13.お邪魔します
家の庭に車を止めた後、少し待っててください、と彼に言い残してから、わたしは先に家の中に入った。
わたしの家は、住宅街の一番はずれにある一軒家だった。
買ったものでも、建てたものでもなく、賃借物件だ。
見た目は普通の民家で、二階建てだ。
家の周囲にはコンクリートで出来た灰色の塀が巡らせてある。
庭には木も生えている他、アスファルトで舗装された車を止めるスペースと、その上に雨除けの屋根までついている。
郊外で、車が必須で、若干古びた作りになっているその家は、わたしにはとにかく都合がよかった。
古い物件なので家賃はそう高くはなく、周囲は静かで、散歩道にも事欠かない。
駐車場が別料金でもなく、庭にはまだスペースがあるから、何ならもう一台置くことができる。
ただ、難点もあった。掃除と草むしりだ。
草むしりは、庭のうち、アスファルトで舗装されていない部分から、夏になるとこれでもかいうほどと草が生えてくる。
そちらの方は、やがてわたしが除草剤の使い方をマスターして何とかなったのだが、掃除の方は、未だに苦慮していた。
定期的に掃除はしているのだが、一人暮らしの家としては二階建ての一戸建ては広く、時間もかかる。
一部屋、使っていない部屋があり、その和室の客間には何の荷物も置いていない。
あまり部屋に入らないようにしていたのだが、それでも今は薄く埃が層を形成していた。
先に家に入ったわたしは、その部屋の埃を雑巾で拭き取り、その他出しっぱなしの洗濯物や、流しにおきっぱなしだった食器を片づけ、スーパーから買ってきた物品をあるべきところに収納し、置きっぱなしだったジュースの瓶などをゴミ袋に投げこんだ後、わたしは玄関を出て彼の元へ戻った。
彼はわたしの指示通り車の中におり、車のガラス越しにわたしの家を眺めていた。
彼を連れ、玄関の扉を開けるとき、少しだけ緊張した。
家族以外の誰かがこの家に入るのははじめてだった。
何も言わずにわたしは家の中に入った。
どこで覚えたのか、彼は「お邪魔します」といって、わたしの家に足を踏み入れた。




