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魔法は得意ですけど、メイドさんとして頑張ります!  作者: ぺこ菜ほのめ子
第四章 がっこう
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33. 秘密の特訓

 夕食後に後片付けをして、だいたい一日のお仕事はこれでおしまいです。

 残るは、ご主人様のお背中流しと、パジャマにお着替えするお手伝い。(瑠璃さんは、たまに机仕事を夜行うこともありますが)

 砂穂ちゃんがやってきてからも、しばらくの間はお背中流しを、瑠璃さんとわたしの二人でローテーションしていましたが、そろそろ砂穂ちゃんにもこの大仕事を体験してもらいたいと思って、皿洗いを終えて戻ってきた彼女を捕まえます。


「……というわけで、砂穂ちゃん、今日からよろしくお願いします!」


「えっと……ご主人様のお背中を。しかもすっぽんぽんでやるのですか」


「はい! あ、ご主人様はお洋服とか、自分で脱いだり着たりしませんから、そのお手伝いもです!」


 簡単に解説すると、顔を赤く染めて、目線をそらす砂穂ちゃん。


「そ、それは、ちょっと恥ずかしいのです……」


「だめですよー、恥ずかしがってちゃ。裸の付き合いというものなんですから。二人きりの空間で、親睦を深められるんですから!」


 砂穂ちゃんに飛びついて、そんな先輩風を吹かせたことまで言っちゃいます。

 やっぱり、後輩って嬉しいですから。

 わたしは七姉妹の末っ子で、いつも下に見られていたのもありますし!


 そんなやりとりの後、わたしは砂穂ちゃんに連れ立って、執務室を訪れます。

 コンコン、コンコン。砂穂ちゃんがノックをすると、ご主人様がひょっこりと顔を出します。


「あら、砂穂に、七菜じゃないの。ふふっ、今日のマドレーヌおいしかったわよ。ありがとうね」


「そ、それは、どういたしましてなのです。それより、お風呂を……と思ったのですが」


「そうね! そろそろお風呂でゆっくりしたいと思っていたところなのよ。今日は、砂穂が一緒してくれるのかしら?」


「そうなのです。分からないことばかりですが、何卒よろしくなのです」


 つつがなく行きそうでした。

 御役御免なので、わたしは軽く一礼して、この場を失礼しようとして、


「あら。七菜はどこに行くのかしら?」


「どこって……部屋に戻ろうかなと」


「先輩なのに、砂穂を見守らなくてもいいの?」


「あはは、お二人水入らずの時間がいいかなと……」


 あっ、この流れは――

 イヤな予感がします。


「決めたわ。今日は三人でお風呂に入るのよ。で、七菜は砂穂に、しっかりとうちのお風呂のルールを教えてあげる。ふふふっ、というわけで、さっそくお風呂場に行こうかしら?」


 ご主人様は、軽い足取りで部屋を出ました。

 うう……わたしも一緒にお風呂なんですね。

 砂穂ちゃんと一緒に、裸でお風呂。

 ちょっと恥ずかしいですけど、でも先輩として頑張らなくちゃいけないですね……。


    *


 入浴が終われば、ようやく自由時間になります。

 まれにご主人様に呼び出されることもありますが、本当にまれです。「ココアが飲みたい」というお願いを、瑠璃さんが何度か受けているのを見たくらいです。

 なので、わたしが魔法の特訓を行うのは、主にこの夜の時間帯と、休日の空いた時間でした。

 場所は二階の空き寝室。

 姿見も置いてあるので、自分の魔法を観察するときに重宝するのです。


 で、砂穂ちゃんがやってきてからというもの、この夜の寝室も幾分かにぎやかになりました。

 これまでは一人でひたすら魔法の練習を行っていたのですが、今やわたしの「弟子」が、ここで特訓を受けているのですから。


「木の精霊さんたちよ、私に自然の恵みを授けてくださいなのですっ!」


 そのようにして、精霊に呼びかけると、砂穂ちゃんの目の前には青々しいいがぐりが四五個ほどドサドサッって落ちてきます。トゲトゲしていて、当たったらめちゃくちゃ痛そうです……。


