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悪役令嬢~千夜一夜~  作者: 旅人
2章 アリサ
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1.アリサという令嬢

「うふふん」


 私は、アリサ・コーワ。コーワ侯爵家の次女で転生者だ。この世界が乙女ゲームの世界で私が悪役令嬢だと思い出したときは混乱し、泣き喚いたのはいい思い出だ。


 元アラサーで事務仕事をしていた私は、まぁ、なんやかんやで神童と名を馳せた私は、12歳のいまでは侯爵家のいくつかの村の税収をチェックする大事な仕事をしている。


 平地では穀物を山間部では酪農をしているコーワ侯爵領の主要生産物は農作物だ。これを領都に集める中間地点となる大事な村々の監察官が私なのだ。


 当然、卸売業や小売業との話し合いは必要だし、町の小さな飲食店まで足りないものがないかと尋ねて歩く。


 転生者の私ならではの細かい心配りといえよう。


 その過程で「いや……税収が苦しくて孤児や貧困層への炊き出しのお金が足りないんだよねぇ」といえば、賄賂……ではなく善意の寄付が集まるのでウハウハが止まらない。


 そして、今日も善意の寄付を集め孤児院にせっせと寄付をした。ここの孤児院長であるおばあさんは私のマブダチなので色々融通してくれる。


 孤児院のおばあさんが代表になり非営利団体を立ち上げ寄付金を管理している。孤児院に2割、その他街道の整備や騎士の巡回にかかる費用の補助に5割、あとは私の個人口座へ入れる手はずだ。


 溜まっていく金額にニマニマしながら、帳簿をごまかしている所にメイドが書類を持ってきた。


 ☆★☆★☆★☆★☆★

 151年度イエスエ王立学園入学に関するお知らせ。


 なりたいを見つける。

 領地運営デビューをする前に、一度学校運営をした君。

 学校や家には期待しない。知識を得たら即起業したい貴族の次男・次女の君。

 貴族とコネクションを持ちたい。平民から成り上がりたい君。


 ここにいる僕らは皆、特別だから。


 イエスエ王立学園に入学してなりたい君になろう。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 簡単に言うと貴族だろうが庶民だろうがエリートになりたきゃ王立学園の卒業証書を取れという話だ。


 競争倍率は高いが、大貴族と呼ばれる伯爵位以上の子供は皆、12歳から中等部へ通うのが慣例になっている。


 ここでは優秀な教師陣をはじめ、大貴族の子息や優秀な人材を求めるスカウト陣と出会うチャンスが広がっている。


 ゲームのアリサはイエスエ歴151年に12歳で中等部に入学。ここで知り合った同級生の第一王子に一目ぼれし、娘に激アマな父コーワ侯爵におねだりして強引に婚約を結ぶという設定だ。


