から見ても美人だった。
わたしはその場にたたずんでいた。カナタを追う気はもうなかった。
やがて後ろから多くの人が来て、立ったままでいるわたしのことを邪魔そうに追い抜いていった。
それで視界はふさがれ、カナタたちの姿は見えなくなった。
そうして、そこに誰もいなくなった後、わたしは再び、駅へ向けて歩きはじめた。
わたしからはもう、幸せオーラは出ていないんだろうな、と考えながら。