「うん。すごくいい感じですよ、砂穂ちゃん!」


 それはさておき、砂穂ちゃんの魔法レベルは確実に上昇しつつありました。

 初めは木の精霊に呼びかけて、どんぐりしか召喚できなかったのが、今では枝や葉や木の実、そしてこんなとげとげしいいがぐりまで呼び出せるようになりました。

 実は、今日の栗ご飯も、魔法で呼び出したいがぐりを使っていたり……。


 どんな魔法でも、精霊に関わる物質を呼び出すことが基本になります。

 火の魔法使いなら火を、水の魔法使いならば水を、光の魔法使いならば光を発生させて、それを加工するのです。

 ただ木の精霊魔法は加工が難しい代わりに、他の精霊魔法と違って様々な種類のものを呼び出すことが可能でした。

 その中でも、人間が生きる上で必要不可欠な食物を呼び出せるのは案外大きいです。

 昔は、旅のお伴に水と木の魔法使いがいれば、水分・食料の心配はしなくても大丈夫と言われていたようです。

 今では、戦場の補給部隊に、そのような魔法使いが重宝されているとか……。(砂穂ちゃんを戦場に行かせるなんて、わたしは絶対に許しませんけど!)

 逆に、火・雷・氷の魔法のように、いわゆる「エネルギー」となる物質を呼び出せないのが弱点となるのでしょうか?

 産業的には、あまり木の魔法は重要視されていないのが実情みたいです……。

 うーん、どの魔法も一長一短で難しいですね。


 床に落ちたいがぐりを、用意しておいたバケツの中に慎重に入れます。おそらく、また明日の食卓に出てくるのでしょう。


「じゃあ、そろそろ次のステップに進もうと思うんですが、準備はできていますか?」


「次のステップですか?」


「砂穂ちゃん、すっごい要領がいいですから、召喚以外の魔法もそろそろいけるかなって思ったんです」


 わたしは部屋の隅に、薄桃色の花を咲かせるコスモスの植木鉢を用意していました。


「近くに存在する植物の生長を早めたり、枯れた植物に再度力を与えたりする魔法を覚えようと思います」


「そ、そんなことができるのですか?」


「もちろんです!」


 数ある魔法の中で、この魔法を選んだのは理由がありました。

 一つは、借りる精霊の力こそ違えど、わたしも似た魔法が使えるからということ。

 そして二つ目は、植物に力を与える魔法は、発展していけば、自然の力を借りて、傷ついた対象を癒やす魔法の習得までいけると考えたからです。

 回復系の魔法って、主に水・土・木の魔法使いが習得できるらしいのですが、なかなか難易度が高いらしく、もし習得できれば砂穂ちゃんにとって大きな財産になると思ったんです。


 わたしは砂穂ちゃんに植木鉢を手渡します。

 イヤイヤという感じで遠慮がちに受け取ると、瞬間、花びらが一枚はらりと床に落ちました。

 呪いのせいです。

 彼女に植木鉢を床に置いてもらってから、わたしはいつものように光の精霊に声を掛けます。

 木漏れ日のようなおだやかな光が花の周囲を渦巻いて、そして時間が巻き戻ったかのように、コスモスの花は一枚も欠けることなく満開になるのでした。


「これが――」


「植物に力を与える魔法です!」


 砂穂ちゃんはこの魔法を目の当たりにしてから、わなわなと全身を震わせていました。


「すごいのです。私、絶対この魔法覚えたいです。そうすれば、呪いで花を傷つけても、元通りに戻せるのですから」


「そうですね! じゃあ砂穂ちゃん、さっそく練習してみましょう!」


 ――魔法のコツってなんなのでしょう?