 そして、15歳の高等部から入ったヒロインと出会い真の愛を知った第一王子に、侯爵家の不正を暴かれた上に婚約破棄されるるのだ。


 だが生まれた時から前世の記憶があり神童と言われていた私はこの学園に行く事は……ない。


 赤ん坊の時から大人の頭脳を持っていた私は、8歳で飛び級入学。授業には一切出ないままにレポートと試験だけで高等部を卒業している。


 第一王子を含め高位貴族が揃って入学する今年度は当たり年といわれている。再入学するか、講師としてでもいいので学園に行くように言われているが知ったことではない。


 最初から関わらなければ問題は起きない。


 高い魔力を持ちハイスペックなアリサの体に、庶民だった前世の私が合わさった今どこにも死角はない。


 学園に行ったとしても悪役令嬢物語のようにヒロインざまぁになるのは間違いない。


 でもまぁ、そんな事よりお金集めのほうが大事だよね。


◇◆◇◆


 私はお父様から呼び出された。お小遣いでもくれるのかとウキウキしながら執務室に向かうといつもと様子が違う。


 乙女ゲームの世界では娘に激アマだったのだが、このオヤジ私に時々きついのだ。


「おまえさ。ちゃんと仕事してる?」


「……はい」


 お父様の厳しい視線に、つい視線をそらしてしまった。


「じゃあ、これ何?」


 私に向かって投げられた報告書を見て、額から汗が止まらなくなる。


 孤児院長のババァ私を売りやがった。


「この異常な額の寄付金。まっとうな金じゃないよね?」


「いいえ、市民からの善意の寄付です」


 ここで言いよどんだら負けだと思って言い切る。そんな私にお父様は続けて書類を投げつけてくる。


 侍女からは深夜に帳簿を書き換えていた事、護衛から賄賂集めに歩いていた証言が詳細に書かれている。それに加えて実際に集めた金の流れが正確に記載されていた。


「違います。これは陰謀です」


「そうか、陰謀かぁ……」


「はい」


 汗を気合で引っ込めて、私はニッコリとほほ笑む。


「んな訳ないよなぁ。俺直属の部下からの報告だよ。孤児院長ってマメだからお金のやりとり正確に記帳してたんだよ」


「気のせいです」


「ふざけんなよ!王都から役人きたらお父様でもかばいきれないよ」


 怒鳴り声と共に部屋の中に空気が震えて、ピリピリと肌が痛むよな雷が舞う。


 この男、高位貴族らしく魔力が高い。中でも雷の魔法が得意なのだ。きれると私限定ながら魔法を平気で放ってくる危険人物だ。


 思わず恐怖に体が震えて目に涙が浮かぶ。


「ご……ごめんなさい。お願いだから叩かないで」


 涙をボロボロこぼしながらスカートをギュっと握りしめる。


「ウソ泣きはやめようか。叩こうとしても躱すし、魔法を打っても結界はるよね」


「はい」


 12歳の少女の涙を華麗に無視しやがった。3年前ぐらいまでは涙見せればイチコロだったのに年々通用せずに激高するようになってきた。


 男の更年期障害だろうか?


 お父様の健康のために何か薬でも開発しようと心の中で決意した。


 苦い薬とかプレゼントしよう。


 そうしよう。


「大体なんでこんな事しているのよ?」


「……将来に備えてました」


「は?」


「勘当された時のための貯蓄です」


 本当は少し違うが、今の段階だとこういうしかないんだよねぇ。


 常識違うってマジめんどくさい。


 軽くため息をついていると、まだ説教は続いていた。


「いやいや、なんで勘当するの?」


「ゲーム補正です」


「ああ、この世界が乙女ゲームの世界で、うんたらかんたらって奴ね」


「はい」


「王子とも婚約してないし、俺も真っ当な領地運営しているから没落もくそもないからね。むしろお前の着服のほうが問題だから」


 クソオヤジがため息とともに額に手をやる。


「ちっ」


「何舌打ちしてんの?マジ反省してないの?」


「大変申し訳ございませんでした」


 軽く頭をさげてみたが、鋭い眼光は変わらない。


「もういいよ。おまえ身分かくして国中廻ってきな」


「嫌です」


「嫌じゃねぇんだよ。乙女ゲームとか意味わかんない事じゃなくて、マジでおまえのせいで国からも、商人たちからも目をつけられてんだよ。どんだけの規模で悪さしてんだよ」


「気のせい……」


「テッド・コーワの名をもって命じる。アリサはこれより冒険者となり、暮らしを見つめなおせ。よし追い出せ」


 私の否定の言葉を完全に無視して命令を下す。


「ちょ、待てよ。クソオヤ……」


「きちんと反省したら戻してやるから」


 お父様の言葉でなだれ込むように入り込んだコーワ家の騎士が私を拘束して転移の魔法陣の場所まで引きずっていく。


 あり得ない。令嬢に対する扱いじゃないよね?


「ちょ……待て、マジで。せめて金。金ないと国中廻るの無理だから!!」


 転移の魔法とは町や村に張ってある魔法陣へと飛んでいるのだ。そのため基本的には転移元の魔法陣と転移先の魔法陣を繋げてパスワードを入力すればそれだけで飛ぶことができるのだ。廃村だろうが山のてっぺんだろうが、魔法陣があれば飛んでいける。

 世界中の大都市や要所にはこの魔方陣が設置されている。設置するのには特殊な宝石と膨大な魔力が必要で、一個の魔法陣を作るのに国の宮廷魔術師が総出になるくらい大掛かりなものだ。

 この陣の補助があればどこでも簡単に転移する事ができる。たまに天然の魔力スポットがある。転移の魔法に失敗するとこの魔力の歪みがある場所に飛ばされるのだが、それがどこにあるのかは誰にもわからない。

 そう。重要なのは陣と陣を結ぶ行先。そしてそこにアクセスするためのパスワードの入力。


 これがなければ、魔力がたまり、たまたまアクセスしやすい原野や孤島などに飛ばされる事になる。


 こうして私は乙女ゲームの世界で乙女ゲームとは関係なしに追放された。




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