 最近、訓練をしたり、砂穂ちゃんに教えてあげる中で、いろいろと考える機会がありました。

 やっぱり大事なのは、精霊と仲良くする気持ち、そして強いイメージ力なのだと感じます。

 今回のような、花を再び咲き誇らせる魔法ならば、精霊の力が花の中を入り込んで、ぐるぐると内部を循環して力を与えて、そして時間が巻き戻って花が咲くイメージ。

 単純に、物質を召喚する基本の魔法と比べると、格段に難しくなっています。


 でも、その点、砂穂ちゃんは大丈夫だと思っています。

 心の底から自然を大事にしていて、自分に降りかかった呪いを心の底から悔やみ、花のために魔法を覚えたいと願う彼女なら――。


「木の精霊さんたちよ、お花をもう一度、凛と咲かせる力を与えてくださいっ!」


 花弁に触れて、もう一度花びらを落としたコスモス向けて、砂穂ちゃんは魔法を唱えました。

 伸ばした両手のひらから、エメラルドグリーンのもやが放たれて、黄色いコスモスの中心部へと飲み込まれていきました。

 わたしも砂穂ちゃんも、固唾を呑んで静かに結果を待ちます。

 そして五秒ほど経過して――コスモスの花がかすかに震えて、失った一枚の花びらをもう一度咲かせるのでした!


「や、やったの……ですか?」


 花と自分の手のひらを交互に見比べて、落ち着かない雰囲気の砂穂ちゃん。


「ええ、やったんですよ! 砂穂ちゃんの想いが通じたんです!」


「ホントに、お花が元に戻って――」


 突然、彼女はその場にくずおれてしまいました。


「す、砂穂ちゃん!?」


 わたしは急いで側に駆け寄ります。

 慣れない魔法の使いすぎで、体力と気力が奪われて、立っていられなくなってしまったのだと思ったからです。


「大丈夫ですかっ!?」


 体を起こしてあげると。瞳に涙の雫を浮かべてることに気がついてしまいました。

 まさか、泣くほど苦しいんじゃ――!?


「……だ、大丈夫なのですよ。ただ――嬉しくて、それで涙が止まらないのです」


「嬉しくて?」


 意外な言葉でした。

 砂穂ちゃんは、こくりと頷いて、


「こんな早くにすごい魔法が使えるようになって、嬉しすぎて涙が止まらなくなってきたのですよ。

 学校の授業を真剣に聞いて、寮でもこっそりと魔法の練習をして、でも結果ができなかったのは、魔法の習得には時間が掛かるんだって自分に言い聞かせていました。でも七菜さんと出会って、魔法が使えるようになって――全てが変わりました。もともと、私、騙されていましたのですから。

 七菜さんがもし助けてくれなかったら、私、どうなっていたんだろうって感じるんです。出会う前の私と、出会った後の私を比べると、そのギャップが大きすぎて……七菜さんは、私の師匠であって、大恩人なのです!」


「そんな! 大恩人なんて――」


 こそばゆくって、顔がポッと熱くなります。


「ところで、七菜さんはどうして私なんかを選んだのですか?」


 確かに、魔法クラスには多くの生徒が在籍しています。わたしの本来の目的は、お屋敷で働いてくれるメイドさんを探すことだったので、女の子に限定してもかなりの数がいます。

 でもその中で砂穂ちゃんを選んだのは、やっぱり――


「お花を大事にする人に悪い人はいないと思いまして。そして、それはやっぱり正しいみたいでした!」


「……そうだったのですか」


 砂穂ちゃんは、エプロンのポケットからピコレースの可愛いハンカチを取り出して顔を拭って、


「お母さんの言うとおりなのです。もともと、わたしが植物や動物が好きなのは、お母さんの影響なのですよ。それを大事にすると、いいことがあるって言われて育ってきましたから」


「そうなんですね。……聞きたいです、砂穂ちゃんの故郷のこと」


 姿を消す魔法を使って、家族関係とかそういった漠然としたことは理解していましたけど、過去の思い出とか、そういったつながりまでは知りませんでした。


「……別に、構わないのですよ」


「ホントですか? ありがとうございます! じゃあ今日、ベッドで一緒におしゃべりしませんか?」


「分かりましたなのです。……それから、できれば七菜さんとか、瑠璃さんのことも知りたいのです。私、二人のこと、まだよく知りませんから」


 以前ご主人様に、瑠璃さんとわたしが、お互いのことを全然話していなくって、すごく呆れられたことを思い出します。

 そうですよね、もっともっと側にいる人のことを知らないと。

 だってわたしたちは、一つ屋根の下で生活する、家族のような存在なんですから!

第四章 がっこう おしまいです。

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